【掲載日:平成22年10月22日】
をとめ等が 績麻懸くといふ 鹿背の山
時の往ければ 京師となりぬ
時代移りの 悪戯なのか 帝の思いの 戯れなのか
恭仁の都に 賑いあれど 旧都平城宮 夕日に沈む
紅に 深く染みにし 情かも 寧楽の京師に 年の経ぬべき
《こんなにも 心馴染んだ 奈良都 荒れたまんまで 日ィ経つのんか》
―作者未詳―〈巻六・一〇四四〉
世間を 常無きものと 今そ知る 平城の京師の 移ろふ見れば
《世の中は 空しいもんと よう分かる 奈良の都の 寂れん見ると》
―作者未詳―〈巻六・一〇四五〉
岩綱の また変若ちかへり あをによし 奈良の都を またも見むかも
《蔦の葉は また蒼なるで 奈良都も また青丹よし ならんやろうか》
―作者未詳―〈巻六・一〇四六〉
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甕原宮 名前を替えて 恭仁の京と 位が上がる
又の元の名 布当の原は 今や帝都と 花咲き誇る
わご大君 神の命の 高知らす 布当の宮は
百樹なし 山は木高し 落ち激つ 瀬の音も清し
《天皇の お治めなさる 布当宮 木々が茂って 山高い 激流の瀬音 清らかや》
鴬の 来鳴く春べは 巌には 山下光り 錦なす 花咲きををり
さ男鹿の 妻呼ぶ秋は 天霧らふ 時雨をいたみ さ丹つらふ 黄葉散りつつ
《鶯鳥が 鳴く春は 山裾岩は 照り光り 錦きらめく 花が咲く
男鹿連れ呼ぶ 秋来たら 空を覆って 時雨降り 黄葉ほんのり 色づくよ》
八千年に 生れつがしつつ
天の下 知らしめさむと 百代にも 易るましじき 大宮所
《八千年の 後までも 世継ぎ次々 生まれられ
この国ずっと 治めはる 百代までも 変わらんと 続いて行くよ ここの大宮所》
―田辺福麻呂歌集―〈巻六・一〇五三〉
泉川 ゆく瀬の水の 絶えばこそ 大宮所 移ろひ往かめ
《大宮が 寂れる時は 泉川 流れの水が 枯れる時やで〈無いでそんなん〉》
―田辺福麻呂歌集―〈巻六・一〇五四〉
布当山 山並見れば 百代にも 易るましじき 大宮所
《布当山 連なっとるで 百代も 連なり行くで ここの大宮所》
―田辺福麻呂歌集―〈巻六・一〇五五〉
をとめ等が 績麻懸くといふ 鹿背の山 時の往ければ 京師となりぬ
《少女らが 麻繰る桛の 鹿背の山 時が来たんで 都になった》
―田辺福麻呂歌集―〈巻六・一〇五六〉
鹿背の山 樹立を繁み 朝去らず 来鳴き響もす 鴬の声
《鹿背山は 木ィいっぱいや 鶯が 毎朝来ては 賑やか鳴くよ》
―田辺福麻呂歌集―〈巻六・一〇五七〉
狛山に 鳴く霍公鳥 泉川 渡を遠み 此処に通はず
《狛山で 鳴く鶯は 泉川広て よう渡れんで ここへ来よらん》
―田辺福麻呂歌集―〈巻六・一〇五八〉
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