マキペディア(発行人・牧野紀之)

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番茶

2020年08月02日 | カ行
      番茶

 お茶というと5月初めの八十八夜に摘まれる新茶(一番茶)を思いがちだが、今は、三番茶や秋冬番茶など「番茶」を楽しむまたとない季節だ。夏の強い日差しを受けて育った茶葉だけにカテキン量も豊富で、渋みも深みもしっかりした存在感を楽しめる。また最近では、地方の特色が色濃く出た「番茶」を見直し、食文化として残していこうという動きもみられる。

 鹿児島県知覧町の折田信男さんは今、秋冬番茶の収穫を終えたばかりだ。25haの広大な「おりた園」はひっそりと静まりかえり、春まで小休止だ。

 日照条件のよい鹿児島では、春の一番茶から始まって秋冬番茶まで5回の摘採(てきさい)期がある。折田さんは、日差しがより強い季節に育つ葉には新茶にはない力強さがあると考え、「カテキン番茶」を製造している。

 7月に摘む三番茶、7月末~8月中旬の四番茶、10月中旬~11月上旬の秋冬番茶をブレンドしたもので、100g500円。農薬を使っていないので、「粉末茶にして飲んでも安心」というのが自慢だ。殺菌力や悪玉コレステロールの抑制など、カテキンの効能が話題となったここ数年で人気商品に成長した。

 2代目の折田さんは、20代後半で農薬中毒にかかっていることが分かった。肝臓障害や言語障害、意識障害などに悩まされ、農薬の使用中止を決断する。10年余りは収穫がほとんどなく、多少の収穫があってもなかなか買い手がつかなかった。それでも土の養生方法など試行錯誤を続け、今や生茶で500トン仕上げ加工前の荒茶で100トンの生産量を誇る。化学肥料も使わず、4haはJAS認定も取った。

 もう一つの特徴は5年ほど前からやめた被覆だ。多くの茶畑では黒い布をかぶせて日差しを遮り、柔らかな葉を作ろうとするが、折田さんは被覆すると茶木が病害虫に弱くなることに気づいた。思い切って被覆をやめると茶木はみるみる強くなり、多少の病害虫は寄せ付けなくなった。

 「番茶の渋みを知っているからこそ、新茶の甘さをより味わえる」というのが折田さんの持論だ。

 日本茶インストラクターで東京都北区でお茶屋を営む高宇政光さんは、番茶の見直しを訴え、研究者などでつくる「番茶学の会」の立ち上げ準備中だ。

 製造技術が上がり、一年中、煎茶を飲めるようになってから、番茶を買うお客はめっきり減った。一方で、阿波番茶(徳島県)や京番茶(京都府)、美作(みまさか)番茶(岡山県)や碁石茶(高知県)など、各地で独自の製法で作られてきた「番茶」の中には、後継者難で存続が危ぶまれるものもある。

 だが、各地にどんな「番茶」があって、どんなふうに飲まれているのか、農林水産省もお茶の業界団体も把握していないのが実情だ。実態調査から始め、ゆくゆくは、各地でお茶がどう作られ、どう飲まれてきたのか、生活に根ざしたお茶の歴史を明らかにしたいという。

 大妻女子大の大森正司教授(食品化学)は「秋はお茶にとっても実りの秋」と話す。夏の間、たくさんの紫外線を浴び、しっかり光合成をした茶葉はカテキンを多く生成する。特に、折田さんのように覆いをせずに茶木を育てた場合は、それがより顕著に出るという。

 大森教授の実験によると、2003年産では、一番茶の葉に含まれるカテキン量は100g当たり12.5g、三番茶では14.0g、秋冬番茶はぐっと増えて18.0g。2004年産はそれぞれ12.7g、19.1g、11.0gで、秋冬番茶は台風の影響を受けたとみられる。大森教授は「今年は例外的」とみる。

 ただし、普通にお茶を入れた場合では、茶葉が軟らかい新茶の方がカテキンが出やすい。2003年産の実験結果では、100CCの熱湯に2.5gの茶葉を1分間つけた場合、一番茶から出るカテキン量は、83.1mg、三番茶では154.3mgだった。

 大森教授は、番茶からしっかりカテキンを取るために、①粉末茶にして食材として使う、②沸騰した湯で3~5分煮出す、③たっぷりの熱湯でじっくり5分ほどおく、などの方法を推奨。「甘みのあるアミノ酸の多い新茶とは違った、さわやかだけれどパンチのある味を楽しんでほしい」と話す。 

番茶の定義

 もとは「晩茶」と書き、遅摘みの葉で作る茶のことを指した。ただし近年、製茶技術や保存技術が向上し、市場も高級志向となったことなどから、上級品と区別し、アミノ酸の含有量が低い廉価なものを「番茶」と呼ぶようになってきた。さらに、地方独特の製法で作られているお茶をその地方では「番茶」と呼ぶことが多く、定義は一定ではない。

 (朝日、2004年11月20日。豊 吹雪。初出は「教育の広場」2011年2月24日)

 感想(2020年8月2日に加筆)

 この記事も「多くの人はお茶の正しい淹れ方を知らない」という問題には気付いていません。「お茶の淹れ方」とやらを教える講座は、茶所の静岡県に住んでいますと、毎年耳にしますが、たいてい煎茶の淹れ方です。番茶党のわたしには不満です。
 機会があると、私は茶の生産者に「番茶の定義」を聞きますが、はっきりしません。生産者は「よいお茶を作ること」ばかりに夢中で、その他の事情に無関心すぎます。
 最近は、コーヒーを飲ませるカフェではなく、緑茶や紅茶を飲ませるカフェがシェアを伸ばしているそうです。この機会に、緑茶に関係するすべての人の自己反省と奮起を期待します。

  

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