今回はナミアゲハ、種名は単にアゲハと呼ぶのが正式のようで以下この「アゲハ」を用いるが、アゲハチョウ科、アゲハチョウ亜科、アゲハチョウ属に属する。前翅長35~60mm。北海道から南西諸島、小笠原諸島にまで、ほぼ日本全土に棲息する種で、日本以外でも朝鮮半島、中国、台湾、グアム島などに広く分布する。
もっともよく目にすることのできるアゲハチョウの仲間のひとつといえる。ナミアゲハとは気の毒な呼称であるが、「アゲハ」が科全体のことを指す場合があるので、この名前もやむを得ない。
大阪市内に住んでいた子供の頃、この蝶をカミナリチョウと呼んでいた記憶がある。調べてみると確かに大阪ではそのように呼ばれていたとの話もあるが、キアゲハやアオスジアゲハのことをカミナリチョウと呼ぶ場合もあるようで、いまひとつはっきりとしない。
母などは、今でもアゲハを見ると、カミナリチョウと呼んでいるが、キアゲハやアオスジアゲハとの区別がついていないので参考にはならない。もう死語に近いのではと思う。
とてもよく似た種にキアゲハがいて間違いそうだが、前翅中室付け根部分の線状の模様の有無で区別できる。
食草(樹)も異なり、アゲハはサンショウ、カラタチ、ミカン類(ミカン科)であるが、キアゲハはセリ、ミツバ、ニンジン、パセリ、アシタバ、シシウド(セリ科)を食べる。
都会でも庭木のミカン類にはよくこのアゲハの幼虫を見かける。小さな鉢植えなどでは、数匹の幼虫がいると葉がなくなり丸坊主になってることがある。
暖地では年3~5回、寒冷地では年2回発生するとされ、蛹で越冬する。
軽井沢にももちろん棲息しているが、目撃頻度はというとそれほど多くはない。庭のブッドレアに吸蜜に来ているところを撮影できたのは、ここ2年間で数回にとどまる。
ブッドレアの花で吸蜜するアゲハ 1/7。後翅裏にユリのものだろうか、赤い花粉をつけている(2016.8.1 撮影)
ブッドレアの花で吸蜜するアゲハ 2/7(2016.8.1 撮影)
ブッドレアの花で吸蜜するアゲハ 3/7(2016.8.1 撮影)
ブッドレアの花で吸蜜するアゲハ 4/7(2016.8.1 撮影)
ブッドレアの花の近くで飛翔するアゲハ 5/7(2016.8.1 撮影)
ブッドレアの花で吸蜜するアゲハ 6/7(2016.8.1 撮影)
ブッドレアの花で吸蜜するアゲハ 7/7(2016.8.1 撮影)
2015年の秋、アゲハの幼虫を数匹飼育して、蛹化の様子を3D撮影していた。
終齢幼虫が餌を食べなくなり、歩き回り始めるのを見計らって枯れ枝に誘導すると、そこで蛹化するが、よく似た枯れ枝にもかかわらず蛹の色が緑色、オレンジ色、褐色と異なる結果になった。蛹の色は周囲の色に合わせた保護色になるものと思っていたが、それだけではなさそうである。この蛹はそのまま越冬し、翌2016年5月に羽化したが、蛹の色は幾分変化したものの、そのままであった。
2015年10月に蛹化して越年した緑色とオレンジ色の蛹(2016.5.6 撮影の3D 動画からのキャプチャー画像)
この蛹の色を決める要因について調べたところ、大変興味深い内容が書かれている書籍に出会った。「蝶・サナギの謎」(平賀壮太著 2007年3月20日 トンボ出版発行)である。
アゲハの蛹の保護色決定のしくみについて書かれている「蝶・サナギの謎」の表紙
この本によると、アゲハの蛹の色は、「周りの色」を見て決めていたのではなく、蛹化する場所の表面の粗さから受ける触覚刺激の累積により決まるという。この触覚刺激の累積値が、「しきい値」を超えると褐色の蛹になり、それ以下だと緑色の蛹になるというのである。
また、褐色か緑色かを決めるこの「しきい値」は周囲の明るさ、環境の湿度、食草の種類により変化することも示されている。
その結果、「周りの色」を直接見なくても、結果的に、蛹はうまく周囲の色に合わせた保護色を獲得しているものと考えられている。
私が今回飼育したアゲハは、蛹の状態で越冬する休眠サナギであったが、この場合にはサナギの色は褐色と緑色のほかに中間的なオレンジ色になることがある。この休眠サナギの場合の色の決定メカニズムは、この本に示されている非休眠サナギとはまた異なる生理的要因があるということで、その解明が待たれる。
さて、このアゲハの終齢幼虫が蛹化するところを(3D)撮影していたので、ご覧いただこう。その様子は、以前キアゲハの時に紹介したものととてもよく似ている。
映像からでは判りにくいが、よくみると糸山作りをしている時には、頭部の口の両脇にありアンテナ役をしている機械感覚毛とされているヒゲが木の枝の表面に接触しているのが判る。このアンテナで蛹化する場所の粗さからの刺激を受けていることになる。
終齢幼虫は、糸を吐きながら何度も枝を行ったり来たりして、尾脚を固定する場所には特に念入りに、たくさんの糸を吐いて糸山を作る、そしてここに尾脚をしっかりと固定する。
次に、左右に頭を振りながら帯糸をかける。今回この個体の場合は、6往復半し、13本の糸をかけたところで頭をこの糸束にくぐらせて体を糸にあずける。
アゲハの糸山作りと帯糸作り(2015.10.6 11:40~13:30 30倍のタイムラプスで撮影したものを編集)
そしてしばらくすると頭部が割れて、幼虫時の表皮を尾の方にたぐり寄せて脱皮し蛹になる。表皮が尾脚近くまできたところで、蛹のしっぽの先を抜いて、糸山に押し付けしっかりと固定し、その後激しく体をくねらせて、表皮を完全に脱いでしまう。蛹のしっぽの先には、かぎ状の突起がたくさんついていて、これが糸山の糸に絡むので容易にははずれないという具合である。
アゲハの蛹化(2015.10.6 14:20~10.8 7:20 30倍のタイムラプスで撮影したものを編集)
越冬した蛹の色は相変わらず緑色とオレンジ色をしている。5月になると、蛹の殻を透して中で翅が成長している様子が見えるようになる。こうなるといよいよ羽化が始まる。
アゲハの羽化(2016.5.6 03:05~5.7 07:15 実時間撮影したものを編集)
まるまる一日断続的に撮影をしたが、朝見てみると羽化して飛び立ち、窓枠に止まっていたので、そのまま窓から外に逃がしてやった。外の庭木に止まりしばらくは羽を広げて休息していたが、やがて大空に飛び去っていった。
羽化後飛び立って、庭木にとまり翅を広げるアゲハ 1/2(2016.5.7 撮影)
羽化後飛び立って、庭木にとまり翅を広げるアゲハ 2/2(2016.5.7 撮影)
もっともよく目にすることのできるアゲハチョウの仲間のひとつといえる。ナミアゲハとは気の毒な呼称であるが、「アゲハ」が科全体のことを指す場合があるので、この名前もやむを得ない。
大阪市内に住んでいた子供の頃、この蝶をカミナリチョウと呼んでいた記憶がある。調べてみると確かに大阪ではそのように呼ばれていたとの話もあるが、キアゲハやアオスジアゲハのことをカミナリチョウと呼ぶ場合もあるようで、いまひとつはっきりとしない。
母などは、今でもアゲハを見ると、カミナリチョウと呼んでいるが、キアゲハやアオスジアゲハとの区別がついていないので参考にはならない。もう死語に近いのではと思う。
とてもよく似た種にキアゲハがいて間違いそうだが、前翅中室付け根部分の線状の模様の有無で区別できる。
食草(樹)も異なり、アゲハはサンショウ、カラタチ、ミカン類(ミカン科)であるが、キアゲハはセリ、ミツバ、ニンジン、パセリ、アシタバ、シシウド(セリ科)を食べる。
都会でも庭木のミカン類にはよくこのアゲハの幼虫を見かける。小さな鉢植えなどでは、数匹の幼虫がいると葉がなくなり丸坊主になってることがある。
暖地では年3~5回、寒冷地では年2回発生するとされ、蛹で越冬する。
軽井沢にももちろん棲息しているが、目撃頻度はというとそれほど多くはない。庭のブッドレアに吸蜜に来ているところを撮影できたのは、ここ2年間で数回にとどまる。
ブッドレアの花で吸蜜するアゲハ 1/7。後翅裏にユリのものだろうか、赤い花粉をつけている(2016.8.1 撮影)
ブッドレアの花で吸蜜するアゲハ 2/7(2016.8.1 撮影)
ブッドレアの花で吸蜜するアゲハ 3/7(2016.8.1 撮影)
ブッドレアの花で吸蜜するアゲハ 4/7(2016.8.1 撮影)
ブッドレアの花の近くで飛翔するアゲハ 5/7(2016.8.1 撮影)
ブッドレアの花で吸蜜するアゲハ 6/7(2016.8.1 撮影)
ブッドレアの花で吸蜜するアゲハ 7/7(2016.8.1 撮影)
2015年の秋、アゲハの幼虫を数匹飼育して、蛹化の様子を3D撮影していた。
終齢幼虫が餌を食べなくなり、歩き回り始めるのを見計らって枯れ枝に誘導すると、そこで蛹化するが、よく似た枯れ枝にもかかわらず蛹の色が緑色、オレンジ色、褐色と異なる結果になった。蛹の色は周囲の色に合わせた保護色になるものと思っていたが、それだけではなさそうである。この蛹はそのまま越冬し、翌2016年5月に羽化したが、蛹の色は幾分変化したものの、そのままであった。
2015年10月に蛹化して越年した緑色とオレンジ色の蛹(2016.5.6 撮影の3D 動画からのキャプチャー画像)
この蛹の色を決める要因について調べたところ、大変興味深い内容が書かれている書籍に出会った。「蝶・サナギの謎」(平賀壮太著 2007年3月20日 トンボ出版発行)である。
アゲハの蛹の保護色決定のしくみについて書かれている「蝶・サナギの謎」の表紙
この本によると、アゲハの蛹の色は、「周りの色」を見て決めていたのではなく、蛹化する場所の表面の粗さから受ける触覚刺激の累積により決まるという。この触覚刺激の累積値が、「しきい値」を超えると褐色の蛹になり、それ以下だと緑色の蛹になるというのである。
また、褐色か緑色かを決めるこの「しきい値」は周囲の明るさ、環境の湿度、食草の種類により変化することも示されている。
その結果、「周りの色」を直接見なくても、結果的に、蛹はうまく周囲の色に合わせた保護色を獲得しているものと考えられている。
私が今回飼育したアゲハは、蛹の状態で越冬する休眠サナギであったが、この場合にはサナギの色は褐色と緑色のほかに中間的なオレンジ色になることがある。この休眠サナギの場合の色の決定メカニズムは、この本に示されている非休眠サナギとはまた異なる生理的要因があるということで、その解明が待たれる。
さて、このアゲハの終齢幼虫が蛹化するところを(3D)撮影していたので、ご覧いただこう。その様子は、以前キアゲハの時に紹介したものととてもよく似ている。
映像からでは判りにくいが、よくみると糸山作りをしている時には、頭部の口の両脇にありアンテナ役をしている機械感覚毛とされているヒゲが木の枝の表面に接触しているのが判る。このアンテナで蛹化する場所の粗さからの刺激を受けていることになる。
終齢幼虫は、糸を吐きながら何度も枝を行ったり来たりして、尾脚を固定する場所には特に念入りに、たくさんの糸を吐いて糸山を作る、そしてここに尾脚をしっかりと固定する。
次に、左右に頭を振りながら帯糸をかける。今回この個体の場合は、6往復半し、13本の糸をかけたところで頭をこの糸束にくぐらせて体を糸にあずける。
アゲハの糸山作りと帯糸作り(2015.10.6 11:40~13:30 30倍のタイムラプスで撮影したものを編集)
そしてしばらくすると頭部が割れて、幼虫時の表皮を尾の方にたぐり寄せて脱皮し蛹になる。表皮が尾脚近くまできたところで、蛹のしっぽの先を抜いて、糸山に押し付けしっかりと固定し、その後激しく体をくねらせて、表皮を完全に脱いでしまう。蛹のしっぽの先には、かぎ状の突起がたくさんついていて、これが糸山の糸に絡むので容易にははずれないという具合である。
アゲハの蛹化(2015.10.6 14:20~10.8 7:20 30倍のタイムラプスで撮影したものを編集)
越冬した蛹の色は相変わらず緑色とオレンジ色をしている。5月になると、蛹の殻を透して中で翅が成長している様子が見えるようになる。こうなるといよいよ羽化が始まる。
アゲハの羽化(2016.5.6 03:05~5.7 07:15 実時間撮影したものを編集)
まるまる一日断続的に撮影をしたが、朝見てみると羽化して飛び立ち、窓枠に止まっていたので、そのまま窓から外に逃がしてやった。外の庭木に止まりしばらくは羽を広げて休息していたが、やがて大空に飛び去っていった。
羽化後飛び立って、庭木にとまり翅を広げるアゲハ 1/2(2016.5.7 撮影)
羽化後飛び立って、庭木にとまり翅を広げるアゲハ 2/2(2016.5.7 撮影)