ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

合所ダム

2023-08-12 17:00:00 | 福岡県
2022年5月25日 合所ダム
2023年5月24日

合所(ごうしょ)ダムは福岡県うきは市浮羽町小塩の筑後川水系隈上川にある灌漑・上水目的のロックフィルダムです。
現在のうきは市から久留米市に至る耳納山地北鹿の筑後川左岸地域では洪水のたびに取水設備が損壊する一方、段丘上や丘陵地は水利に乏しく生産性向上のため灌漑施設の整備が求められていました。
1972年(昭和47年)に九州初の国営かんがい排水事業として『耳納山麓農業水利事業』が着手され、その灌漑用水源として1990年(平成2年)に合所ダムが竣工、事業全体も1993年(平成5年)に完了しました。
ダム建設には福岡地区水道企業団及び久留米広域水道企業団(現福岡県南広域水道企業団)が水道事業者として参加し、運用開始後は福岡県農林水産部が管理を受託し4600ヘクタール超の田畑に灌漑用水を供給するほか、2水道企業団に上水道用水を供給しています。
ダムおよび農業水利事業の完成により、耳納山麓丘陵地では大規模な果樹園地や園芸農地が開発され、とりわけ果樹栽培が活性化し今や農業産出額に占める果実の割合が3割を超えるフルーツ王国となっています。

合所ダムには2022年(令和4年)に訪問しましたが、この時はコロナ対応のため天端や左岸に立ち入りできず、2023年(令和5年)5月に再訪しました。
日付表示のない写真はすべて初回訪問時のものです。

ダムの下流の県道108号うきは大橋から洪水吐斜水路と正対できます。


農業用フィルダムとしては珍しくラジアルゲートを装備。


斜水路は上段で傾斜が変わる一方、減勢工には副ダムが2基設置。
減勢工右手(左岸)には利水放流設備があり、取水は下流の隈上頭首工で行われます。


放流設備をズームアップ。
利水放流設備のほか非常用としてジェットフロートゲートを装備。


堤体は堤高60.7メートル、堤頂長270メートル
リップラップには芝が張られ見た目はアース。
放置して草が生えたのではなく意図的に芝を張ったようです。


天端は『関係者以外進入禁止』
管理する県に確認したところ、平時は徒歩での立ち入りは問題ないそうですが、初回訪問時はコロナ対応によりここまで。
再訪時に天端、左岸を見学しました。


取水設備は
複式斜樋
1門の表層取水用ゲートと複数の取水口ゲートの組み合わせにより、連続的な表層取水が可能、ちなみにこの斜樋の取水口ゲートは5門。
熊本の清願寺ダムや北海道の日新ダムなどでもこの型式の斜樋を採用しています。

洪水吐から
減勢工には副ダムが2基設けられています。
(2023年5月24日) 


合所ダムの特徴の一つがカイゼル髭のようにくるっと湾曲した導流壁。
建設の際の土木屋さんの苦労が目に見えます。
(2023年5月24日)


上流面
放流の際、フィル堤体と洪水吐の接続部への水圧軽減目的でこのような導流壁になったと思われます。
(2023年5月24日)


洪水吐をズームアップ
田植えを控えた用水需要最盛期ということで満水。
(2023年5月24日)


左岸丘陵上果樹園地から俯瞰
総貯水容量760万立米は九州の農業用ダムとしては屈指のスケール。
事前にグーグルのストリートビューでダムが見えそうなところを探していたらここを偶然発見。
ダム便覧にもここからの写真はなく(2023年5月にワタクシの写真が掲載済み)、ほぼ全景が見えるなかなかのスポット。
ちなみに丘陵上には広く柿畑やブドウ畑広がりこれもダムの恩恵。


合所ダムの断面図及び諸元表。

概要説明板
有効貯水容量中灌漑容量が437万立米、上水道用水容量が233万立米。
(2023年5月24日)


竣工碑と立退き住民への顕彰碑
竣工碑は福岡では珍しい金箔文字。
(2023年5月24日)


水利使用標識
かんがい面積は4600ヘクタールに及び灌漑最大取水量も毎秒3.648立米と大きな取水量になっています。
(2023年5月24日)


(追記)
合所ダムは洪水調節容量を持たない利水ダムですが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行う予備放流容量が配分されました。

2436 合所ダム(1855)
福岡県うきは市浮羽町小塩
筑後川水系隈上川
AW
60.7メートル
270メートル
7600千㎥/6700千㎥
福岡県農林水産部
1990年
◎治水協定が締結されたダム