{ 殻ちゃん 26回 }
6月15日の午後、アキは神山中学への道を歩いていた。保護者会は2時から始まる。あと20分後だ。定刻の数分前に着くように、ゆっくり歩く。やはりユイのことを気にしているのだ。教室に入ったときすでに30人以上のママたちがいた。コの字型に机と椅子が並べられていて、アキは入り口に近い隅の席に座った。花柄の服のママはいない、ほとんどがスーツ。先日殻ちゃんが 「花柄の服が好きな女子は考えが甘く、落ちこぼれになりやすい」 とシンジローが言ったなどと話したが、生徒たちのママにちゃんと伝わっていたのだろう。定刻の2時とともにシンジローが現れる。長身でスリム たしかにあの小泉進次郎みたいな顔。水色のポロシャツだ。カッコイイ。まだ独身か。
進次 ◆ 「担任の泉進次です。3年前から社会科の教師してます。では36名のお母さん、一言づつ自己紹介してください。窓側の一番前の方からどうぞ」。
ママ① 「速水飛鳥の母です。どうぞよろしく」 殻ちゃんの隣の席の飛鳥のママだ。
ママ② 「山本さやかの母です。どうぞよろしく」 殻ちゃんの前の席のさやかのママだ。
中1D組は40人である。36人ママが出席している。「すごいなあ、みんな専業主婦なのか。オラは今日の保護者会に出るために昨日も一昨日も、春子の事務所で働いた。だからこのスーツが着られたんだ。それにしてもユイはいない。テレビに出ているのか」 そのときだ。白いパンツスーツのユイが颯爽と現れたのは。ママたちの視線がユイに集中する。
ユイ ✿ 「おそくなってスミマセン。足立塔の母です。どうぞよろしく」。
隣にすわっているママがアキにささやく。
ママ ③ 「あの方は昨日の午後もテレビに出てましたね。さすがにセンスがいいこと」
白いスーツの襟元にオリーブ色の小さなスカーフをあしらっただけ。究極のオシャレか。アキはあの言葉を思い出す。林真理子の語録のひとつを。
✿ 魅力的なと言われる女性は人間の外見がどれほど大切かわかっている。
(まだまだ続きます。冬まで続きます。 9月7日 松井多絵子)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます