美津島明編集「直言の宴」

政治・経済・思想・文化全般をカヴァーした言論を展開します。

ラッキー・デイ (イザ1ブログ 2013・6・4 掲載)

2013年12月16日 06時21分28秒 | 映画
六月一日(土)は、池袋新文芸座で開催される「木下恵介生誕100年祭」の初日で、木下監督のデビュー作『花咲く港』(1943年)とデジタルリマスター版の『二十四の瞳』(1954年)が上映された。『花咲く港』は、木下監督の上質のユーモアセンスが存分に発揮された作品、との感想を持った。島の人々をだまして大金をせしめようとしていた詐欺師(小沢栄太郎役)が、真珠湾攻撃成功の知らせの興奮のなか、村の有力者(東野英治郎役)が冷静でこまごまとしたソロバン勘定をやめようとしないのを糾弾して、思わず「あんたはそれでもニッポン人か!」と言葉を投げつけるシーンには、腹を抱えて笑ってしまった。また、当時の人びとの心の有りようをありのままに刻み込んだ記録映画としても、とても貴重なものである。また、デジタルリマスター処理によって修復された『二十四の瞳』の画像と音声のクオリティの高さには舌を巻いた。これで、上質の画像と音声でないとなかなか作品に入っていけないものと思われる若い世代に、当作品が受け入れられる可能性が高まったのではないかと思われる。よろばしいことである。

上記の二作品が上映された後、木下監督のテレビドラマ『3人家族』(1968年)の第一話(30分)が上映されたのに引き続き、当ドラマのヒロイン役の栗原小巻さんと娯楽映画研究家・佐藤利明氏とによるトーク・ショーがあった。栗原小巻さんはいくつになってもやはりあの栗原小巻さんのままだった。声も若々しいままだし、歩く姿にも清潔な女性らしさが、キープされていた。やはり、タダモノではないのだ。そういう彼女の姿を拝めただけでも十分にラッキーと言ってよかったのに、私個人にとって、さらにラッキーなことが重なった。当日の来場者の中で、二名に『3人家族』全26話が収録されたDVD(定価19950円)がプレゼントされることになっていたのだが、なんと私がそれを手中にしたのだ。栗原小巻さんが思い浮かべた数字を言ってそれと同じ番号のチケットを持っている者が、その景品を手中にする権利を得る、という抽選方法だった。彼女が「3人家族が二組だから」というわけで口にした「33番」のチケットを手にしていたのが私だった、というわけで。舞台のところに歩み寄って、彼女から直接景品のDVDを受け取り、握手を交わした、というより、私がそれを求めたのだった。彼女は、岡田茉莉子さん、吉永小百合さん、、香川京子さん、若尾あや子さんなどとともに、もはや神の領域の住み人と言っても過言ではないレベルの女優さんである。そういう人と、そういう形で握手できたのは、ひたすら幸運であったというよりほかはない。

栗原小巻といっても、いまの若い人はピンとこないかもしれない。だが、私と同年代より上の人なら、彼女が「コマキスト」という流行語が生まれるほどに、一世を風靡した大物女優であることを知っている。事実、上の話を同年代の人たちにしたら、みな、素直に驚いてくれた。それも、正直、嬉しかった。

ところで、アニメ映画の巨匠・原恵一監督が、初めて撮った実写映画『はじまりのみち』が今月の一日から封切られている。その前売り券が、池袋新文芸座で1000円で売られていたのを購入したので、近日中に観に行こうと思っている。当映画は、木下恵介とその母との魂の交流を描いたものであるとのことだ。また、名作『陸軍』をはじめとする木下作品の謎解き映画でもあるようだ。

「母」は、木下映画の大きなテーマであり、また、木下映画を深く理解するうえでの最重要キー・ワードでもある。

(FB掲載分を改稿)

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