人麻呂歌集編（17）母が養(か)ふ蚕（こ）の

【掲載日：平成24年3月16日】

垂乳根たらちねの　母が養かふ蚕この　繭隠まよこもり　隠こもれる妹を　見むよしもがも


人　の行い　題材豊か
蚕かいこ飼う繭まゆ　髪結う木綿もめん
隼人はやと叫びに　占い言葉
楫かじ　砂　道と　歌続き行く

垂乳根たらちねの　母が養かふ蚕この　繭隠まよこもり　隠こもれる妹を　見むよしもがも
《母が飼かう　蚕かいこは繭まゆに　籠こもりする　籠りする児に　どしたら逢える》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二四九五）
肥人こまひとの　額ぬか髪がみ結ゆへる　染しめ木綿ゆふの　染しみにし心　我れ忘れめや
《肥人こまひとの　前髪結むすぶ　染そめ木綿もめん　あんたに染しみた　心忘れん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二四九六）
隼人はやひとの　名に負おふ夜声よごゑ　著いちしろく　我が名は告のりつ　妻と恃たのませ
《隼人はやひとが　出す声みたい　はっきりと　うち名言ゆうたで　奥さんしてや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二四九七）
言霊ことたまの　八十やその衢ちまたに　夕占ゆふけ問とひ　占うら正まさに告のる　妹いもは相寄らむ
《夕暮れに　衢ちまたの道で　占うらのたら　ちゃんと出たんや　あの児靡なびくて》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二五〇六）
玉桙たまほこの　道行き占うらに　占なへば　妹に逢はむと　我れに告のりつも
《道筋の　占い使つこて　占うらのたら　あの児逢えるて　聞いたでわしは》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二五〇七）
大船おほふねに　真ま楫かぢ繁しじ貫ぬき　漕ぐ間ほとも　ここだ恋ふるを　年にあらば如何いかに
《大船の　楫かじ漕ぐ間まぁも　恋しのに　一年逢わん　そんなん無茶や》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二四九四）
解とき衣きぬの　恋ひ乱れつつ　浮き真砂まなご　生きても我れは　あり渡るかも
《恋惑まどい　心乱れて　浮き砂の　ふわふわとうち　日ィ過ごしてる》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十一・二五〇四）
新墾にひばりの　今作る道　さやかにも　聞きてけるかも　妹いもが上うへのことを
《新開しんかいの　新あたらし道や　はっきりと　聞いた聞いたで　あの児の評判うわさ》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―柿本人麻呂かきのもとのひとまろ歌集―（巻十二・二八五五）



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