高層ビルで地震に遇ったら

　　　　　　　　　　～～～　高層ビルで地震に遇ったら　～～～

　▼　深緑の庭園の池に超高層二棟のビルは限りもあらぬ　　松井多絵子

　三日前の昼下がり、私は小石川後楽園の菖蒲の花たちに囲まれていた。徳川光圀により完成した回遊式の庭園に咲く花菖蒲には江戸時代が漂う。深緑のなかの白と紫の菖蒲がなんとも優雅である。晴天の池には高層のビルが映っている。文京区シビックセンターのお洒落なビルを池の汀から見上げる。１時間前に食事をした25階展望ラウンジ椿山荘。われら老女の楽しみのひとつは少し贅沢なランチ。２５階での昼食セットは平日なら２１００円から。中空での昼食は気分がいい。でも、もし地震があったらどうなるか。２週間前の地震をおもいだす。帰宅してすぐあの地震が。長く揺れ動く地震が、、。

　▼　高層の最上階に来てなおも遙かなる雲、ソファーのような

　雲のソファーにすわり微睡んでいたら急に揺さぶられることもあるのだ。５月３０日の小笠原諸島西方沖を震源とする地震では、約１千キロ離れた東京都心の高層ビルも大きく揺れた。関東で約１万９千台のエレベーターが緊急停止。長周期地震動が観測され、この対策も進んでいるそうである。♦　「免震」は建物の基礎に積層ゴムなどを置くことで、地盤から
建物に入る力を軽減する。阪神大震災で効果が実証され、普及が進んでいるらしい。

　▼　もういらぬペンシルビルがまたひとつ建てられている視界の隅に

　少子化で人口が減ってゆく日本に、これ以上高層ビルは要らないのではないか。池に映るビルを見ていると地中にも高層ビルがあるような錯覚を起こす。地下への高層ビルの建設は無理だとしても、地下五階程度のビルを多くしても　いいのではないか、と考えるのは私が建築について何も知らないからか。東京でも空き家が増えている。いま建設中の高層ビルを見ると私は憂鬱になるのである。　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　６月１５日　　松井多絵子