美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

参政党・松田プラン(その5)経済安全保障としての「松田プラン」~国産ブロックチェーンの構築~

2022年06月28日 16時04分08秒 | 政治


今回は、国産のブロックチェーン基盤を確立することは、デジタル円という仮想通貨の流通を可能にするのみならず、GAFAと中共の権威主義的な中央集権体制からの日本の脱却を可能にし、さらには、日本が世界のデジタル革命を先導することにもつながりうる、というお話です。

今回の松田氏のお話をうかがいながら思い浮かべたのは、冒頭に掲げた本でした。著者の深田萌絵氏は、本書でおおむね次のような主張をしています。

すなわち「米国大統領の言論を封殺するほどの巨大な力を有するに至ったGAFA帝国の言論圧殺支配体制を覆せるのは、メタバースである。メタバースのそういう潜在的なパワーをよく理解している中共は、メタバースの技術的な土台であるブロックチェーンによって実現する民主主義的な通信=Web3.0を覆そうとしている。中共の権威主義的覇権を防ぐには、起業家やエンジニアがメタバースの主導権を中共とGAFAから奪わなければならない。その意味で、今日における民主主義の闘いとは技術の闘いでもあるのだ」と。

松田氏の語り口は温和ですが、言わんとするところは、深田氏の鮮烈なメッセージとけっこう重なるところがあるのではないかと感じたのです。松田プランは、世界の最先端の課題への取り組みでもあるようです。

そういうふうにうけとめていただくと、以下の話が分かりやすくなるのではないかと思われます。

図8

上の図の①の大塚玲氏と辻秀典氏は、松田氏によれば情報セキュリティの日本における第一人者であり、松田氏とタッグを組んでいる方々だそうです。       

彼らは「SIM-Signによるマイナンバー機能のスマホ搭載」の技術を開発し、それを内閣官房の番号制度推進室長の向井治紀氏に提案しました。向井氏はそれを平井卓也議員に持ち込んで相談したとの由。

2020年11月総務省は、「マイナバーカードの機能のスマートフォン搭載等に関する検討会」を設置し、2021年9月デジタル関連法が制定され、デジタル庁が設置され、平井卓也議員が、初代デジタル担当大臣に就任しました。

それと連動して、一般社団法人デジタルアイデンティティ推進コンソーシアム(DIPC)が設立され、松田氏は理事長に就任しました。

図9

上の図のなかのDXとは、「デジタルトランスフォーメーション」であり、進化したデジタル技術を浸透させることで人々の生活をより良いものへと変革すること、との由。

DIPCの設立趣旨は、「スマートフォン上の公的認証基盤を確立し、国民生活のDXを推進するための民間・地方自治体での活利用を検討・促進すること」および「日本発の認証基盤を開発することによって、日本国のデジタル力の国際競争力を向上させること」の二つです。上の図によれば、DIPCによるマイナンバーカードをベースとする公的認証基盤を利用すれば、民間におけるスマホ利用のサービスの安全性は飛躍的に高まるとの由。

では、DIPCの活動にはどういう意義があるのでしょうか。

図10

松田氏によれば、スマートフォン上の公的認証基盤を確立することは、日本が世界のデジタル革命を先導するという意義があります。松田氏は、「自分は学者風の議論をしているのではなくて、実務としてやっていることを述べている」と強調します。大切なポイントですね。

「主要活動内容」に見慣れぬ用語が散見されるので、意味を調べてみました。列挙します。

・「JPIK」:公的個人認証サービス。インターネットを通じて申請や届け出といった行政手続きなどやインターネットのウェブサイトにログインを行う際に他人による「なりすまし」やデータの改ざんを防ぐために用いられる本人確認の手段。

・「ユース・ケース」:利用者があるシステムを用いて特定の目的を達するため、双方の間のやり取りを明確に定義したもの。当方の場合、アマゾンで本を買う手続きを具体例として思い浮かべました。

・「デジタルアイデンティティ」:インターネットでのあなた自身の姿。インターネットでの発信を通じて、発信者のイメージが独り歩きして実態と乖離する場合など、これが問題になるのではないかと。

松田氏によれば、老人がスマフォに対して拒否反応を示すのは、IDパスワードが数えきれないくらいあって、さまざまな手続きの煩雑さに耐えきれなくなるからです(他人事ではありません)。スマフォ上の公的認証基盤の確立が実現すれば、それらの手続きは「スマフォをかざせば手続きはそれで終了」というとても簡略化されたものになります。

それに関連して松田氏は「松田はデジタル化を推進することによって、日本を中共のような超管理社会にしようとしている」という批判は誤解である、と述べています。《超便利な本人確認機能によって、わたしたちの社会経済活動が政府によって一元的に管理されることは技術的にありえない。ブロックチェーン技術に基づくWeb3.0は、GAFAによる言論支配を可能とするWeb2.0とは異なり、自立分散型の通信であるから》。おおむね、そういう意味のことを述べています。

以上のことを踏まえて、次の図をじっくりとごらんいただければさいわいです。

図11

詳細な説明は、図にゆずることにして、当方は用語の説明をしておきましょう。

・「Web3.0」:ブロックチェーン技術によって実現する「次世代の分散型インターネット」のこと。中央集権的な管理者を必要としない。GAFAによる中央集権化型のインターネットをWeb2.0とし、そこからの脱却およびインターネットの民主化を実現しようとする動きが背景にある。

・「ブロックチェーン」:『猿でもわかるブロックチェーン』www.dxtconsulting.com/what-is-a-blockchain/
というブログの説明が秀逸なので、転載しましょう。部分的に修正しています。

《まず、ブロックチェーンと聞くと、ビットコインなどの仮想通貨・暗号通貨をイメージする人が多いと思います。

そして、仮想通貨とイメージが結びついているために、ブロックチェーンをいかがわしいと思っている人もいるかもしれません。しかし、ブロックチェーンは、「仮想通貨」そのものではないんです。実はブロックチェーンは、分散台帳によって「書き換え不可能」な データを作る技術です。

分散台帳というのは、取引の記録が複数の場所に書き込まれることを意味します。
 
そしてこの特性上、記録された情報を変更する場合には、すべての場所に複製・保管されている情報すべてについて、それ以降に書き込まれた情報すべてをさかのぼって書き換えなくてはならないため、実質的に書き換えが不可能なのです。

この特性を利用して、ビットコインは偽造が実質不可能な通貨のようなものとして活用されるようになりました。

つまり、ブロックチェーンは、「書き換えが実質不可能なデータ」を作る技術というわけです。》

一言付け加えれば、ブロックチェーンの提唱者は、サトシ・ナカモトという名の正体不明の人物です。サトシ・ナカモトは、ビットコインを公開し普及するのを見届けた後、2011年4月ビットコイン開発仲間に「私はこれから別のことをしようと思う」というメールを送り、どこかに消えてしまったそうです。

ここまでお読みいただいた方に、次の図の説明をする必要はないと思われます。

図12

松田氏は、GAFAの巨大な力や中共の全体主義主義的な目論見の恐ろしさ、および、GAFAと中共が裏では手を組んでいることなどをよく分かっているようです。

本題とはいささかはずれますが「メタバース」とは、深田氏によれば、現段階ではまだあいまいな概念です。三次元の仮想現実空間内で人類はアバターとして生活するというイメージがなんとなく共有されているだけで、まだ定義といえるほどのものはないとの由。

説明が長くなってしまいました。

では、ごらんください。

【政策解説シリーズ】松田プラン徹底解説 その5 ~どのように便利なのか…DIPCの活動~
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

参政党・松田プラン(その4)「松田」プランにおけるデジタル円の流れと役割(追加動画あり)

2022年06月24日 22時46分56秒 | 政治


まずは、図6と図7を掲げましょう。




デジタル円についての上のふたつの図を統一的に理解する便利な方法はないものかと考えておりました。

で、次のような仕訳はどうかと。単純化のため、デジタル円の購入価格を100円とします。

なお、簿記において、資産の増加は借方記入・資産の減少は貸方記入、負債の増加は貸方記入・負債の減少は借方記入となります。

・預金者(民間人)
〔1〕 (デジタル円)100  (現金預金)100
上記は、預金者が市中銀行からデジタル円を現金か預金で買った取引を表しています。デジタル円は資産の増加なので借方に、現金預金の減少は貸方に記入されます。

・市中銀行(デジタル円の小売店)
〔2〕 (現金預金)100   (デジタル円)100
上記は、市中銀行が預金者もしくは単なる民間人にデジタル円を売った取引を表しています。市中銀行は、現金預金を新たに得て資産が増えたので借方に現金が記入されます。デジタル円という資産は減少したので、貸方記入となります。

〔3〕 (デジタル円)100  (日銀当座預金)100
上記は、日銀からデジタル円を買った取引を表しています。帳簿上の、日銀に対する債権である日銀当座預金を支払に充てます。

・日銀(デジタル円の唯一の卸売り店)
〔4〕(日銀当座預金)100 (デジタル円)100
上記は、市中銀行にデジタル円を売った取引を表しています。〔3〕に対応して、帳簿上の、市中銀行に対する債務である日銀当座預金が減少します。

〔5〕(デジタル円)100 (永久国債)100
上記は、デジタル円の帳簿上の支払いのために、日銀が永久国債の償還を政府に要請したことを表しています。「松田プラン」において満期をむかえた日銀保有国債は、借り換えるのではなくて、永久国債に乗り換えることは前回に述べました。

・政府(デジタル円の発行者)
〔6〕(永久国債)100 (デジタル円)100
上記は、日銀の要請に応じて永久国債を償還するのと引き換えに、政府が、デジタル円を発行する取引を表しています。デジタル円の発行には政府の貨幣発行権が行使されています。

さて、〔1〕から〔6〕までを見渡すと、「松田プラン」において、デジタル円が次の二つの役割を果たしていることが分かります。

・〔3〕と〔4〕から、市中銀行と日銀との間で、デジタル円と同額の日銀当座預金を減らす仲立ちをしていることがわかる。

・〔5〕と〔6〕から、日銀と政府との間でデジタル円と同額の永久国債を減らす仲立ちをしていることがわかる。

デジタル円は、日銀のバランス・シートを縮小し、政府の永久国債を消滅させる「魔法の杖」の役割を果たしているのですね。

たしかにこれで、政府・財務省が緊縮財政にこだわったり、日銀が出口戦略に頭を悩ませる根拠がなくなります。

「松田プラン」は、MMT理論とはいささか趣を異にします。しかし、同プランが財政政策と金融政策の現場を預かる者たちの現実的心理的負担を軽くし、積極財政に踏み切る環境を整えるのみならず、併せて、そこには、中共による「デジタル元」の脅威から日本経済を守る経済安全保障の意図もしっかりと組み込まれているのですから、反対する理由はほとんどないような気がします。いかがでしょうか。

松田氏がいうごとく、「松田プラン」は、危機に瀕した日本経済と、さらには日本それ自体を救う唯一の現実的なアイデアなのかもしれません。当シリーズを進めるにつれて、そういう思いを強くしました。

では、松田氏ご本人のレクチャーをごらんください。


【政策解説シリーズ】松田プラン徹底解説 その4 ~発行の仕組み デジタル円も日本円の一つ~


〔6月25日追加分〕
日本でMMTを強力に推し進めてきた論客のひとりである三橋貴明氏が、参政党事務局長・神谷宗幣氏に緊急インタビューをしている動画がありました。三橋氏はインタビュアーとして、神谷氏に対し中立な立場を終始キープしていますが、参政党に対して好意的な姿勢が感じられる内容になっています。参政党にとっては追い風になり、閉塞状況に追いこまれた日本にとっては喜ばしい動きです。

【速報】今、急拡大中の参政党 神谷宗幣氏に緊急インタビュー(神谷宗幣×三橋貴明)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

参政党・松田プラン(その3の2)永久国債をデジタル円に乗り換えることが「出口」である

2022年06月22日 21時08分51秒 | 政治


前回までの要点を列挙しておきましょう。

① 2013年3月末以来の、日銀・黒田総裁による「異次元」緩和によって、日銀保有の国債残高は、政府発行の国債残高の半分超の532兆円に達した。

② 政府の純負債額は、負債総額1376兆円-資産総額721兆円=655兆円である。

③ 日銀保有の国債532兆円は、政府に対する債権である。と同時に政府にとっては、日銀に対する債務である。

④ よって、政府と日銀のバランスシートを連結した「統合政府」のバランス・シートにおいて、日銀保有の、借方記載の国債532兆円は、政府の貸方記載の国債532兆円と相殺される。すなわち、政府保有の国債は、655兆円-532兆円=123兆円となる。

⑤ 「異次元緩和」によって、日銀が市中銀行から大量に購入した国債は、同額の日銀当座預金という帳簿上の債務を増やす。同預金は、単なる帳簿上の残高であって市中銀行に対する返済が必要な債務ではない。

以上は、「松田プラン」独自の見解ではありません。緊縮財政に対して批判的な見解を有する人々にとっていわば「常識」です。

では、⑤の日銀当座預金の特色をふまえたうえで、「異次元緩和」の話に移りましょう。

図3


市中銀行の資産としての日銀当座預金は、日銀の売りオペによって減り、買いオペによって増えます。「異次元緩和」は、日銀による大量の国債の買いなので、市中銀行の日銀当座預金はその分増えます。しかし、そのままでは、市中のマネーは増えません。繰り返しになりますが、日銀にとって日銀当座預金は、単なる帳簿上の債務残高であって市中銀行に対する返済が必要な債務ではないからです。

では日銀は、市中のマネーをどうやって増やそうとするのでしょうか。それは、いわゆる「ポートフォリオ・リバランス効果」によってです。

「ポートフォリオ・リバランス効果」とは何でしょうか。

日銀などの中央銀行が国債を大量に買い続けると、一般に国債利回りは大きく下がります。いわゆる「ゼロ金利政策」ですね。そうなると市中銀行は、投資対象としての国債に魅力を感じなくなり、より高い収益率が期待できる株式や、企業への貸し出しなどのリスク資産運用にポートフォリオ(すなわち金融資産)をシフトさせようとします。少なくとも中央銀行は、そう期待して買いオペを断行します。これがポートフォリオ・リバランス効果です。企業への貸し出しの増加による新たな貨幣の創出、すなわち市中銀行の信用創造をうながすのがポートフォリオ・リバランス効果の核心であるといえるでしょう。

話を上記③の日銀保有の国債532兆円に戻しましょう。それに対応する同額の日銀当座預金が単なる帳簿上の債務であって、市中銀行に返す必要がないことはすでに述べました。

ところが、日銀保有の国債532兆円のうち満期をむかえる国債は、借り換えの対象になります。借り換え国債を発行するのです。そうすると、借り換え分だけの国債が日銀保有から民間保有に戻ることになります。異次元緩和によってせっかく減った国債の民間保有が元に戻ってしまうわけです。

そこで永久国債の登場です。これが、松田学氏によれば「松田プラン」の第一歩との由。

図4


永久国債は、実際にイギリスで発行されているそうです。コンソル公債と呼ばれるもので、1751年にはじめて発行され、現在はロンドン金融市場に8銘柄が発行されています。この公債は償還期限(満期)がありません。つまり元本を返す義務がありません。永久に一定額のクーポン(利子)が支払われることから、永久国債と呼ばれます。

松田氏は、このコンソル公債からヒントを得て、次のように考えます。

満期をむかえた日銀保有国債は、借り換えるのではなくて、永久国債に乗り換えればよい。そうすれば政府は元本を返す義務を免れる。また、金利は政府から日銀に支払われる。が、日銀は利潤追求を旨とする組織ではないので、その分を国庫に納めればよい。つまり、政府は元本返済や金利の支払いの義務から解放される。事実上、国債は消滅する。

松田氏によれば、日銀保有の国債を永久国債に乗り換えるのは、市中銀行が支払い不能の窮地に陥った一般企業に救いの手を差し伸べるデット・エクイティ・スワップと似ています。

図5


デット・エクイティ・スワップのデットはDeptすなわち「負債」、エクイティはEquityすなわち「株式」、スワップはSwapすなわち「交換」です。市中銀行が自行に対する支払い困難に陥っている企業の債務を株式として発行することによって当該企業を救済し再生をうながす金融手法です。

上記の「市中銀行」に日銀を、「企業」に政府を代入すれば、日銀保有の国債を永久国債にすることがデット・エクイティ・スワップに似ているとお分かりいただけるのではないでしょうか。

しかし、日銀保有の国債を永久国債にするだけでは、日銀にとってはまだ「出口」がない状態から脱却することはかないません。買いオペによって、借方の国債と貸方の日銀当座預金がともに増加し、バランス・シートが拡大したままなのです。最近さかんに出回るようになった「テーパリング」は、買いオペを、すなわち国債の買い取り額を徐々に減らすことであり、バランス・シートの拡大のスピードを徐々に遅くすることなので、日銀がそれを採用したとしても「出口」とはなりえません。バランス・シートを縮小することが日銀にとっては「出口」なのです。

そこで松田氏は、日銀保有の国債を政府発行のデジタル円によって償還するという提案をします。

図6

デジタル円のアイデアの説明は、松田氏ご本人に委ねます。当アイデアが、日銀にとっての本当の「出口」になると、松田氏は力説しています。

ごらんください。

【政策解説シリーズ】松田プラン徹底解説 その3 ~金融政策にとってのメリット どんな政策にも出口が必要~


***

デジタル円のアイデアについてやや詳しく説明している動画が見つかりました。「松田プラン(その4)」と位置付けることができる内容です。次回は、それをアップしたいと思っています。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

参政党・松田プラン(その3の1)日銀の金融政策にも「出口」を作る「松田プラン」

2022年06月20日 15時22分45秒 | 政治


今回は、図が6つも登場します。「松田プラン」をきっちりと語ろうとすると、そういうことになってしまう。それは、しかたのないことでしょう。

今回の、ご本人による「松田プラン」を理解するには、簿記の基礎的な知識が必要であると思われます。まずは、それに触れておきましょう。

「簿記の基礎的な知識」とは、バランス・シート、すなわち貸借対照表についての知識です。



貸借対照表は、私企業や組織の財政状態を示す会計情報の一覧表です。上の図の左側は「借方」(かりかた)と呼ばれ、そこには要するに資産の会計年度末における残高が記載されます。次に右側は「貸方」(かしかた)と呼ばれ、そこには負債、端的にいえば「借金」が記載されます。そうして、資産と負債の計算上の差額が純資産と呼ばれ、借方と貸方は常に原理的に同額になります。貸借対照表がバランス・シートと呼ばれるのは、左右の金額が天秤のお皿のように均衡しているからです。

もうひとつ付け加えたいのは、純資産は、簿記の初歩レベルにおいて、利潤と一致します。つまり純資産の基本的性質は利潤です。

それゆえ、利潤追求法人である私企業と違って、公益を追求する政府のバランス・シートは純資産を略したものになります。別言すれば「もうけにならないけれど、国民・国家にとって必要な事業を担う」ところに政府の存在根拠があるのです。

さらにもうひとつ。親会社と子会社のバランス・シートを合算したものを連結バランス・シートといいます。その場合、親会社の子会社に対する債務(支払い義務)は、子会社の親会社に対する債権(支払い権利)と相殺されます。連結決算組織の外部者にとって、正確な会計情報を知るために、親会社と子会社間の貸し借りは相殺されるべきものであるからです。

これくらいの知識があれば、「松田プラン」の中身に入っていけるはずです。

以下、松田氏の図を順に掲げます。松田氏のお話と図をきちんと照合していただければ、「松田プラン」の基本的な理解は得られるはずです。

それぞれの図の理解のための補足事項を列挙しておきます。

図1

上の図の「☆全体」とはバランス・シートの借方の合計を指しています。また、2013年末は、日銀黒田総裁の「異次元緩和」の直前です。その時点から2022年3月末までの間に日銀が市中銀行から買い取った国債残高は、526.2兆円に達しました。それは政府が発行した国債残高の526.2÷1026.5=51%にも及びます。この、借方に記載される日銀保有の国債526.2兆円は、政府発行の国債に対する債権者が民間から日銀に変わった金額を意味します。

また、日銀が市中銀行から国債を買い取るたびに、同額の日銀当座預金が貸方に記載されます。ちなみに、日銀当座預金残高と国債残高が一致しないのは、市中銀行との国債のやり取り以外にも日銀当座預金を増減する取引があるからです。その詳細は3枚目の図に書かれているので、ここでは略します。

図2 

MSM(大手マスコミ)では、上記の政府のバランス・シートのうち貸方の国債残高1376兆円だけがクローズ・アップされて「国の借金1000兆円!」と騒ぎ立てるのが年中行事のようになっております。

しかし、会計学においては、貸方の負債額は借方の資産と相殺された「純負債額」が正しい負債額であるとされています。そのルールに従えば、政府の純負債額は、負債総額1376兆円-資産総額721兆円=655兆円となります。

次に、真ん中の下にある日銀のバランス・シートに目を移します。借方の、異次元緩和によって大量に購入された国債401兆円を含む国債残高532兆円は、政府に対するものなので、政府との連結会計すなわち統合政府において、政府保有の同額の国債と相殺されます。

それゆえ、統合政府の純負債額は、政府の純負債額655兆円-日銀保有負債残高532兆円=123兆円に縮小します。

では、統合政府において123兆円に縮小した国債は何に姿を変えているのか。それは日銀の貸方にある日銀当座預金、です。日銀にとって負債扱いされている日銀当座預金は市中銀行にとっては資産です。しかし、だからといって、日銀当座預金がそのまま市中マネーになるわけではありません。その意味で、日銀当座預金は、帳簿上のお金にほかならない。だから、日銀にとって市中銀行への返済が必要なお金というわけではありません。

このことをふまえないと異次元緩和のメカニズムに対する誤解が生じます。

***

この回で「松田プラン」を終えるつもりでいたのですが、説明するにつれて事の大きさを再認識し、ついつい熱が入り、話が詳細に及んでしまいました。

今回は、ここまでにしておきましょう。次回も、よろしかったらお付き合いください。「松田プラン(3)」の動画は、次回アップします。

〔付記〕
鈴木俊一財務相は3月16日の参院財政金融委員会で、政府と日銀のバランス・シートを一体として認識する統合政府バランス・シートの考え方について適切でないと述べたとの由。その理由は、「日銀は政府から独立して金融政策を行っているにもかかわらず、日銀が永久に国債を保有し、結果的に財政ファイナンスを行うと誤解される恐れがあるため、財政を統合政府で考えるのは適切でない」とか。

上記の「財政ファイナンス」とは、中央銀行が政府の発行する国債を直接引き受けて、政府の財政赤字を穴埋め・補填する措置のことを言います。インフレを招く放漫財政に陥らないための「禁じ手」とされています。鈴木財務相は、そのタテマエをかざして統合政府という考え方を否定しているわけです。

統合政府というコンセプトは、財政問題や金融問題を解き明かし、それを根本的に解決するための強力な武器です。つまらないタテマエに固執して、そういう武器を手放すのは、愚かしいふるまいであるとしか言いようがありません。鈴木財務相は、財務省内の守旧派からそう言わされているのでしょう。とても残念なことです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

参政党・松田プラン(その2)財務省が積極財政に変わることを可能にする仕組みを作る

2022年06月17日 18時19分06秒 | 政治


日本経済は、1997年の「橋本デフレ」以来「失われた25年間」を経験し続けています。GDPの長期低迷、実質賃金の低迷・目減りがずっと続いているのです。有配偶者率の低下や少子化の深刻化も「失われた25年間」と大いに関係があると思われます(ちなみに「橋本デフレ」の「橋本」とは、消費増税と行財政改革を断行した故・元総理大臣橋本龍太郎のことです)。

それだけではありません。中共がGDPで日本を抜いた2010年以来、日中間のGDPの差は年を経る毎にワニの口のように広がっています。中共による日本への「静かな侵略」の深刻化の背景にも「失われた25年間」があるのです。

この、国難中の国難と言っても過言ではない「失われた25年間」。その主たる要因は財務省の頑ななまでの緊縮財政である。そう、私は考えております。緊縮財政とは、歳出の削減や増税を是とし、国債の発行増や財政赤字を非とする財政です。

ところが、です。国を思う、心ある人々の厳しい批判の集中砲火を浴び続けているのにもかかわらず、財務省は一向に緊縮財政を改めようとしません。

私は、財務省の頑なな態度が不思議でしょうがありませんでした。

で今回、「松田プラン」に触れることで、財務官僚たちが積極財政に路線変更できない事情の少なくとも一端が分かりました。

思うに「松田プラン」は、財政の現場にいる財務官僚たちを縛っている鎖から彼らを解き放ち、民のための積極財政に路線変更をするように促す目論見です。

松田学氏は、元大蔵・財務官僚として30年のキャリアを持つ方です。豊富な大蔵・財務人脈をお持ちでしょうし、大蔵官僚・財務官僚のオモテもウラも、タテマエもホンネも知り尽くしていることでしょう。それらを十分に踏まえたうえでの「松田プラン」である。そういう印象を持ちました。

異次元緩和によって政府発行の半分に達した日銀保有の国債。そのうち満期が来たものは、永久国債に乗り換える。その結果、政府は元本返済義務も金利負担もゼロになり、実質的に国債は消滅する。のみならず、永久国債は、民間の求めに応じて政府発行のデジタル円に切り替える。つまり、政府の借金が民間のお金に変わる。松田氏によれば、これは「究極の積極財政」であり「究極のMMT」である、と。

MMT(現代貨幣理論)は、日・米・英のような自国通貨発行権を持つ政府は、インフレにならないかぎり、端的にいえば国債をいくら発行してもかまわないとする積極財政の急先鋒に位置するアメリカ発の学説です。日本では、財務省の緊縮財政に対して批判的な言論人たちによって唱道されてきました。

MMTが国債発行の唯一の制約条件であるとするインフレが到来したとしましょう。そのとき金利が上昇するので、政府の利払い費は増加します。で、それは増税によってカバーされるほかはない。松田氏によれば、財務省はそういう流れを嫌がるので、国債残高の増加や財政赤字を問題視します。だから財務官僚は、国債残高の増加をまったく問題視しないMMTを頭から拒否し受け付けようとません。受け付けないかぎり、MMTに基づく積極財政が実施されることはない。MMT派と反MMTの反目がいつまでも続くだけ。そういうむなしい事態に陥っているのが現状です。

そこにどうやって風穴を開けるのか。おそらく松田氏は、その課題と取り組み、経済安全保障の要素も勘案して「松田プラン」を作成したのでしょう。

“国債という債務に現金化という「出口」が与えられれば、財務官僚が緊縮財政にこだわる根拠それ自体がなくなる”。松田氏は、そう考えたものと思われます。

では、ごらんください。

【政策解説シリーズ】松田プラン徹底解説 その2 ~財政にとってのメリット 積極財政を可能にする出口プラン~


***

次回が「松田プラン」の詳細にわたる紹介です。いささか込み入ったところもあるでしょうが、お付き合いください。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする