【掲載日:平成22年5月21日】
草枕 旅行く君を 幸くあれと
斎瓮据ゑつ 吾が床の辺に
天平十八年〈746〉
家持に 越中の守の任が下った
政界で重きを為すには
地方での長官修行が習いだ
遅すぎた嫌いはあるものの
坂上郎女の 中央への働きかけが 功を奏したか
妻を都に置いての赴任
家持への 家としての面目と
一人旅の娘婿への 憂慮が胸をよぎる
草枕 旅行く君を 幸くあれと 斎瓮据ゑつ 吾が床の辺に
《赴任旅 どうか無事でと 床の間に 陰膳据えて 祈っておるで》
今のごと 恋しく君が 思ほえば いかにかもせむ するすべのなさ
《今更の ようにあんたが 思われる どしたらえんか わからへんがな》
旅に去にし 君しも継ぎて 夢に見ゆ 吾が片恋の 繁ければかも
《旅立った あんたしょっちゅう 夢に見る 一人思いが 激しいからか》
道の中 国つ御神は 旅行きも 為知らぬ君を 恵みたまはな
《越中の 国の神さん 守ってや この子あんまり 旅知らんから》
―大伴坂上郎女―〈巻十七・三九二七~三〇〉
赴任後の 家刀自の 気遣い 越の地迄追う
常人の 恋ふといふよりは 余りにて 我れは死ぬべく なりにたらずや
《恋しさは 普通のもんと 違うんや この恋しさは 死んでまうほど》
片思ひを 馬にふつまに 負せ持て 越辺に遣らば 人かたはむかも
《この思い 馬の背中に 全部乗せ 送れば誰ぞ 知ってくれるか》
―大伴坂上郎女―〈巻十八・四〇八〇~一〉
心配りの 嬉しさ
家持も おどけ応える
天離る 鄙の奴に 天人し かく恋すらば 生ける験あり
《越に居る わしをこんなに 恋慕う 天女おるんや 嬉しいかぎり》
常の恋 いまだ止まぬに 都より 馬に恋来ば 荷ひ堪へむかも
《恋心 募ってるのに 更にまた 馬の恋荷で 潰れてしまう》
―大伴家持―〈巻十八・四〇八二~三〉
暁に 名告り鳴くなる 霍公鳥 いやめづらしく 思ほゆるかも
《朝やでと 言うて鳴いてた ホトトギス 常より一層 麗し思う》
―大伴家持―〈巻十八・四〇八四〉
郎女の心を察し
なんとは無しの歌をも添える 家持の優しさ
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