すばらしい鹿島の「修正能力」
レアル・マドリードを相手に、一時は鹿島が2-1とリードし大健闘したFIFAクラブW杯決勝戦。だいぶ興奮も冷めやり客観的にゲームを観られるようになったので、今回は映像を何度も巻き戻しチェックしながら鹿島の収穫と課題を分析してみよう。
まず課題という意味で失点シーンを振り返ろう。前半9分、レアルはDF植田のクリアを拾ったルカ・モドリッチがシュートを放ち、GK曽ヶ端が弾いたところをカリム・ベンゼマが詰めて先制した。
この1失点めの間接的な原因は、植田のクリアが小さかったためそれを拾われ二次攻撃を受けたことだ。植田のクリアは小さいだけでなく、低く、角度も悪かった。あのように真ん中よりの方向でなくもっとサイドの方へ向け、かつボールを高く上げるクリアをしていれば失点を防げた可能性はある。
もちろんあの強いクリアをいとも簡単にコントロールし、瞬時に二次攻撃につなげたレアルのレベルが高かったということはいえる。だがおそらくJリーグでなら、あのクリアはふつうに通用し失点していなかった可能性も高い。
こんなふうにこの試合では「もしJリーグだったら、やられてなかった」というシーンが頻出する。それは裏を返せば鹿島の選手のプレイ感覚が「ふだんのJリーグ=低いレベル」対応だったためにやられた、ということだ。「こういう局面ではこうすべし」というプレイ常識がJリーグレベルだったーー。これは経験の問題であり、彼らがJリーグでプレイする限りつきまとう難題だろう。
例えばあの1失点め。植田の強いクリアをレアルのルカ・モドリッチはとっさに胸でワントラップし、次のタッチでもうシュートに行っている。つまりシュートを想定したファーストタッチを常に考え、ワンタッチ目で次にシュートを打てる場所にボールをキッチリ置いている。しかも味方のパスからでなく、不意に飛んできた敵の強いクリアボールを瞬時にコントロールしているのだ。
あんなシュートシーンがJリーグにどれだけあるだろうか?(スルーパスをファーストタッチで完璧にコントロールし、2タッチめでシュートしたロナウドの3〜4点めも同じだ)
例えばJリーグなら、ファーストタッチで失敗しボールを弾くことはよくあるだろう。そして2タッチ目で弾いたボールを小突いてシュートできる場所に置き直し、3タッチめでやっとシュートするーー。
これだとシュートへ行くまでのタッチ数がひとつ多くなる。つまり守備側にはそれだけ余裕ができる。Jリーグでプレイする選手がみんなそうだと、当然、対応する相手DFも味方も「その感覚」でプレイする。結果、リーグの選手全員が「Jリーグレベル」で終わってしまう。これではいつまでたっても日本のサッカーは進歩しない。
ただし例え1〜2試合でも「異次元レベル」のチームと試合できれば、その経験をしっかり次に生かすことはできる。実際、鹿島の選手たちは1試合中に見事にそれをやってのけた。そこは大きな収穫である。
例えば鹿島に2-1とリードされレアルが本気を出した後半のほうが、むしろ鹿島のデキはよかった。それはなぜか? 前半のレアルのプレイぶりを見て、後半に鹿島の選手たちが対応を修正したからだ。
前半の鹿島はせっかくボールを奪ってもつなげずボールロストを繰り返した。味方のサポートが遅くレアルの速い潰しに遭ったからだ。またレアルという名前に負けプレッシャーからミスを繰り返した。だが後半はそれをキッチリ修正した。
オフ・ザ・ボールの動きで空いたスペースへ選手が素早く移動してサポートし合いパスをつなぐ鹿島の選手たちの戦術眼はすばらしく、レアルにハッキリ通用していた。前半、なぜ自分たちはボールをキープできなかったのか? この失敗を読み取り、後半にしっかり修正してきた。そんな鹿島の適応能力はすばらしい。
またピンチが続くと見るや全体のゾーンをやや下げ、待ち受けるディフェンスに切り替え敵の攻撃をしのぐ試合運びのうまさも光った。鹿島のよさは「勝負強さ」とか「伝統の力」などと抽象的に言い表されがちだが……こうした試合巧者ぶりが勝負強さを生む元になるのである。
おそらく鹿島はもしリーガ・エスパニョーラで1年間試合すれば、ワンシーズン後にはまったく別のチームになっているだろう。1つ1つのプレイが甘いJリーグのぬるま湯体質を脱し、一段高いスペインの水準に合わせて適応したプレイができるようになる可能性が高い。それだけの修正能力がある。(もしかしたら鹿島だけでなくJリーグの他チームにも同じことが可能かもしれない)。
だが来年彼らがプレイするのはスペインではなくJリーグであり、悪い意味でまた再度「Jリーグレベル」に「適応」してしまうかもしれない。もしそうなったら本当に惜しい。
負けた鹿島の選手たちは、「いい経験になった」などとは口が裂けても言いたくないだろう。だが負けがいい経験になるというのは、ポジティブに考えれば、失敗から学習し次の機会に生かし修正する「チャンスを得た」ということだ。鹿島の選手たちはこの経験を生かし、来シーズンはぜひ一段高いレベルでプレイしてほしい。
レアル・マドリードを相手に、一時は鹿島が2-1とリードし大健闘したFIFAクラブW杯決勝戦。だいぶ興奮も冷めやり客観的にゲームを観られるようになったので、今回は映像を何度も巻き戻しチェックしながら鹿島の収穫と課題を分析してみよう。
まず課題という意味で失点シーンを振り返ろう。前半9分、レアルはDF植田のクリアを拾ったルカ・モドリッチがシュートを放ち、GK曽ヶ端が弾いたところをカリム・ベンゼマが詰めて先制した。
この1失点めの間接的な原因は、植田のクリアが小さかったためそれを拾われ二次攻撃を受けたことだ。植田のクリアは小さいだけでなく、低く、角度も悪かった。あのように真ん中よりの方向でなくもっとサイドの方へ向け、かつボールを高く上げるクリアをしていれば失点を防げた可能性はある。
もちろんあの強いクリアをいとも簡単にコントロールし、瞬時に二次攻撃につなげたレアルのレベルが高かったということはいえる。だがおそらくJリーグでなら、あのクリアはふつうに通用し失点していなかった可能性も高い。
こんなふうにこの試合では「もしJリーグだったら、やられてなかった」というシーンが頻出する。それは裏を返せば鹿島の選手のプレイ感覚が「ふだんのJリーグ=低いレベル」対応だったためにやられた、ということだ。「こういう局面ではこうすべし」というプレイ常識がJリーグレベルだったーー。これは経験の問題であり、彼らがJリーグでプレイする限りつきまとう難題だろう。
例えばあの1失点め。植田の強いクリアをレアルのルカ・モドリッチはとっさに胸でワントラップし、次のタッチでもうシュートに行っている。つまりシュートを想定したファーストタッチを常に考え、ワンタッチ目で次にシュートを打てる場所にボールをキッチリ置いている。しかも味方のパスからでなく、不意に飛んできた敵の強いクリアボールを瞬時にコントロールしているのだ。
あんなシュートシーンがJリーグにどれだけあるだろうか?(スルーパスをファーストタッチで完璧にコントロールし、2タッチめでシュートしたロナウドの3〜4点めも同じだ)
例えばJリーグなら、ファーストタッチで失敗しボールを弾くことはよくあるだろう。そして2タッチ目で弾いたボールを小突いてシュートできる場所に置き直し、3タッチめでやっとシュートするーー。
これだとシュートへ行くまでのタッチ数がひとつ多くなる。つまり守備側にはそれだけ余裕ができる。Jリーグでプレイする選手がみんなそうだと、当然、対応する相手DFも味方も「その感覚」でプレイする。結果、リーグの選手全員が「Jリーグレベル」で終わってしまう。これではいつまでたっても日本のサッカーは進歩しない。
ただし例え1〜2試合でも「異次元レベル」のチームと試合できれば、その経験をしっかり次に生かすことはできる。実際、鹿島の選手たちは1試合中に見事にそれをやってのけた。そこは大きな収穫である。
例えば鹿島に2-1とリードされレアルが本気を出した後半のほうが、むしろ鹿島のデキはよかった。それはなぜか? 前半のレアルのプレイぶりを見て、後半に鹿島の選手たちが対応を修正したからだ。
前半の鹿島はせっかくボールを奪ってもつなげずボールロストを繰り返した。味方のサポートが遅くレアルの速い潰しに遭ったからだ。またレアルという名前に負けプレッシャーからミスを繰り返した。だが後半はそれをキッチリ修正した。
オフ・ザ・ボールの動きで空いたスペースへ選手が素早く移動してサポートし合いパスをつなぐ鹿島の選手たちの戦術眼はすばらしく、レアルにハッキリ通用していた。前半、なぜ自分たちはボールをキープできなかったのか? この失敗を読み取り、後半にしっかり修正してきた。そんな鹿島の適応能力はすばらしい。
またピンチが続くと見るや全体のゾーンをやや下げ、待ち受けるディフェンスに切り替え敵の攻撃をしのぐ試合運びのうまさも光った。鹿島のよさは「勝負強さ」とか「伝統の力」などと抽象的に言い表されがちだが……こうした試合巧者ぶりが勝負強さを生む元になるのである。
おそらく鹿島はもしリーガ・エスパニョーラで1年間試合すれば、ワンシーズン後にはまったく別のチームになっているだろう。1つ1つのプレイが甘いJリーグのぬるま湯体質を脱し、一段高いスペインの水準に合わせて適応したプレイができるようになる可能性が高い。それだけの修正能力がある。(もしかしたら鹿島だけでなくJリーグの他チームにも同じことが可能かもしれない)。
だが来年彼らがプレイするのはスペインではなくJリーグであり、悪い意味でまた再度「Jリーグレベル」に「適応」してしまうかもしれない。もしそうなったら本当に惜しい。
負けた鹿島の選手たちは、「いい経験になった」などとは口が裂けても言いたくないだろう。だが負けがいい経験になるというのは、ポジティブに考えれば、失敗から学習し次の機会に生かし修正する「チャンスを得た」ということだ。鹿島の選手たちはこの経験を生かし、来シーズンはぜひ一段高いレベルでプレイしてほしい。