美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

「ホモソーシャル」というヘンな概念にしがみつく人たち (兵頭新児)

2015年11月27日 20時02分13秒 | 兵頭新児
「ホモソーシャル」というヘンな概念にしがみつく人たち (兵頭新児)
*兵頭新児氏は、(正真正銘の?)オタクの立場から、フェミニズム批判を展開し続けているユニークな論客です。また日々、ツイッターでフェミニズム勢力と丁々発止のやりとりをしていらっしゃい...



兵頭新児氏の、斬新な切り口でのフェミニズム批判が展開された論考を再掲載します。当論考は、当ブログ人気ベスト10にしょっちゅう登場します。
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「ローマ法王、決意のアフリカ初歴訪」報道をめぐって (美津島明)

2015年11月27日 13時53分06秒 | 政治
「ローマ法王、決意のアフリカ初歴訪」報道をめぐって (美津島明)



昨日、ローマ法王のアフリカ歴訪にまつわって日本のマスコミの悪口めいたことを口走ってしまいました。しかし、二六日二三時付の産経ニュースが、次のように、きちんと報道しているのを、先ほど目にしました。宮下日出男記者による、一字の無駄もない、必要にして十分な字数の模範的な記事内容であると感服しました。ごらんください。

ローマ法王、決意のアフリカ初歴訪「神の名で暴力は正当化されず」直接、平和を語りかける モスクも訪問

 【ベルリン=宮下日出男】ローマ法王フランシスコは26日、訪問先のケニアの首都ナイロビで「神の名を使って憎しみや暴力が正当化されてはならない」と述べ、欧州やアフリカで相次いでいる過激派によるテロなどを批判した。現法王のアフリカ訪問は即位後初めて。ケニアに続いてウガンダや中央アフリカを訪れる。いずれの国でもテロがしばしば発生しており治安面で懸念はあるが、自ら訪れて平和を訴える意向だ。

 法王は26日、イスラム教指導者らとの対話の際の演説で、「あまりにも多くの若者が不和や恐怖をまき散らすため、過激化している」と述べ、「(宗教指導者は)人々が平和に暮らす仲介者であることが重要だ」などと訴えた。

 パリ同時多発テロでは、過激化した若者のテロが改めて注目された。ケニアでも4月、ソマリアのイスラム過激派組織アッシャバーブが大学を襲撃し、148人が死亡した。同組織はケニアのソマリア国連平和維持活動への参加に反発しており、ケニアでは過激派に若者が影響を受けることも課題になっている。

 在位中の法王のアフリカ訪問は先々代のヨハネ・パウロ2世以来。世界のカトリック信者約12億人のうちアフリカは約2億人を占め、法王は信者らに直接、平和や貧困問題の克服などを訴えたい考えだ。

 一方、訪問先の国々は警備に全力を挙げている。ケニアは警官約1万人を動員し、法王の移動時には一部道路も封鎖した。同様にソマリアの平和維持活動に参加し、アッシャバーブの標的にされるウガンダも、警官1万人以上を投入して厳戒態勢を敷く方針だ。

治安面の不安がさらに強いのが中央アフリカだ。キリスト教徒主体の民兵組織とイスラム教徒の反政府勢力の衝突が続くが、法王は首都バンギの危険地域にあるモスク(イスラム教礼拝所)も訪れる予定。同国駐留中の仏軍は一時、法王庁に予定変更を促したともされる。

 ただ、法王の決意は固いようだ。往路の機中、治安の問題を問われた法王は「心配するのは蚊だけだ」と冗談をまじえて答えた
。』
http://www.sankei.com/world/news/151126/wor1511260049-n1.html

昨日アップした論考で、私は、法王には並々ならぬ決意があるにちがいない、という意味のことを申し上げましたが、この記事によれば、それはどうやら事実であるようです。「治安の問題を問われた法王は『心配するのは蚊だけだ』と冗談をまじえて答えた」とありますが、その発言が「冗談」として通じるほどに、歴訪先が危険であるということにもなるでしょう。また、その「冗談」は、かえって法王の並々ならぬ決意を際立たせる、迫力のある言葉である、とも感じられます。

また、ケニアでさえも相当に危ないのに、次の訪問先であるウガンダも同様の危なさであり、その次の訪問先である中央アフリカは、「治安面の不安がさらに強い」との由。キリスト教徒主体の民兵組織とイスラム教徒の反政府勢力の衝突が続くという。

そういう、きわめて危険な状況下で、法王は「神の名を使って憎しみや暴力が正当化されてはならない」と発言しているのです。心地よくて安楽な安全圏から「美しい言葉」を発しているのではないのです。カトリック信徒ではない私でさえも、深く心を動かされるのですから、ましてや、日々危険と隣り合わせの状況下で怯えながら暮らしているにちがいない現地のカトリック信徒がどれほどに、法王の姿と言葉によって勇気づけられ励まされることか、想像するに余りあります。

ここまで書いているうちに、私は次のようなことに思い当たりました。

記事にあるように、世界のカトリック信者約12億人のうちアフリカは約2億人を占めています。フランス大統領は、反ISIL包囲網を強化するために関係諸国を歴訪しているのですが、そのような包囲網が強化され、ISILへの空爆がすさまじくなればなるほどに、EUへのテロの危険性が高まるのみならず、報復の術(すべ)を持たないアフリカの2億のカトリック信者もまた、無防備なまま、イスラム原理主義のテロの危険にさらされることになります。

欧米諸国の指導者たちよ。君らの反ISIL包囲網によって、アフリカの2億の同胞が、無防備な状態でテロの脅威にさらされることになるのだ。そのことに、君たちは気づいているのか。それは、どうでもいいことなのか。アフリカの2億のカトリック信者は、君たちの同胞ではないとでもいうのか

ローマ法王フランシスコは、欧米社会の指導者たちや、カトリック信者や、さらには、キリスト教徒たちに、そうして結局は人類に、そう訴えかけているのではないでしょうか。この問いかけに、すらすらと返答できる者は、おそらくそれほど多くはないものと思われます。

イスラム原理主義のテロ問題がいかに深刻で解決困難なものなのかを、骨身にしみて徹底的に感じることが、当問題を考えるうえでの出発点である。そう、私は考えています。
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ローマ法王、ケニアを歴訪す (美津島明)

2015年11月26日 00時15分10秒 | 政治
ローマ法王、ケニアを歴訪す (美津島明)



今日のBBCワールド・ニュースをぼんやりと観ていての感想。

今日のBBCワールド・ニュースは、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王がアフリカのケニアを訪れたことを、繰り返し報道している。法王は、ケニアに向かう飛行機のなかで、記者たちのインタヴューに答えて「宗教的和解を伝えるつもり。しかし、すべては謎」という意味のことを言っているそうである。いまのところ、マスコミを煙に巻くよりほかはないだろう。

ケニアといえば、イスラム過激派組織「アッシャバーブ」がキリスト教徒を狙った大規模なテロを繰り返している国である。よほどの覚悟があっての同地訪問なのであろう。ほかに、ウガンダと中央アフリカを歴訪するとの由。いずれも、とても安全とは言えない国ばかりである。

二週間前のフランス・パリでのISILによる同時多発テロを受けての歴訪であることは、だれにでも分かる。それに対するメッセージを、わが身への危険の及び難いバチカンからではなくて、厳重な警戒態勢を敷かざるをえないほどに危険なケニアから発信しようとする法王の胸の内は、キリスト教徒ならざる私にも、いかほどかは、察することができるような気がする。

法王は、豊かな「勝ち組」である欧米社会の唱える反テロの「連帯」なるものはあまり意味がない、と思っているのではなかろうか。さらには、豊かな「勝ち組」である欧米社会の「自由」こそが、イスラム社会を追いつめ、イスラム原理主義という同社会のエイリアンをその体内ではぐくみ、この世に送りだしてしまい、豊かな「勝ち組」である欧米社会に、いま牙を剥いているのだ、という思いがあるのではないだろうか。そのことに対する反省のまったくない、欧米社会の反テロ運動など、犬も喰わぬ、という言葉さえも、法王は胸の内にしまっているのではないか。

どうも、そういうことであるような気がするのである。安全圏から、キリスト教とイスラム教の和解を唱えてみたところで、それは、なんの意味もない。キリスト教徒が力なき少数派である地において、多少なりとも力のある言葉を発することで、もしもわが身が滅びるのなら、それは神の意思なのだから、自分は、それを喜んで受け入れる。

法王は、問わず語りにそう言っているように、私には感じられるのである。

とすればこれは、大変なニュースである。西側諸国のただなかから、西側諸国を一方的被害者として美化することの愚を指弾する声を、あのローマ法王が発した、という大変な事件なのだ。

これをきちんと報じようとしない日本のマスコミの国際感覚はどうかしている、と私は感じる。

シチリア・マフィアとの腐れ縁が取り沙汰されるバチカンを美化する気など毛頭ない。しかし、法王の心意気だけは買わねばならないと思うのである。その身の安全を心から祈る。
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チャンネル桜〈『南京大虐殺』記憶遺産11文書を検証する〉を観て (美津島明)

2015年11月21日 11時46分26秒 | 政治
チャンネル桜!〈『南京大虐殺』記憶遺産11文書を検証する〉を観て (美津島明)



以下に掲げる動画の出演者は、いずれも「南京攻略戦という戦いはあったが、いわゆる『南京大虐殺』なるものはなかった」という見解を共有する論者です。「虐殺派」VS「まぼろし派」という「南京事件」をめぐる基本的対立軸の、「まぼろし派」に組する人たち、それもその最右翼に位置する人たちと言っていいでしょう。

ついでながら、私は、彼らほどの確信はまだ持ち得ていませんが、「おそらくその通りなのだろう」と思っている者です。そうして、なによりも、中共が仕掛けてきた歴史戦には断じて負けてはならないと思っている者です。しかし、勝つためだったら、(中共のように)歴史のねつ造も辞さない、とまでは思っていません。敵と同じ土俵に上がらない、というのを闘いのべからず集のトップに持ってくるべきである、と考えるからです。

過去のことではなくて、今まさに、チベット族やウィグル族を大量虐殺している連中にしのこの言われる筋合いはない、という強い感情を持っていることも正直に白状しておきましょう。そのことに関連して、国連やユネスコの偽善には怒りを覚えていることも合わせて白状しておきましょう。国連やユネスコのいかがわしさについては、いつかきっちり批判したいという思いがあります。

私からは、当討論の内容について、二点触れておきたいと思います。

ひとつ目は、ユネスコの世界記憶遺産に登録されたと目される11点の資料がどこまで「大虐殺」を証拠立てているかの検証についてです。

平成二七年十月十一日の毎日新聞は、新華社通信の報道に基づいて、世界記憶遺産に登録された「南京大虐殺に関する資料」は、以下の11点ではなかろうかという内容の報道をしています。ユネスコは、資料の内容がいかなるものかについてはまだ正式に発表していないそうです。

<1>国際安全区の金陵女子文理学院の宿舎管理員、程瑞芳の日記

<2>米国人のジョン・マギー牧師の16ミリ撮影機とそのオリジナルフィルム

<3>南京市民の羅瑾が死の危険を冒して保存した、旧日本軍撮影の民間人虐殺や女性へのいたずら、強姦(ごうかん)の写真16枚

<4>中国人、呉旋が南京臨時(政府)参議院宛てに送った旧日本軍の暴行写真

<5>南京軍事法廷が日本軍の戦犯・谷寿夫に下した判決文の正本

<6>南京軍事法廷での米国人、ベイツの証言

<7>南京大虐殺の生存者、陸李秀英の証言

<8>南京市臨時(政府)参議院の南京大虐殺案件における敵の犯罪行為調査委員会の調査表

<9>南京軍事法廷が調査した犯罪の証拠

<10>南京大虐殺の案件に対する市民の上申書

<11>外国人日記「南京占領-目撃者の記述」


藤岡信勝氏によれば、このなかで、その内容が具体的に特定できるのは<1>から<8>までだそうです。さらにそのなかで、歴史学でいうところの一次資料、すなわち、「南京事件」に関する資料のうち独自性が認められるおおもとの資料や原典・元の文献そのものと呼べるのは、<1>の程瑞芳の日記と<2>のマギー・フィルムと追加の資料として中共から提出されたマカラムの手紙の3点だけだそうです。

阿羅健一氏は、その3点について、次のように述べています。

「程瑞芳の日記」は、この日記は一九三七年十二月八日から翌一九三八年三月一日まで書かれています。そのなかで、彼女が目撃した、日本兵による事件は、九件の強姦と九件の略奪です。ほかは、伝聞・憶測の類いだそうです。

「マッカラムの手紙」の日付は、一九三八年一月七日です。この手紙を分析すると、筆者が目撃した、日本兵による事件は、強姦一件、殺人一件だそうです。

いずれの資料も、「大虐殺」が実施されたとされる、一九三七(昭和十二)年十二月十三日の南京陥落翌日から翌年の一九三八(昭和十三)年一月までの間の南京市内の出来事に触れたものです。

阿羅氏によれば、これらの資料で示された強姦・略奪・殺人の件数は、30万人という「大虐殺」とはかけ離れていて、むしろ、「大虐殺」などなかったことを物語っています。

次に、「マギー・フィルム」について。日本軍による南京占領の期間中、その光景をアメリカ聖公会の牧師ジョン・マギーは、16ミリフィルムに残していました。それが、「マギー・フィルム」です。

実際にその映画を観てみると、明らかに虐殺されたとわかる死体は一つも映っていないそうです。字幕には「日本軍の暴行」等とあって日本兵の残虐性を訴えていますが、日本兵が捕虜を処刑しているシーンも、何千もの死体シーンもなく、映っているのは、ほとんどが生きている人々ばかりです。首を切られかかった傷跡が大きく陥没した痛々しい姿の中国人の有名な映像についても、そういう大きな傷がひと月やふた月で治るはずがない、という疑念を抱かせるものです。阿羅氏は、その映像には、客観性が欠如していると評します。

マギーは東京裁判で、「あちこちで殺人が行なわれていた」と証言したとき、自分自身が目撃した殺人現場の有無をたずねられると、「一つだけあります」と答えています。しかしそれは、民間人に化けた中国兵の掃討作戦を実行しているとき、不審な中国人をみて彼の身元を尋ねると急に逃げ出したので、やむをえず撃ったというものでした。これは国際法上合法的な行為とされているものです。彼は非合法の殺人を一件も目撃していないのです。

以上から判明するのは、ユネスコに登録された資料は、大虐殺を実証するという観点からすれば、いずれも歴史学のオーソドックスな検証には耐ええない代物ばかりである、ということです。

触れたいことのふたつ目は、堂々と歴史をねつ造することによって、歴史戦で日本を打ち負かしたいと思っている中共とどう戦うかについてです。

その点について、江崎道朗氏が、秀逸なアイデアを提案しています。

江崎氏によれば、いまの日本は、南京事件について、歴史戦を仕掛けてきている中共のみならず、韓国は当然のこととして、欧米諸国による無理解あるいは誤解の包囲網に直面しています。米国の日本に対する思いの核心は、「日本は真実を隠蔽している」というものです。そういう残念な事態の責任は、それを放置してきた政府・外務省の側にあります。政府・外務省は、時を移さず、国会図書会や公文書館にある南京事件関連の全資料を順次英訳し、アジア歴史センターのHPに掲載して情報公開し、「言論の自由・学問の自由のない中共が11点しか資料を提出できなかったのに対して、言論の自由・学問の自由を尊重する日本は、数千点・数万点の資料を公開していますよ」というメッセージを発信すべきである、というのです。

この戦略は、とても優れています。なぜなら、中共に対する反論が不得手な外務省でさえも、これならすぐに実行できますし、イチャモンつけの得意な中共でさえも、これには反論のしようがないからです。また、事実それ自体に語らせるという作戦は、無理がないし、とても効果的であると思われます。戦わずして勝つ、というわけです。

江崎氏はもうひとつ提案をしています。それは、内閣府に南京事件に関する「戦略情報室」という司令塔を作って、歴史戦というインテリジェンスをめぐる戦争を戦い抜く体制を整えることです。その場合、外務省には多くを期待できないので、民間の有力な論客や学者を組織して、政府・外務省はそれを支援する、というスタンスが好ましい、と江崎氏は言います。

日本には、南京事件についての「虐殺派」と「まぼろし派」の対立という根深い問題があるので、メンバーの選定はけっこう紛糾するとは思われますが、「歴史戦に勝つ」という基本目的を忘れなければ、なんとかなるのではないかと思われます。こちらもぜひ実現してほしいものです。

以下に、討論の動画を掲げます。いずれの論客も歴戦の戦士だけあって、なかなか充実した内容になっています。少数精鋭の討論といえるでしょう。


1/3【討論!】『南京大虐殺』記憶遺産11文書を検証する[桜H27/11/7]


2/3【討論!】『南京大虐殺』記憶遺産11文書を検証する[桜H27/11/7]


3/3【討論!】『南京大虐殺』記憶遺産11文書を検証する[桜H27/11/7]
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チャンネル桜「ここが問題、TPP!」を観て (美津島明)

2015年11月16日 23時30分14秒 | 経済
チャンネル桜「ここが問題、TPP!」を観て (美津島明)



チャンネル桜の「ここが問題、TPP!」という三時間の討論番組を観て感じたことを、つらつらと述べたうえで、同番組をアップしておこうと思います。

***

TPPをめぐる報道の在り方が異常であると感じます。大手新聞5紙と全テレビ局が、こぞってTPP大筋合意を歓迎しているからです。中野剛志氏の『TPP亡国論』(集英社新書・2011)を読んでからずっと、TPPには看過しがたい問題点があると思い続けてきた者からすれば、にわかには信じがたい事態なのですね。

テレビでは、あれが安くなる、これが安くなる、そんでもってバターは出回るのか、という話しか出てきません。絵に描いたような衆愚の現象です。ひどいもんです。マスコミの批判精神は、いったいどうなってしまったのでしょうか(という自問が自分の耳にうつろに響いてしまうのをいかんともしがたいことにいっそうの救いがたさを感じます)。

今回ご紹介する討論番組は、その点、別次元の水準の高さを示しています。こういう番組が、マイナーな放送局でしか放送されないのは由々しき事態です。

番組をひととおり観て、感想がいくつか浮かんできたので、参考までにそのうちの2、3を記しておきましょう。

まず、私なりの論者の評定を明らかにしておきましょう。私が、TPP反対論者であるという点をカッコに入れたうえで、やはり、三橋貴明氏と河添恵子氏の論の冴えと説得力が群を抜いていると感じました。特に三橋氏に言えることですが、政府発表のTPP大筋合意文書の概要97ページをきちんと読んだうえで議論に臨んでいる点(合意文書全文は約2000ページほどの分量だそうです)、それゆえ問題点の指摘が具体的である点で、際立っていました。また、河添氏の〈TPPには、中共の脅威が潜在している〉という指摘には、驚きを禁じえませんでした。三橋氏の著書はこれまでけっこう読んできたのですが、今後は、河添氏の著書もきちんと読まなければならない、あるいは読んでみたい、と思ったほどです。

その裏返しになりますが、TPP賛成論者の野口旭氏の、ろくに資料を読まずに議論に臨もうとするいい加減さ・不誠実さ、論の立て方の学者特有の些末さ、些末な議論を言葉のやり取りの間に強引に差しはさむことで自分の立つ瀬を確保した気でいるみみっちさが、いやおうなく目立ちました。本棚に未読の氏の著書が数冊あるのですが、今後それらを紐解くことはおそらくないでしょう。

金子洋一参議院議員は、TPPをめぐって私と意見は異にするけれど、真摯に物を考えようとする姿勢には好感を持ちました。特に、農業問題についての見解は、傾聴に値するものであると思いました(ほかの国会議員についての感想は省略します)。

田村氏については、後ほど触れます。

次に、「TPPと農業改革」というテーマについて。出演者六人は、TPPについての見解に相違はあっても、農業保護を手厚くする必要があることについては意見が一致していました(後から来た片山さつき衆議院議員だけは、「攻めの農業」を強調する点で、他と意見を異にしています)。

まず、出演者の議論の意味をはっきりさせるために、日本農業について世間に出回っているデマに触れておく必要があります。それは、「日本の農家は、不当に保護されている」という謬見です。

次の表をみてください。


(左クリックしていただければ拡大されます)三橋貴明氏作成

日本の農家の場合、所得に占める国の財政負担の割合は約16%です。それに対して、アメリカの場合、農家の平均は約26%、穀物農家はおおむね50%です。さらに、フランス・イギリス・スイスの農家に至っては、なんと財政負担は90%を超えます。EUの農家は、実質的に公務員なのですね。

ここから分かるのは、日本農業の保護は世界の先進諸国のなかで最低水準である、ということです。この著しい違いは、欧米諸国が、農業の本質が食料安全保障であることをよく分かっているのに対して、日本政府は、そのことをあまり分かっていない(あるいは、その観点を軽視している)ことによると私は考えます。

それはさておいて、TPPによって、高い生産性を誇るアメリカ・カナダ・オーストラリアの安価な農産品が大量に日本に押し寄せたならば、このままでは、日本農業が窮地に追い込まれることは火を見るよりも明らかです。

問題はそれだけではありません。

次のグラフを見てください。


出典:農林水産省

農業総生産高が、一九八四年以来一貫して減り続けていることが分かります(とりわけコメの減少率がいちじるしいですね)。高校時代に教わった「GDPの三面等価の法則」を思い出していただければ、生産額と所得とは一致しますから、農家の所得もこの三〇年間減り続けてきたことになりますし、所得と支出額も一致するので、農産品に対する国民の需要も減り続けてきたことになります。

このように需要が伸び悩んでいる農産品市場に、TPPによって海外からの大量の新規参入者が登場すれば、国内の既存の農家の所得の少なからざる部分が奪われ、彼らの経営の零細化さらには廃業が促進されることは明らかです。

とすると、日本政府が農業政策として取るべき方途は、ただひとつです。すなわち、最低でもアメリカ並みの農業保護を断行することよりほかはありません。それも現状のいわゆる水際補償ではなくて、EU諸国やアメリカですでに広く実施されている農家への直接支払い(個別の農家に税金を投入すること)を大胆に実施することが必要なのです。当論者たちは、異口同音にその必要性を強調しています。

財務省は、それをとても嫌がっているようですが、事態がこのまま推移すれば、日本農業は壊滅的打撃を受け、食の安全保障が危機に瀕することは必定です。胃袋を他国(具体的にはアメリカと中共)に支配されることの危険性と愚かさについては、次に引くブッシュ・ジュニア前大統領の言葉が雄弁に物語っているでしょう。

食料自給は安全保障の問題である。(農業関係者である)皆さんのおかげでそれが常に保たれているアメリカは、何とありがたいことか。それに対し、食料自給ができない国を想像できるか。国際的圧力と危険にさらされた国だ。

以上からはっきりと分かるのは、農業改革の核心は、個別農家に対する欧米並みの直接支払いの断行であるべきだ、ということです。米国商工会議所やその存在の法的正当性に疑いのある民間議員によって構成される規制改革会議が望むような、農協の株式会社化などであっては断じてならないのです。

長期的展望のもとに農協の株式会社化を狙っているものと思われる規制緩和論者たちの目論見に深く関わる論点を、議論の最後の方で、田村秀男氏が、ボソッとつぶやいています。

田村氏の発言を要約すれば、次のようになります。〈一九八五年のプラザ合意以来のマネーの流れを概観すると、次のようになる。日本は一貫して債権国であり続けてきた。それに対して、アメリカは、一貫して債務国であり続けてきた。で、マネーは日本からアメリカに回ることになった。つまりアメリカ経済は、日本からの資金の投入によって支えられてきた。その資金循環を強化するために、アメリカは、日本の郵貯・かんぽ・農協マネーの確保を目論んでいる。それがTPPの狙いの核心である、というのは、揺るがないだろう〉と。

当討論において寡黙勝ちな田村氏でしたが、寸鉄人を刺す言葉はさすがです。

その点、三橋貴明氏が、以下の文言にこだわり、強烈な危機感を抱いたのは、正鵠を射たものであると、私は思います。「環太平洋パートナーシップ協定(TPP協定)」全章概要」のなかの第11章.金融サービス章からの引用です。
(http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2015/13/151105_tpp_zensyougaiyou.pdf 「TPP全章概要」 )

○内国民待遇(第11.3条) 各締約国は、他の締約国の金融機関及び投資家等に対し、同様の状況において 自国の投資家及び金融機関等に与える待遇よりも不利でない待遇を与えること 等を規定。

「同様の状況」という文言の意味がやや不明ですが、端的に言えば、郵貯・かんぽ・農林中金・JA共済連が株式会社化されたならば(郵貯・かんぽはすでに株式会社化されています)、当該金融機関へのウォール街金融資本の参入を全面的に無条件に認めよ、と言っているように受けとめられます。これを読んで、日本人として震えないほうがどうかしています。

その流れを後もどりできないものにするのが、ISDS条項やラチェット条項である、という位置づけになるものと思われます。

この事態に対して、野口旭氏のように、「国内資本だろうが、海外資本だろうが、まったく問題ない」と評するのは、国民経済についてあまりにも無知というよりほかはありません。というのは、三橋氏が主張するように、郵便業務や農業は、電力や防衛や教育などとともに、ソフト面のインフラであって、単純に利潤原理で運営すればよい、というものではなくて、一般国民が安心して充実した暮らしを営むことを可能にする根底を成すものなので、政府が責任を持って支えるべき分野であるからです。つまり郵便・農業は、安全保障に大きく関わる分野なのです(ドンパチだけが安全保障ではないのです)。それを外資に委ねても構わないというのは、暴論以外のなにものでもない、というよりほかはありません。野口氏の発言は、オタク的な感性が抜けきらない学者の通弊が露呈したものであるように思われます。

では、チャンネル桜の討論「ここが問題!TPP」をごらんください。

1/3【討論!】ここが問題!TPP[桜H27/11/14]


2/3【討論!】ここが問題!TPP[桜H27/11/14]


3/3【討論!】ここが問題!TPP[桜H27/11/14]
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