雲隠り 鳴くなる雁の 去きて居む
秋田の穂立 繁くし思ほゆ
家持に友がいた
藤原八束
父は 藤原房前
旅人 大宰の帥在任中 梧桐日本琴を送り
親交を得んとした方
家持と八束
歌付き合いは 言うに及ばず
軽口の応酬も気楽な仲
少しは 歌らしくなった 手慰み
時雨の雲に 家籠りを余儀なくされた宵
雁の声 穂立ち 黄葉葉 月の出
創ってみると 見せたくなる
ひさかたの 雨間も置かず 雲隠り 鳴きそ行くなる 早稲田雁がね
《雲の陰 雨降る間ぁも 休まんと 雁鳴き飛ぶよ 早稲の田の上》
―大伴家持―〈巻八・一五六六〉
雲隠り 鳴くなる雁の 去きて居む 秋田の穂立 繁くし思ほゆ
《雲隠れ 鳴き飛ぶ雁の 行き先の 秋田の穂ぉは たわわやろうか》
―大伴家持―〈巻八・一五六七〉
雨隠り 情いぶせみ 出で見れば 春日の山は 色づきにけり
《雨降りが 欝としいんで 出てみたら 春日の山は 色づいてたで》
―大伴家持―〈巻八・一五六八〉
雨晴れて 清く照りたる この月夜 また夜くたちて 雲な棚引き
《雨止んで 月さわやかに 照っとるで もうこれからは 雲出んときや》
―大伴家持―〈巻八・一五六九〉
早速に 八束からの 返し歌
此処にありて 春日や何処 雨障 出でて行かねば 恋ひつつそ居る
《この雨に 降り込められて 春日山 足遠のいた 行ってみたいで》
―藤原八束―〈巻八・一五七〇〉
春日野に 時雨降る見ゆ 明日よりは 黄葉插頭さむ 高円の山
《春日野に 時雨れ降ってる 黄葉やな 明日髪挿しに 高円山行こか》
―藤原八束―〈巻八・一五七一〉
雨後の 更けゆく 秋の宵
遠く 鳴き交わす 雁の声に
親しみ覚える 家持
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