軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

クロアゲハの蛹化

2023-09-15 00:00:00 | 
 これまでに「庭に来たチョウ」で29種、「山野で見たチョウ」で15種ほどのチョウを紹介してきたが、クロアゲハはまだ紹介したことがなかった。比較的普通に見られるチョウのはずであり、まだ昆虫採集に夢中であった小・中学生のころ、大阪ではよく見かけ、採集し展翅標本にもしたことのあるチョウであったのだが。

 そのクロアゲハの幼虫を飼育・撮影する機会が突然やってきた。

 以前紹介した小諸のMさんのバタフライガーデンで、クロツバメシジミの撮影終了後、庭にあるキハダの葉を順に見ながらミヤマカラスアゲハの卵を探していた時、その脇にあるカラタチの葉に数匹の幼虫がいるのをMさんが見つけた。同じカラタチの木の葉には卵も産み付けられていたので、これらを譲っていただいて持ち帰った。

 幼虫はまだ孵化後間もないようで、数ミリ程度と小さく、チョウの種までははっきりと判らなかったが、しばらくしてやや大きくなってきた時には、クロアゲハではないかと思えるようになった。

 以前、同じようにMさん宅のキハダの木から卵を採取して、持ち帰ったが、これが孵化してみると、期待していたミヤマカラスアゲハではなくナミアゲハであったということを経験していたので、今回もまたナミアゲハの卵と幼虫ではないかと疑いの目で見ていたのであった。

 ここで、私の態度は一変して、このクロアゲハの幼虫の脱皮、前蛹化、蛹化の様子を3D撮影することにした。

 孵化の様子と1~3齢幼虫の脱皮の様子は、都合で撮影できなかったが、だいぶ大きくなった幼虫が瓶挿ししてあるカラタチの枝に止まってじっとしているのに気がついたので、脱皮の準備に入ったと判断し、タイムラプス撮影を行った。次のようである。
 
 クロアゲハ4齢幼虫の脱皮(2023.8.31, 9:35~11:21、30倍タイムラプス撮影後編集)

 結果、この幼虫は4齢で、脱皮して現れたのは、間違いなく緑色のクロアゲハの終齢幼虫であった。脱皮後、終齢幼虫は抜け殻をきれいに食べてしまった。幼虫の大きさは短時間のあいだにだいぶ大きくなったように見える。


脱皮前後のクロアゲハの幼虫(左:4齢 2023.8.31, 9:41、右:終齢 同 11:19 撮影)
 
 脱皮後の終齢幼虫はカラタチの葉を食べてみるみる大きくなっていった。数日後には、終齢幼虫は柔らかい下痢便のようなものを出して、餌のカラタチの枝を離れて、飼育ケースの中を徘徊し始めたので、撮影用に用意した割りばしに何とか誘導した。

 この終齢幼虫は、割りばしに静止してくれたので、脱走しないようにビニール袋をかけて翌日から撮影しようと思っていたところ、気がつくと糸掛けを終えて前蛹になってしまっていた。

 ただ、これ以上移動する心配はないので、そのままタイムラプス撮影に入った。次のようである。
 
クロアゲハの蛹化ー1(2023.9.6, 21:16~9.7, 1:36、30倍タイムラプス撮影後編集 )

 もう1匹、少し遅れて終齢になったクロアゲハの幼虫がいたので、こちらは慎重に様子を見ていたが、やはり軟便を出して、容器の壁に止まっているところを見つけたので、撮影用の割りばしを挿した容器に移した。割りばしに止まらせて、ビニール袋をかけて様子を見ていたが、すぐに割りばしを離れて、袋の中を右往左往して、なかなか割りばしには静止してくれない。

 何度か繰り返した後、ようやく割りばしに静止したのを見計らって、ビニール袋を外し、タイムラプス撮影を開始した。

 深夜、気になって撮影場所に行ってみると、案の定幼虫は脱走して周りには見当たらない。妻も動員して大騒動の末、天井に近い木部に止まっているところを見つけた。撮影は当然中止で、また1からのやり直しである。

 幼虫との根競べになったが、何とか諦めさせて、割りばしに静止させて、ようやくタイムラプス撮影にこぎつけた。今度はうまく行って、幼虫が念入りに割りばしに糸を吐き土台をつくり、そこに、前蛹から蛹になった時に体を支えるための糸をかけるところを、撮影することができた。このクロアゲハの幼虫は7往復・14本の帯糸を掛けた。

クロアゲハの糸掛けと前蛹化(2023.9.9, 2:08~4:02、30倍タイムラプス撮影後編集)

 続いて、前蛹から蛹になるところも撮影ができ次のようである。
 
クロアゲハの蛹化ー2(2023.9.9, 18:05~9.10, 3:31、30倍タイムラプス撮影後編集)

 こうして、2匹のクロアゲハの幼虫が蛹化するところを撮影したが、蛹の外見は全く異なっている。1匹目は緑色だが、2匹目は灰色~褐色をしていて、次のようである。ほとんど、同じようにして蛹化させたのだが、何が原因なのか。



色の異なるクロアゲハの2匹の蛹(2023.9.11 撮影)

 ナミアゲハではこの蛹の色の違いについての研究がなされ、本も出版されている。「蝶・サナギの謎」(平賀壮太著 2007年 トンボ出版発行)である。

 それによると、蛹化する場所の粗さが重要な役割を果たすとされているが、割りばしの場合は緑色の蛹と褐色の蛹が半々に出る材質との記述がある。今回はまさにそうした条件になっていたようである。

 ところで、このクロアゲハ、 いつもの「原色日本蝶類図鑑」(横山光夫著 1964年保育社発行)を見ると、次のようである。

 「暖地性の本種は東北地方の低地に少なく、北海道には生息しない。・・・越冬した蛹は4月の終わりごろから羽化し、やや小さな美しい春型が姿を現す。7月から9月に引きつづいて形の大きく美しい夏型が現れる。・・・
 幼虫はカラタチ・サンショウ・ミカンの類を好み、新芽や若葉の裏に1個ずつ産卵し、北地では第1化の春型に引き続き、第2化の夏型に終わるが、関東以南では3~4回の発生を繰り返す。・・・」

 また、「フィールドガイド 日本のチョウ」(2013年、誠文堂新光社発行)や「日本産蝶類標準図鑑」(2011年、学研教育出版発行)に記載されている、国内の生息分布地図を見ると、より詳しい分布状況が示されていて、岐阜県・長野県・山梨県・群馬県・などに空白地域のあることが示されている。

 要は、高地には生息していない種なのである。軽井沢と小諸はちょうどそうした棲息場所の境界にあたる微妙な場所であった。

 「信州 浅間山麓と東信の蝶」(鳩山邦夫・小川原辰雄著 2014年信州昆虫資料館発行)を見ると、「・・・暖地系のチョウで、・・・長野県では全域の平地から低山地に分布するが、個体数は多くなく、記録は少ない。東信地方でも多くは見かけないチョウで、目立った個体数の変動は今のところ認められないが・・・」とある。

 大阪では、普通にみられていたチョウだが、軽井沢に来てからまだ出会ったことが無いのにはこうした理由があった。今回得た蛹だが、もう今年は羽化することはないだろうから、このまま無事越冬させることができるかが課題になる。

 先に蛹になり、いまは飼育ケース内に入れて保管しているヒメギフチョウの蛹の傍らにこの2匹のクロアゲハの蛹を置いているが、共に軽井沢の厳しい冬の寒さから少し守ってやる必要がある。
 
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