駅をテーマにした短歌 ③
この4月の或る日、私は地下鉄の駅で知人に呼び止められた。以前、歌会で何度か会った女性、でも彼女は私と違う方面のホームへ行くため急いでいた。もし新宿御苑のさくらを見ている時に彼女と出会ったら、いろいろ語り合えただろうに。私が知人などに出会うのは駅が多い。大勢の人の通過する駅は出会いの確率が高い。同名短歌ユニット誌♦『太朗』の「駅」をテーマにした投稿歌から「会う」の詠まれた作品を取り上げてみる。
♥ 「パパに会うの!」一際高く金の声淡いグレーの駅のホームに 安西大樹
単身赴任か、長期出張か、パパを出迎えに来たらしい子共の声が光るように響く。駅のホームを淡いグレーに、子のはしゃぐ声を金色に、視覚で捉えたイキイキした一首である。
♥ あの人に一目会いたい通過駅四股を踏んでる乙女の気迫 高木啓
会いたい人がいるのは急行の止まらない駅なのか。テンションの高い恋の歌だ。
♥ きっときみにいつかラスボスとして逢う。PASMOはずっと貸しておこうね。
山中千太朗、、
「僕はいづれ君のボスになるよ」という意味なのか。逞しいのか厚かましいのか千太朗は。
♥ お別れと出会いの数を書き留めて駅長は今日も駅を育てる (田中ましろ)
地方の小さな駅の初老の駅長さんが手帳にメモしている、そんなドラマのシーンが広がる
この駅が「湯河原」だったら、美しくないドラマになるかもしれない。
投稿歌「駅」には「会う」より「別れ」の歌が多い。会うは別れの始めか。「待つ」もかなりある。「待つ」ために生まれたのか私たちは。千年も前から「待つ」は詠まれ続けている。
5月21日 松井多絵子