スモール乳酸菌って何のことだ:
聴解力とは“listening”(=聞き取り)のことらしい。当方はどうやら寄る年波で聞き取る力が衰えたようで、早朝にテレビに流れるCMで「スモール乳酸菌」と歌っているのがある。「そうか、乳酸菌には大と小があるのか。知らなかった」と思って聞いていた。また、この会社には「チャンチュール」というペットフードもあるのだと聞いていた。ところが、ある朝のこと。テレビに近付いて良く聞けばスモール乳酸菌ではなく「凄―イ乳酸菌」だったので「何という耳の衰えか」と嘆かざるを得なかった。
だが、話はこれで終わっておらずに「チャンチュール」は画面を見れば“CAO”というアルファベットで「チャオ」だったので、ここでもまた驚かされた。歌い方が悪いのだと他人の所為にしたかったし、Caoをポルトガル語でSao Pauloと書くように「チャン」と発音するのかとも受け止めていた。だが、落ち着いて聞くと「チャオチュール」と歌っていたのだった。「凄―イ乳酸菌」もそうだが、このチャオチュールにはもしかして、往年は「我こそは」と自信があった聞き取り能力が衰えたのかと落ち込んでいた。
何方か、早朝このCMを試されて、どのように聞こえるかお試し下されば幸甚です。
この聞き取り損ないで思いだしたことがあった。それは、日本語と違って英語の単語には「母音に強いアクセントが来るので、綴りとはかなり異なった聞こえ方をする現象」があるので、我々日本語を母国語とする者にとっては聞き取りにくいのである」ということ。1996年8月に上梓した拙著「アメリカ人は英語がうまい」でも触れた例に、港湾労務者が“What do you want?”を「割り碗」と覚えているという例がある。私は試したことはないが、これは外国人たちに正確に聞き取って貰えたのだそうだ。
また、何方が回顧しておられたか記憶はないが、UKのロンドンでWest Kensingtonを何と発音しても通じなかったので、「エイヤッ」とばかりに「上杉謙信」と言ったら通じたという笑い話のような例もあったし、Bostonが解って貰えなくて「ボスン」としたら何とかなったという、冗談のような例もある。何れもが「アクセント」の問題であると思う。
未だ他にも似たような例がある。私よりも2年遅れで某都の西北大学大学院を中退して入社してきたK君は、当時の我が国最高の進学校・日比谷高校(旧府立一中)の出身だった。彼の家には日系二世の若き女性が日本語の勉強を兼ねて滞在していた。この女性とK君と彼の日比谷高校の秀才だった仲間2人を加えた5人で、この女性を囲んで方々遊んで歩いていた。彼女の日本語は未だ怪しくて屡々会話が英語になった。ある日、仲間の一人がくしゃみと咳を連発した。彼女が“Did you catch cold?”と尋ねた。
すると訊かれた方は「ジューケチコーって何だ」と言い出した。彼女のようなnative speakerが早口で言うと、このように聞こえたのだった。「そうかも知れない」と肯定すると、彼女は「実は私も引いていたようで」と“I caught cold, too.”と言ったのだが、これは「アイコーコー」と聞こえたようで「それは何だ」となってしまった。これはアクセントも問題だが、英語の単語でお仕舞いに“t”と“d”が来ると聞き取りにくくなるし、発音しづらくなるものなのだ。「コーコー」などはその典型的な例だと思って聞いていた記憶がある。
この辺りがnative speakerたちが話す時の、我が国の学校教育では容易に教えられない「聞き取り」の問題だと思う。それは「次の単語と繋がってしまう発音が多い」事もあるが、英語には「連結音」という「前の単語の終わりが母音だと、次に来る単語の子音と一緒に発音されてしまう」という現象があることだ。私が屡々採り上げてきた例に「ターンオーバー」即ち、turn overがある。彼らはこの“n”と“o”を続けて「ターンノーバー」のように言うのだ。
某商社でシアトルに駐在した従兄弟は「初めてアメリカに来て最も困ったのが聞き取りの問題。単語と単語が繋がって発音されるので、何処で切れるのか、何処がその文章の終わりなのかが聞き取れなかったこと」と回顧していた。きわめて尤もだと思う。シアトルがある西海岸のワシントン州生まれの人たちは一般的に早口ではない。だが、特に東海岸のニューヨークの生まれで育ちの人たちは非常に早口なので、聞き取りに難渋させられるのだ。西海岸育ちの連中は「彼らは前の単語が終わる前に次の単語を喋っているので困る」と揶揄していた。
私は「聴解力を強化するのは慣れしかない」と思っている。英語は上記のようにアメリカの東西で違っているかと思えば、南部訛りもあるのだ。そして、UKに行けばLondon cockneyがあるし、オーストラリアに行けば「グッダイマイト」=Good day, mate.“と挨拶されるのだ。ここまで来ると、聞き取れるかどうかの前に「ところ変われば英語変わる」の問題かも知れない。フィリピンでは「イノデルワルズ」は“in other words“だったのだ。
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