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ソマリア海賊

2009年05月15日 | サ行
     失敗国家の再建にも目を

 アフリカのソマリア周辺海域に出没する海賊をどうすれば根絶できるのか。日本をはじめ各国が艦艇を派遣して商船を警護しているが、とても手が回らない。結局、ソマリア国内の騒乱を治め、まともな政府をつくって取り締まらせるしかない。国際社会の関心がようやくそこに向いてきた。

 「アフリカの角」と呼ばれる位置にあるソマリアは、スエズ運河で中東、アジアと欧州とを結ぶ重要な航路に面している。冷戦時代、米ソが影響力を競い、隣国エチオピアとの武力対立は米ソの代理戦争でもあった。

 皮肉なことに、米ソ冷戦が終わった後の1991年、20年以上続いた軍事政権が崩壊し、氏族ごとに武装した勢力が割拠する無政府状態となった。

 国際社会がまったく手をこまぬいていたわけではない。積極的に平和を創造するのも国連の役割だという、冷戦後の野心的な構想を担って1992年、米軍が国連平和維持軍として投入された。

 だが、武装勢力の反撃は激しく、米兵の遺体が無残に引き回される衝撃的な映像が世界に報じられ、撤収に追い込まれた。それ以来、ソマリアは米国だけでなく世界の多くにとって、見捨てられた存在となり、現在に至る。

 海賊問題は、そこの無法状態が海にあふれ出てきた結果である。

 それでも4年前、国連や周辺諸国の仲介で「暫定連邦政府」ができた。反政府勢力の一部と和解し、今年、新しい大統領と首相、内閣が生まれた。

 この政府が支配するのは、首都モガディシオの一部でしかなく、それもアフリカ連合の平和維持部隊の支援を受けての話だ。武装勢力による攻撃や国連職員の誘拐も続き、海賊を取り締まれるような力はない。

 人口の4割にあたる320万人が国連などの食料援助に依存し、国内に130万人の避難民がいる。国外でも40万人の難民が暮らしている。

 暫定政府がまったく頼りなく、小さな芽に過ぎないのは確かだが、それを育てていくしかない。国連主催で今月(2009年04月)ソマリア支援国会合が開かれたのは、そんな考え方からだ。日本を含め多数の国々が参加し、警察の育成などで計250億円の支援が約束された。

 国連安保理は06月までに、ソマリア向け国連PKO(平和維持活動)の設置を検討することになっている。

 国際社会はまず、ソマリアの現状にもっと関心を持たねばならない。その点で中曽根外相が先月、ソマリア暫定政府の閣僚と会って意見を交わしたのは意味のある一歩だ。

 海上自衛隊の派遣をめぐる海賊新法の議論は、参院に舞台を移した。武器使用基準や国会承認の詰めなども大事だが、海賊をそもそも出さなくするためのソマリア支援といった大きな構図の論議がもっと必要ではないか。
 (朝日、2009年04月28日、社説)
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