【掲載日:平成22年9月3日】
春の野に あさる雉の 妻恋に
己があたりを 人に知れつつ
旅人の喪が明けた
佐保大納言家の当主となった 家持
時に まだ齢十五
旅人の資人 余明軍は
一年の喪明けと共に その任が解かれる
見奉りて いまだ時だに 更らねば 年月のごと 思ほゆる君
《お仕えし 日ィ浅いのに 長いこと 仕えた思える 家持様です》
―余明軍―〈巻四・五七九〉
あしひきの 山に生ひたる 菅の根の ねもころ見まく 欲しき君かも
《出来るなら 菅の根みたい 長々と お仕えしたい 家持様です》
―余明軍―〈巻四・五八〇〉
別れに際し 余明軍は
かねての 旅人から預かった 書状を差し出す
「大殿さま 身罷りの折 お預かりのものです」
―諭しのこと―
一、大伴家 伴造としての勲忘れず
天皇への仕え一途に励むこと
一、政治がこと 関わり浅きが 上策
扇動輩に付き従うは 厳に避くるべきこと
一、人付き合い 世渡りが為 歌作りが要
切磋琢磨し 一廉の歌人目指すべきこと
一、歌修錬は 我が遺稿 並びに筆録の先人
人麻呂殿 赤人殿 憶良殿らの筆に学ぶこと
〈かねがね 父上が 仰せのこと
大伴家守り 盛運得るに 心せねばなるまい
それにしても
父上 我が歌の稚拙を ようくご存知
励まねばならぬが 今ひとつ性に合わぬわ〉
家持は
作り置いた 真似ごと歌を 思い出していた
うち霧らし 雪は降りつつ しかすがに 吾家の園に 鴬鳴くも
《空覆い 雪降るのんに 鶯が もう来てからに 庭で鳴いとる》
―大伴家持―〈巻八・一四四一〉
春の野に あさる雉の 妻恋に 己があたりを 人に知れつつ
《春の野で 餌捕る雉は 連れ呼んで 居場所猟師に 教えとるがな》
―大伴家持―〈巻八・一四四六〉
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