軽井沢からの通信ときどき3D

移住して10年目に入りました、ここでの生活と自然を写真と動画で発信しています

山野で見た蝶(10) ツバメシジミ

2020-06-19 00:00:00 | 
 今回はツバメシジミ。長い冬の間、チョウから遠ざかっていたこともあり、春になると真っ先に姿を見せるツマキチョウを撮影したくて、それではと先日、菜の花畑では知る人ぞ知ると言われている、佐久平に出かけてきた。

 ツマキチョウは野生のタネツケバナ、イヌガラシ、ハタザオなどのアブラナ科の植物を食草にしているので、きっと菜の花畑に行けば見ることができるだろうと思って出かけたのであったが、結果は思ったほどではなく、飛び回る姿は認められたものの、畑はあまりに広すぎて思うように中に入っていくこともできず、ツマキチョウの写真は撮ることができなかった。

 しかし、佐久に行く途中の畑で、車の中からツマキチョウの姿を見つけ、これを追いかけているうちに、ツバメシジミに出会い、こちらはうまく撮影することができたのであった。前置きが長くなったが、というわけで、前に撮影してあった写真を交えて以下紹介させていただく。

 ツバメシジミは、以前紹介した事のあるヤマトシジミとよく似ている小型のシジミチョウである。前翅長9~19mmで、裏面は灰白色、小黒点が散布する。
 尾状突起を持ち、翅裏の後角に小さい橙色斑がある。♂は翅表が青紫色。♀は黒褐色で、春型では青色鱗がある。


尾状突起のあるツバメシジミ♂の標本(2020.6.14 撮影)

 本州の暖地では年4-5回発生し、寒冷地では2-3回になるとされる。終齢幼虫で越冬する。食草はマメ科のカラスノエンドウ、シロツメクサ、アカツメクサ、クズ、ハギ類、コマツナギ、レンゲ、ミヤコグサで、ダイズなどの栽培植物を食べることもある。

 長野県産チョウ類動態図鑑によると、県内では低地から亜高山帯まで広く分布し、最普通種に数えられるとある。近年も個体数に変化は見られないようである。

 いつもの「原色日本蝶類図鑑」(横山光夫著 保育社発行)での記述を見ると、
 「日本全土に産する路傍の蝶として『ルリシジミ』『ヤマトシジミ』とともに同好者には親しみ深い蝶である。春秋の季節をとわず名も知らぬ花を訪れ、この蝶の姿はいつ何処にも認めることが出来る。初心の間は常に目に触れ易いこの種も判別に惑わされるが、本種は名のごとく小さな尾状の突起があって『燕の様なしじみ』として容易に記憶される。・・・」とある。

 ここに記されている通り、ツバメシジミの名前の由来は、小さく細い尾(尾状突起)がついているからとされる。同様に、名前に「ツバメ」を持つ種を見ると、近縁のタイワンツバメシジミ、クロツバメシジミ、ゴイシツバメシジミが図鑑に紹介されている。写真を見ると確かにタイワンツバメシジミにはツバメシジミと同様の尾状突起を持っていることがわかるが、クロツバメシジミにはごく短い尾状突起があるだけで、ゴイシツバメシジミになると尾状突起は見当たらない。

 なお、クロツバメシジミは愛知県新城市の天然記念物に、ゴイシツバメシジミは国の天然記念物に指定されている稀少種である。また、タイワンツバメシジミとゴイシツバメシジミは絶滅危惧I類、クロツバメシジミは準絶滅危惧に指定されている。

 このクロツバメシジミは現在長野県にも生息していて、日本では1919年に上田市で初めて発見されている。

 そのほかにも、ムラサキツバメ、コツバメ、キマダラルリツバメなど、名前にツバメの入っているシジミチョウの仲間がいるが、ここでもコツバメには細く長い尾状突起は認められない。
 逆に、いちいち「ツバメ」を名前に入れるわけにもいかないのであろうが、シジミチョウの仲間には尾状突起を持つものが多い。ゼフィルス・ミドリシジミの仲間にはほとんどすべてこの尾状突起がある。


コツバメ(上左)、トラフシジミ(上右)、アイノミドリシジミ♂(下左)、
ミドリシジミ♀B型(下右)の標本

 また、アゲハチョウの仲間にも大抵立派な尾状突起がついているが、「ツバメ」という名がついているものは無い。オナガアゲハなどツバメアゲハでもよかったのではと思うくらいなのだが。


クサギの花で吸蜜する、長い尾状突起を持つオナガアゲハ(2016.8.8 撮影)

 「軽井沢の蝶」(栗岩竜雄著 ほおずき書籍発行)には著者が小4のころのこのツバメシジミにまつわる思い出話がつづられている。
 「・・・数例目のツバメシジミを捕らえた際、後翅裏面の黒斑がたまたま発達した個体だったため、近似のタイワンツバメシジミと判定し、(顧問の先生に)報告したことがあります。先生はそれを見て、”ほう、そうか・・・・。” 特別なリアクションもなく、いつもと変わらない対応。・・・南方系のタイワンツバメシジミが、間違っても軽井沢にいるはずがない! 未熟な少年が普通のツバメシジミに惑わされた・・・、そんなところだと深くは追及しなかったのでしょう。・・・」

 この話を読んでからのことである。義父のチョウのコレクションを時々ここでも紹介しているが、自宅のあった埼玉と別荘のあった軽井沢がチョウ採集の拠点になっていたので、タイワンツバメシジミはさすがにコレクションに含まれていないだろうと思いながら、確認してみたところ....あった。採集地は石垣島であった。ツバメシジミのコレクションと合わせ紹介する。


義父のコレクションにあるツバメシジミ上(左♂、中♀、右♀裏面)と
タイワンツバメシジミ下(左?、中♀、右♂裏面)

 以下、軽井沢と周辺で撮影したツバメシジミである。


畑の畔で見かけたツバメシジミ春型♀(2020.4.30 撮影)

畑の畔で見かけたツバメシジミ春型♀(2020.4.30 撮影)

シロツメクサの生える休耕地で見かけたツバメシジミ春型♀(2017.5.22 撮影)

畑の畔で見かけたバメシジミ春型♀(2020.4.30 撮影)

畑の畔で見かけたツバメシジミ春型♀(2020.4.30 撮影)


シロツメクサの生える休耕地で見かけたツバメシジミ春型♀(2017.5.22 撮影)

河原の叢で見かけたツバメシジミ♂ (2015.9.2 撮影)

河原の叢で見かけたツバメシジミ♂ (2015.8.10 撮影)


河原の叢で見かけたツバメシジミ♂ (2015.8.10 撮影)

クサフジ(の仲間?)の花の近くで葉に止まるツバメシジミ (2015.8.23 撮影)


河原の叢で見かけたツバメシジミ♀(2015.9.2 撮影)

畑の畔で見かけたツバメシジミ春型♀(2020.4.30 撮影)

 次は食葉のシロツメクサの花穂に産卵しているところ。八千穂高原に向かう道の傍らで撮影した。

シロツメクサの花穂に産卵するツバメシジミ♀ 1/3 (2017.5.22 撮影)

シロツメクサの花穂に産卵するツバメシジミ♀ 2/3 (2017.5.22 撮影)

シロツメクサの花穂に産卵するツバメシジミ♀ 3/3 (2017.5.22 撮影)

 都市部でも普通に見られ、個体数が多いとされるこの種だが、食草にしている植物の種類が多様なこと、そこにシロツメクサが含まれていることも関係しているのではと思える。我が家の周囲にも多く見られるシロツメクサであるが、雑草だとばかりに引き抜かないで、多少残しておかなければと思っている。そして、できればアカツメクサに来るモンキチョウの時のように、生活史を撮影したいところである。




 






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