令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

家待・青春編(二)(08)わが思ふ君は

2010年11月12日 | 家待・青春編(二)内舎人青雲
【掲載日:平成22年10月1日】

長門ながとなる 沖つかりしま 奥まへて
           わが思ふ君は 千歳ちとせにもがも



政権の中核をになう 橘諸兄もろえ
着々と その地歩じほを固めつつある
邸をおとなうは 引きも切らない
天平十年〈738〉秋八月 山背やましろ相楽さがら別荘
今日も今日とて  酒宴が続く

長門ながとなる 沖つかりしま 奥まへて わが思ふ君は 千歳ちとせにもがも
《沖の借島しま こころ奥底 思う橘卿きみ 長生きされて としの千まで》
                         ―巨曽倍津嶋こそべのつしま―〈巻六・一〇二四〉
奥まへて われを思へる わが背子は 千年ちとせ五百歳いほとせ 有りこせぬかも
《心から 慕うてくれる 津嶋あんたこそ 千も五百も 長生きしてや》
                         ―橘諸兄―〈巻六・一〇二五〉 

「これは右大臣様 見事なかさね句 
 今日の趣向は  決まりじゃ」
高橋安磨たかはしのやすまろが はしゃぐ

さを鹿の 来立ち鳴く野の 秋萩は 露霜つゆしもひて 散りにしものを
男鹿おじか来て 鳴く野の萩は 露浴びて 散って仕舞しもてる わびしいこっちゃ》
                         ―文馬養あやのうまかひ―〈巻八・一五八〇〉
このをかに 小牡鹿をしかし 窺狙うかねらひ かもかもすらく ゆゑにこそ
《あれこれと 鹿とらえ策 る様に 心尽くすん 橘卿あんたの為や》
                         ―巨曽倍津嶋こそべのつしま―〈巻八・一五七六〉
秋の野の 草花をばなうれを 押しなべて しくもしるく 逢へる君かも
《秋の野の すすきの穂ぉを 押し倒し 来た甲斐あって 橘卿あんたに逢えた》
                         ―阿倍虫麻呂あへのむしまろ―〈巻八・一五七七〉
雲のうへに 鳴くなる雁の 遠けども 君に逢はむと たもとほ
《雲の上 鳴く雁遠い 遠い道 橘卿あんたに逢おと はるばる来たで》
                         ―作者未詳さくしゃみしょう―〈巻八・一五七四〉
雲の上に 鳴きつる雁の 寒きなへ 萩の下葉は 黄変もみちぬるかも
雲上くもうえで 鳴く雁の声 寒々さむざむし 萩の葉先が 黄葉こうようしてる》
                         ―作者未詳さくしゃみしょう―〈巻八・一五七五〉
今朝けさ鳴きて 行きしかり 寒みかも この野の浅茅あさぢ 色づきにける
《今朝鳴いて 飛んでた雁の 声寒い 野原の浅茅あさじ 色づいとおる》
                         ―阿倍虫麻呂あへのむしまろ―〈巻八・一五七八〉
朝戸開けて  物思ふ時に 白露の 置ける秋萩 見えつつもとな
《朝戸開け 別れつらいに 白露の 置く秋萩はぎ見たら 余計よけつらいがな》
                         ―文馬養あやのうまかひ―〈巻八・一五七九〉
〈高橋安磨〉
橘の もとに道む 八衢やちまたに 物をぞ思ふ 人に知らえず
《橘の  並木続きの 分かれ道 うちの悩むん 誰知ってんや》
                         ―豊島采女としまのうねめ―〈巻六・一〇二七〉
〈橘諸兄〉
ももしきの 大宮人おほみやびとは 今日もかも いとまみと 里にかずあらむ
《大宮に 仕える人は 暇うて 今日もまたうち 帰られんのか》
                         ―豊島采女としまのうねめ―〈巻六・一〇二六〉

「右大臣様 かさね句が ございませぬ」 
責める安磨に 橘諸兄もろえすかさず
「安麻呂殿が 故豊島采女としまのうねめの歌 借用したにより
 わしも 采女が歌 借りたまで 作り手かさねじゃ」
笑いのうち 座に なごみが 流れて行く


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