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NPOリーダーの養成

2011年02月21日 | ア行
                市民バンク代表・片岡 勝

 不況のために日本中が暗い。けれども、私の周りには笑顔で仕事を楽しんでいる人たちがいる。地域の問題に目を向け、地域で必要とされている様々なサービスを事業化し、仕事にしていくコミュニティービジネスの担い手たちだ。彼らは、現状を逆にチャンスと考えて張り切っている。

 私たちが2000年から各地で開催している「女性のためのビジネススクール」の卒業生は約5000人。そこから誕生したコミュニティービジネスの担い手は1000人を超えた。親を介護した経験から作ったグループホーム、アトピーの子育てをきっかけに始めた天然酵母のパン屋など、いずれも自分の問題意識から始めた事業だ。

 目標は地域の問題を解決すること。トントン経営でいいので無理な投資はしない。自分の夢を実現し、地域の人に感謝される。だから、元気だし、強い。事業形態はNPO(非営利組織)や株式会社など様々だが、不況も閲係ない。1989年に始めた「市民バンク」は
109件5億6000万円余を融資してきたが、貸し倒れは1件もない。

 地域に目を向け起業する動きは女性だけでなく、若者の間にも広がっている。私が教えてきた福岡大、山口大、法政大の学生からも、この3年で17人の起業家とNPOリ」ダーが生まれた。彼らは自治体が抱える赤字施設の運営や、第三セクターが運営する再開発地の活性化など、行き詰まりを見せている公共部門の経営を行政に代わって担おうと意気込んでいる。

 ある若者は山口県豊浦町で町のペンションの建て直しに挑んだ。補助金を出しても赤字が続き、町が困っていた施設だ。東京から移り住み、外注していたクリーニングや掃除はすべて自分でやる。客室が埋まれば自分の泊まる部屋を空けて食堂で寝る。彼はこうして町の補助金はもらわずに前年比4倍以上の売り上げを達成した。コミュニティービジネスに必要なのは新たな発想と手法なのだ。

 私の仕事は、地域にこうした経営者を育て、行政との協力と競争を演出することだ。最近では、行政からひとつのビルの再生、数十万平方㍍の土地の活用、第三セクターを立て直す人材の育成などの相談が舞い込んでいる。ベンチャー講座でこのような地域貢献型の経営者を育ててほしいという大学は六つになった。アメリカの経済学者ドラッカーが十数年前に指摘していたことが今、日本で現実になろうとしている。

 不況から抜け出せない、先が見えないと嘆いているだけでは何も変わらない。
バブル後の空白から抜け出せないのは、コスト意識の薄い行政セクター、自発性を生かせない企業セクターに任せきりにしているからだ。今、求められているのは、国や自治体や他人に依存するのではなく、地域に目を向け、自分の身近な問題を自分のリスクで解決していく一人一人の力だ。

 地域の問題を解決するコミュニティービジネスが各地に広く根をはり巡らせ、新たな発想と手法で仕事を楽しむ人たちが増えたとき、新しい社会のかたちがつくられることだろう。産業構造の転換も、内需の拡大も、分権型の社会も、新しいライフスタイルも、地域の豊かさも、すべては、そこから生まれる。

 (朝日、2003年01月22日)

  感想

 片岡さんの活動は本当に立派だと思います。私は、彼の出発点である第3世界ショップの客として、長年、彼の活動を見てきました。それの動機となったタイでの経験も有名です。

 しかし、これで全てが解決するとか、ましてこういう活動が世直しの中心だと思うとすると、違うと思います。世の中は、大きく分けると、官と民に大別されます。両者は住み分けているのではありません。官が世の中の大きな枠組みを作り、民はその枠組みの中で創意を発揮して生きて行くのです。その枠組みの在り方によって、生きやすくもなれば生きにくくもなります。

 この枠組みがどうなっているか、それをどう変えて行くか、この根本問題から逃げては本当の世直しは出来ないと思います。

 行政トップへの批判に必要性、またNPOなどの活動家の中から政治家を志す人が出てくる必要性のある所以です。