今年日本で30年以上ぶりに新作が公開された『瞳をとじて』の監督ビクトル・エリセの2作目の監督作品『エル・スール』が、『瞳をとじて』の公開に合わせて映画館で上映されました。仙台の公開が東京に3週間遅れのため、昨日ようやく見ることができました。35年以上前にシネヴィヴァン六本木で見た記憶があります。その時も衝撃だったのですが、今回見て、ほとんど忘れていたことが悔しく思えました。とは言え、いくつかのシーンが強烈に印象に残っており、記憶通りのシーンがよみがえりました。そして、今だからこそわかることに心が引きちぎられるような感覚に襲われました。
この映画の背景にはスペインの内戦があります。左派と右派が戦い、結果右派のファシズム陣営が勝利します。右派のリーダーがフランコです。第二次世界大戦の同盟国側がおもに右派を支持します。女エストレーリャの父親アグスティンは左派を支援していて、右派を支持していた父親と仲違いをしてしまい、北に移住します。父親はかつての恋人とも離れ離れになり、秘密を抱えながら生きることになります。娘のエストレーリャはある時、偶然父の秘密に気付いてしまいます。そして大きくなってそれを父親に暴露してしまいます。
人生には避けて通れない困難があります。それに伴う苦悩があります。上手くいかないのが人生です。そしてうまく行かなかったことが重くのしかかる場合もあります。誰も助けてくれないような困難だってあるのです。父親の苦悩と家族のせつなさがひしひしと伝わってきます。
こんなにすごい人生ドラマがたんたんと描かれていくのです。たかだか90分あまりの映画なのに中身が濃く、神経を研ぎ澄ましてみる必要がある映画です。映画らしい映画と言っていいと思います。久しぶりに見て興奮してしまいました。
エリセ監督の『ミツバチのささやき』もすばらしい映画でした。今回上映される『瞳をとじて』も楽しみです。