マキペディア(発行人・牧野紀之)

本当の百科事典を考える

決める

2009年05月19日 | カ行
 新型インフルエンザが大問題になっている時に不謹慎ですが、私は「決める」「決定する」と助詞の使い方を考えました。と言うのも、報道に接していますと、「○○県は県立高校の休校を決定しました」「~を決めました」と、「を」ばかりが使われているからです。「に」や「と」はなぜ使われないのでしょうか。

 まず、この3つの助詞の使用例で、新明解国語辞典と学研の国語大辞典と教育社の現代国語用例辞典に上がっているものを整理してみました。

A・~を決める 
行くか行かないかを決める、人に好い悪いを決めてもらっても、黒白を決める。
 規則を決める、責任者を決める、予定を決める、置き場所を決める、順序を決める、態度を決める、じゃんけんで鬼を決める、話を決める、勝負を決める。

B・~に決める
 A大学に決める、あの人に決める、父は酒は日本酒に決めている。

C・~と決める
 終の棲家と決める、昼はパンと決めている、帰ってくるものと決めてかかる。
休みの日は家にいて、自分で遊ぶものと決めている。生きたまま描かなくなった画家は、ダメで描かなくなったと決めて無視する。

 このように整理すると、「~を決める」ではその「~」はテーマや問題を表しているのではないかと思われます。その答えを考えてみますと、「行くか行かないか」ならば、「行くに決める」か「行くと決める」のどちらかで、「行くを決める」はおかしいと思います。「好い悪い」ならば、「好いと決める」だと思います。

 つまり、決定した事柄自体を表すには「~に決める」か「~と決める」だと思います。最初に問題にしました、「○○県は県立高校の休校を決定しました」がどことなく変に感じられるのは、結論を「を」で表しているからだと思います。もっともここの「を」をそのまま「に」や「と」には代えられませんから、代えるなら「県立高校を休校することに(または、と)決めました」でしょう。

では最後に、「~に決める」と「~と決める」とはどう違うのでしょうか。まず「~に決める」から考えますと、この「に」は「到達点の『に』」だと思います。

新明解は、「に」の最初の2つの意味として、次のように書いています。

① 動作・作用を受けた結果、その事物の存在する場所を表す。「自動車が門の前に止まっている」「バスに乗る」

② 変化の結果、生じたものであることを表す。「信号が赤に変わる」「水が湯になる」

 私は、この2つをまとめて、「到達点の『に』」と言えるのではないかと思います。つまり、動作や変化の到達点を表すということです。そうしますと、この「~に決める」は、考えや議論が紆余曲折を経て最後に「~に到達した」ということなのだと思います。

 では、「~と決める」はどうかと言いますと、それは、「~と言う」「~と思う」の「と」だと思います。つまり、「と」の前の句は引用文みたいなものなのです。「昼はパンと決めている」ということは、「『昼はパン』と決めている」、なのです。

 この引用符号で囲ったような感じ、地の文とは同じものではないということがこれの本質だと思います。関口存男(つぎお)さんはこれを「掲称」とか「掲称的語局」と言いました。高く掲げたような「文としての語句」なのです。要するに、「おーい、~と決まったぞ!」と触れまわるような感じなのでしょう。

 従って、「~に決める」は、決定内容を表現するのですが、その表現の仕方が掲称的でなく、客観的だということになるのだと思います。

  「~を決める」の最近の用例

 01、エンデバーの打ち上げを1日延期し、12日に打ち上げることを決めた。(読売、2009年07月12日)
 02、柳ケ浦高校野球部の生徒らが乗った大型バスが横転し、1人が死亡、42人が負傷した事故で、同校は12日午後、PTA臨時総会を開き、事故の経緯などを説明した上で、保護者らの意見を踏まえ、全国高校野球選手権大分大会に出場することを決めた。(時事通信、2009年07月12日)
 03、民主党は~原案の「12年度」から「11年度」に前倒しする方針を決めた。(朝日、2009年07月23日)

     「~を決める」の正統的用例

 01、両家のあいだで話がまとまって、あとは来年年明け早々の祝言の段取りを決めるばかりというころになって(宮部みゆき「居眠り心中」)
 02、次に読む本を、すでにさよは決めている。(川上弘美「七夜物語」)
 03、「何を決めるか、を決めること」が最高裁の重要な仕事で、それは国がどのような法的議論をすべきかを決定することでもある。(朝日新聞Globe、2009年11月02日)

PS・「進出を決定した」

 最近好く、「ヤンキースがリーグ優勝決定戦への進出を決定した」といった表現を耳にします。これは「進出に決定した」とも「進出と決定した」とも言えないと思います。多分、本来は「進出を果たした」と言うべきところが「決定した」と言うようになってしまったのだと思います。(2009年10月15日)

  「~に決める」の用例

 01、こう云ってその日は墓参ということにきめた。(山本周五郎「糸車」)
 02. どうして旅を中止できようか。私は[日本へ行く]代わりに北京へ行くことに決めた。(ドウス昌代「宿命の越境者」)

「~と決める」の用例

 01、友達の親切な助言にまかせて、岸本は八戸行と決定した。(藤村「春」)


    関連項目


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