美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その8)

2019年06月29日 23時18分58秒 | 経済

ベン・バーナンキ

*今回のパートⅠ「嘘っぱち#1」では、財政支出の財源についての「常識」「通説」の致命的な誤りと課税の本質とが語られます。「嘘っぱち#1」はとても長いので、何回かに分けて掲載することにします。最後に登場するFRB議長バーナンキの証言がけっこう生々しいですよ。

パートⅠ:とんでもない無知による7つの嘘っぱち

嘘っぱち#1:
連邦政府は、支出するためには、課税や国民からの借り入れを通じて財源を増やさなければならない。別言すれば、政府の支出額は、その課税能力や借り入れ能力によって制限されている。

事実:
連邦政府の支出は、どんな場合でも、運用上の制限を収入から受けていない。これは、“支払い能力上のリスク”などまったくないことを意味する。別言すれば、連邦政府は、たとえ財政赤字がどれほど多額であろうとも、もしくは、税収がどれほど少なくても、自国貨幣で、つねにすべての支払いをすることができる。

私がこれまで何度もそうしたように、議員のだれそれに、あるいは、市井人に以下のように尋ねてみましょう。すなわち、財政支出はどうやってうまく回るのでしょうか、と。彼らはきっぱりと言うでしょう、「政府は、財政支出をする財源を得るために、課税するかもしくは国民から借り入れをしなければならない。それは、家庭が支出するためには、どうにかしてお金を得なければならないのと同じだ」と。で、保健医療や国防や社会保障やそのほかなんであろうと政府の支出について、次のような疑問が避けられなくなってきます。

財源はどうするんだ???!!!

これは、殺し文句であり、一見誰も正解が見つけられない問いのようであります。この問いにきちんと正鵠を射た形で答えようとすると、それは、本書を書くよう私をうながしたもの、すなわち公益の核心を突くことになります。

本書を読み終わったら、あなたは、理論や哲学ではなくて2,3の冷徹な諸事実によって、正解を目の当たりにすることでしょう。私は、政府がどうやって課税するのかを直視し、財政支出の流れをきちんと確認することによって、この問いに答えます。

連邦政府は、どのようにして国民から税金を取るのか?

さて、もしもあなたが小切手を切ることによって税金を支払うなら何が起こるのかを見届けることから始めましょう。連邦政府があなたの小切手を受け取り銀行に預け換金するとき、政府は、あなたの銀行残高からあなたの小切手の額面を差し引くだけ、つまり、あなたの銀行口座の数字を変えるだけなのです。政府は、実際のところ、だれかほかの人に与えるために、なにか実物を手に入れるのでしょうか。いいえ。支出するために金貨を手に入れるようなことはまったくありません。あなたは実際には、オンラインバンキングで、いま述べたことが起こるのを見ることができるだけなのです。すなわち、あなたのパソコンの画面であなたの銀行口座の残高を見ることができるだけなのです。

あなたの銀行口座の残高が5000ドルだったとしましょう。そうしてあなたは、政府に対して2000ドルの小切手を切った。その小切手がコンピューターの処理を通して換金されたとき、さて何が起きるでしょうか。「5」という数字が「3」に変わり、あなたの残高は、3000ドルに減る。むろん、あなたの目の前で!政府は、ほかのだれかに与えるために実際に何かを「手に入れた」わけではありません。FRBのバケツに金貨がジャラジャラと入ってきたわけではありません。政府は、ただ国民の銀行口座の数字を変えただけなのです。だから、何かがどこかに消えたわけではありません。

では、あなたが数字ではなくて現金で税金の支払いをするためにあなたの地元の内国歳入庁の出張所に行ったとしたら、どうなるのでしょうか。まずあなたは、現金を納税担当で勤務中の職員に手渡します。次にその職員は受け取った現金を数え、あなたに領収書を渡します。その職員の気立てが良かったなら、あなたに、社会保障や国債の利払いやイラク戦争への貢献に対する謝意を表するかもしれません。で、納税者であるあなたが部屋を後にした後、その職員は、あなたがしぶしぶ払った、苦労して稼いだ現金を持って行き、シュレッダーにかけてしまうのです

そう、現ナマは破棄されてしまうのです。破壊されてしまうのです!なぜかって?それは、もはや使い途がないから。ちょうど、スーパー・ボウルのチケットのように。あなたがスタジアムに入って、係員に(たぶん1000ドルの価値のある)チケットを手渡した後、係員は、それをびりびりに破って捨てますね。実際、あなたは、ワシントンD.C.でシュレッダーにかけられたお札を買うことができますよ。

破棄される現金が、いったいどうやって社会保障やそのほかの政府支出に使われるのでしょうか。無理な話ですね。これで、政府が財政支出をするために課税によって財源を得なければならないと考えることはまったく意味がない、ということが分かりますね。どんな場合でも、後で使われるべき何かを「手に入れる」ことは現実問題としてまったくない。だから、政府が課税するとき実際にはなにも得ないのです。

では、連邦政府はどうやって財政支出をするのでしょうか。

あなたが、自分の2000ドルの社会保障関連の支払いが自分の銀行口座に舞い込むのを期待しているとしましょう。あなたの直近の銀行口座残高は、先ほどの流れからすれば3000ドルです。あなたが、パソコンの画面の自分の口座を見ているなら、政府がどうやって財政支出のためになにも手元になくても支出をするのかが分かります。なんと、あなたの口座は3000ドルから突然5000ドルに変わります。あなたに2000ドルを与えるために政府は何をしたのでしょう。政府は、金貨をパソコンにハンマーで打ち込んだわけではありません。政府は、銀行制度のほかの表計算ソフトウェアとつながった自分たち自身の表計算ソフトウェアにデータ入力をすることによってあなたの銀行口座の数字を変えただけなのです。政府の財政支出は、“合衆国ドル通貨制度”と呼ばれる自分自身の表計算ソフトウェアへのデータ入力によってすべて実施されているのです。

FRB議長ベン・バーナンキの公的発言からの引用をします。

スコット・ペリー:それは、FRBが支出している税収から得られたお金なのでしょうか。
議長バーナンキ:いいえ、違います。市中銀行は、FRBに口座を持っています。それはあなたが商業銀行に口座を持っているのと同じようなものです。それで、市中銀行に貸し付ける場合、われわれFRBは、単に、パソコンを使って、FRBに市中銀行が持っている口座に数字を記入するだけです。
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MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その7)

2019年06月26日 18時31分53秒 | 経済


*以下は、当時のアメリカが、リーマン・ショックによって引き起こされた「100年に一度」の大不況の最中にあったことを頭の片隅に置いて読むとリアリティが湧いてくるものと思われます。FRB議長バーナンキの大胆な金融緩和が脚光を浴びていましたね。
〔イントロダクション〕
本書の目的は、アメリカの繁栄の復活を促進することです。私は、例の「7つの嘘っぱち」が今日の困った経済状況とアメリカの繁栄の復活の間に立ちはだかっていると主張します。

本書を出版してから、私は、道義心からたったひとりで、私が住んでいるコネティカット州で上院議員を応援する運動をしています。私は、次に掲げる3つの提案でアメリカの繁栄の復権を実現するために私が作成した国家目標を推進しようと動いています。

一つ目の提案は、いわゆる「全給与税の免除期間」の設定です。
*所得税(income tax)は被雇用者のみが負担するのに対して、給与税または給与支払税(payroll taxまたはemployment tax)は雇用者側も負担があります。
それによって、合衆国の財務省は、生きるために働いている人々から一週あたり総額200憶ドルの取り上げをやめることになります。その代わり、雇い主と被雇用者の双方への連邦保険寄与法に基づく支払いがなされることになります。一年間にふたりで10万ドル稼いでいるアメリカのカップルは一月当たり650ドル以上手取りの給料がアップします。そのアップ分を家のローンの支払いに充てて、お金のやりくりの危機的な状況から脱却し、家に安心して居続けることができるようになるかもしれません。あるいは、臨時の手取り分はみんなが請求書の支払いをしたり、ショッピングを楽しんだりするのをうながすかもしれません。それは、アメリカ人が昔の当たり前の生活の仕方に回帰することなのです。

私の二つ目の提案は、連邦政府が州政府に一人当たりの税収につき500ドルを――紐付きではない形で――分け与えることです。これによって州政府は窮地を切り抜けられるし、欠くことのできない公的サービスを維持することもできるようになります。全給与税の免除期間によって生み出される臨時の手取り分がもたらす人々の出費に基づく購買力と数百万の新たな仕事口は、経済活動を復活させ、連邦政府の税収は、リーマン・ショック以前の状態にまで回復することでしょう。

私の3つ目の提案は、連邦政府資金による時給8ドルの、みんなが喜んですることのできる仕事に就くことを通して、アメリカの復権を強く求めることです。この計画の第一の目標は、失業者を民間部門の雇用に導くことです。全給与税の免除期間と州政府への税収のシェアリングは、停滞する経済活動の即効薬になることでしょう。民間部門の雇用者たちは、彼らの生産物を求める需要の高まりに直面して、数百万人を即座に雇い入れようとするでしょう。過去の不況において、長期間の失業状態にあった人々はもっとも魅力がない存在だったので、企業は彼らを雇い入れることに消極的であることが判明しました。過渡的な雇い入れは、こういう人々を労働力に引き入れることでしょう。そうすれば彼らは、自分たちに何ができるかを、また、自分たちが責任感にあふれていて、時間通りに始業することができることをも示すチャンスが与えられるでしょう。このことは、民間部門での仕事にありつくのが難しかった人々に仕事を得る機会を与えることでもあります。そういう人々には、仕事を失って自分たちの失業手当給付金を使い果たしてしまった中年の人たちと同様に、危険性の高いティーン・エイジャーや出所したての人々や身体障害者や老人も含まれます。この計画は、私の3つの提案のなかでいちばん金がかかりません。また、経済が成長するのにしたがって、民間部門の雇用を円滑に最適化するのにも重要なものです。

では、これらの提案を推進するために、私はどのように比類なき資格を与えられるのでしょうか。私の提案が正鵠を射たものであるという確信は、金融経済界での40年間の経験に基づいています。私は、以下の質問に答えうるおそらくただひとりであるとあえて申し上げましょう。すなわち、「おまえはどうやってその膨大な支出をするというんだい」という質問に。本書は、この問題と真正面から取り組んでいます。また、経済学が今日の貨幣制度の操作可能な現実と取り組むことに勇気を与えます。

*次回からいよいよ本文に入ります。
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MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その6)

2019年06月23日 20時21分58秒 | 経済

*よく見かけるフレーズです。MMTの流布によって、「将来世代」のためにこそ駆逐されるべき愚論です(上記の議員候補(当時)に、何の恨みもないことは申すまでもありません)。

〔要約〕
「経済政策をめぐる、すさまじい無知にもとづく7つの嘘っぱち」を列挙します。
1. 政府は、新たに財政支出をするためには、課税するかもしくは国債を発行して財源をその分増やさなければならない。別言すれば、政府の支出額は、課税したり国民から借り受けたりする能力によって限定される。
2. 私たちが財政赤字を残すことは、次世代の子どもたちに借金の重荷を背負わせることである。
3. 政府財政赤字は、その分民間の貯蓄を奪い去る。
4. 社会保障制度は、破綻している。
5. 貿易赤字は、自国の仕事と生産を奪い去る持続不能の不均衡である。
6. 投資の元手を供給するために、われわれは貯蓄をしなければならない。
7. 今日における財政赤字の増加は、明日の増税をもたらす。

*7の原文は、「It’s a bad thing that higher deficit mean higher taxes tomorrow」です。直訳すると焦点がぼやけるので思い切った意訳をしました。それが、全体の方針でもあります。

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MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その5)

2019年06月22日 18時39分17秒 | 経済


*〔プロローグ〕の後半です。最後まで訳してしまいましょう。

(ボルガ―の失敗の後)マネタリストたちは、金融政策を、お金の量の何かしらの尺度というよりむしろ金融政策の手段としての利子率を操作する政策である、と素早く定義し直しました。そうして「インフレ予想」がインフレの原因のリストのトップに躍り出てきました。むろん、お金の供給はもはや派手な役回りを演じることがなくなりました。興味深いことに、経済を規制するための利子率の操作を唱道する彼らの数学的なモデルのどこにも「お金」は顔を出していません。

経済がひどい不況下にあるとき、政治家たちは、事務所に居ながら、雇用の増加という端的な結果を求めます。彼らは、当初、FRBが利子率を下げるのを見守り、辛抱強く低い利子率が何かしらの「お金のつぎ込み」をもたらすのを待っています。不幸なことに、低い利子率は、どうにも「お金のつぎ込み」をもたらしそうにありません。

やがて、失業率の上昇によって、国会議員や大統領の再選が危うくなってくると、政治家たちは、減税や財政支出の拡大というケインズ政策に傾いてきます。これらのケインズ政策は、中央銀行や正統派経済学者たちの激越な反対と禍々しい予測の集中砲撃のなかで実施されることになります。

1973年の二番底の大不況の最中、「われわれはいまやみなケインジアンである」と宣言したのは、リチャード・ニクソンでした。

ニクソンのこの有名な声明にもかかわらず、ガルブレイスらのケインジアンは、1970年代の「大インフレ」がアメリカ人を震撼させたとき、マネタリストに負けました。経済政策は、FRBに主導権が握られるようになり、利子率の操作が、「スタグフレーション」下の米国経済では最も効果的なやり方であるということになったのです。「スタグフレーション」という造語は、不況と物価高とが同時進行している経済状態を形容したものです。

私は、1973年に、コネチカット州のマンチェスターというわがホームタウンにあるマンチェスター貯蓄銀行に入り、滞納ローンの集金を担当する仕事をしました。1975年までに、当行の資金配分を担当する支配人になり、76年にウォール街に行き、78年まで証券取引所の立会場で働きました。当時私は、ウィリアム・ブライア&カンパニーに雇われていて、社債部門で債券裁定取引を担当していました。

*裁定取引と訳したarbitrageは、もともとはフランス語で、現物と先物などの金利差や価格差を利用した売買を行い、利鞘を稼ぐ取引のことだそうです。一例を挙げれば、同じ商品が、現物市場で安くて先物市場で高い価格で取引されているとき、現物市場で買い先物市場で売ること。

私が1982年に自分自身の基金をスタートさせたのは、そのときでした。当時の私は、あの「大インフレ」を、OPECの価格上昇圧力によってもたらされたコスト=プッシュ型のインフレとして目撃しました。OPECは、「大インフレ」をもたらすべらぼうに高い価格を設定するカルテル(企業連合)の外観を呈していました。

*それに続く「and a simple supply response that broke it」がうまく訳せないのでペンディングにしておきます。「 it」が何を指すのか、どうもはっきりしないのです。

OPECが原油の名目価格を1970年当初の一バレル当たり2ドルからおおよそ10年後には一バレルあたり約40ドルに釣り上げたとき、私は二つの考えうる結果を見届けることができました。一つ目は、「大インフレ」はけっこう値打ちのある物語であり続けたということ。どういうことか。合衆国の物価水準は、かなり低いままだったのです。なぜか。人々は石油やガソリンにより多くを支払ったので、ほかの商品に対する需要が減退し、それらの多くの物価が弱含みになったのです。賃金や給料はあまり変わらなかったのですから、そうなります。この事態は、貿易高と生活水準の急激な後退と、石油を輸出する側の貿易高と生活水準の大幅な改善とを意味します。

二つ目の結果は、全般的なインフレが続いて起こったということです。それで、OPECは一方では石油の値段をさらに釣り上げましたが、他方では、欲しいものを買うためにより高い額を支払わなければならなかったのです。一バレル当たり10ドルと5ドルの間で石油価格を設定した後、貿易額の実質はたいてい違わないままだったのです。ちなみに、一バレル当たり10ドルと5ドルの間という石油価格の設定は、10年間以上維持されました。

そういう経済状況を観測しているなかで、私は、金融の引き締め政策が物価高抑制という結果をもたらしたところをまったく目撃しませんでした。その代わりに、1978年の天然ガスの規制緩和によって、天然ガス価格が値上がりするようになりました。それゆえ、天然ガス井が増えることになりました。アメリカの電気公益事業諸会社は、燃料をバカ高い石油からより値段の低い天然ガスにシフトさせるようになりました。OPECは、一バレル当たり30ドルを下回るようになった石油価格を下支えするために速やかな生産減を実施しました。一日当たり15億バレル以上の生産減を実施したのですが、それでも十分ではなくて、OPECは、石油過剰生産の海で「溺死」することになりました。他方、電気公益事業は、石油以外の燃料にシフトし続けたのです。

さて、本書は、3つのセクションに分かれています。パートⅠは、すぐさま、私が提示する7つの「無知による嘘っぱち」が国家の繁栄にとってもっとも深く埋め込まれた障害物であることを明らかにします。それらを理解するのに、ある意味で、貨幣制度や経済学や会計学についての予備知識や理解は必要ではありません。7章のうちの最初の3章は、連邦政府の財政赤字を扱います。第4章は社会保障を扱い、第5章は国際貿易に触れます。第6章は貯蓄と投資に触れ、最後の7章は、連邦政府の財政赤字の話題に戻ってきます。第7章が、本書の核心的なメッセージです。

本書の目的は、わが国が直面しているこれらの批判的論点についての普遍的な理解を進めることです。

パートⅡは、私が金融界に身を置いてきた30余年間を通じて、これらのとんでもない無知による7つの嘘っぱちに対する理解が深まってきたプロセスを扱います。

パートⅢで、私は、とんでもない無知による7つの嘘っぱちで得た知識を今日的課題に当てはめてみます。

パートⅣで、私は、わが国が、自国の経済的潜在能力を引き出し、アメリカン・ドリームの復権を図る特別な行動計画を提示します。

2010年4月15日 ウォーレン・モスラ― 
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MMTの変わり種・モスラーの『経済政策をめぐる7つの嘘っぱち』を訳してみました(その4)

2019年06月21日 18時33分36秒 | 経済

ジョン・K・ガルブレイス

*ガルブレイス教授の〔序文〕の次は、モスラ―の〔プロローグ〕をご紹介します。
〔プロローグ〕
「悪意なき欺瞞」という言葉は、ジョン・ケネス・ガルブレイスが、最晩年に書いた『経済学の悪意なき欺瞞』から引用したものです。ガルブレイスは、2004年94歳で本書を書きました。彼が亡くなる2年前のことです。ガルブレイス教授は、正統派経済学者やメインストリームメディアやほとんどすべての政治家が正しいものと信じ込んでいる、誤謬にみちた仮定・学説を描き出すために、その言葉を使ったのです。

エレガントで痛烈なウイットに満ちた「悪意なき欺瞞」という言葉には、その欺瞞は単に悪いものであるということのみならず、彼らエリート連中は自分たちが本当のところ何をなそうとしているのかをきちんと理解しうるほどには賢くないことも含意されています。そうして、彼らの優越感に満ちた妄信に基づく主張のかずかずは、意図的な欺瞞と考えられないほどの自己差別の承認をもたらします。
*上記の「自己差別」は、self-incriminationの訳です。「自己を有罪に至らしめる証言」という意味の法律用語です。

ガルブレイス経済学の諸見解は、1950年代から60年代にかけて広く支持を得ました。当時発行された『豊かな社会』と『新しい産業国家』は、ベストセラー作品となりました。彼は、ケネディ政権やジョンソン政権とつながりを持ち、1961年から63年までアメリカ大使としてインドに赴任しました。帰国後は、ハーバード大学の最も著名な経済学の教授になりました。

ガルブレイスはケインジアンであり、財政政策のみが消費力の回復をもたらしうると信じていました。財政政策とは、経済学者が減税もしくは支出の拡大と呼ぶものです。支出の拡大は一般的に、経済学者が総需要と呼ぶものです。

ガルブレイスの学問上の天敵であるミルトン・フリードマンは、いわゆる「マネタリスト」として知られているところの、ガルブレイスとは異質の学説を唱えました。

マネタリストは、以下のように信じています。すなわち、連邦政府はいつでも収支が一致する均衡予算をキープし、彼らが金融政策と呼ぶものを実施し、経済を規制すべきである、と。もともと彼らのいわゆる金融政策とは、お金の供給量をゆっくりと着実に増やしてインフレを抑制すること、および、そうすることで経済を自由市場に任せることを意味しました。

しかしながらマネタリストは、結局のところ、お金の供給量の尺度を思いつくことができませんでした。また、連邦準備制度は、実験を重ねてみたけれど、お金の尺度を実際的にコントロールする方法を見つけることができませんでした。

ポール・ボルガ―は、お金の供給量を直にコントロールしようとした最後のFRB議長でした。
試行錯誤の長年月の後、彼の試みは、ほとんどのFRB関係者が長い間信じ続けてきたことを単に実演してみせだだけのものだったこと、および、お金の供給量をコントロールする手段など実はなかったことを明らかにしただけでした。万事休す、だったのです。

*次回は、「プロローグ」の後半です。
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