【掲載日:平成22年4月16日】
山菅の 実成らぬことを 我れに依せ
言はれし君は 誰とか寝らむ
【大坂峠の道 右手が名児山の山裾】
ここ筑紫
都の洗練才女の坂上郎女
次々届く 相聞歌
旅人配下百代も 声かける
事も無く 生き来しものを 老なみに かかる恋にも 我れは遇へるかも
《平凡に 生きてきたのに 年取って こんなせつない 恋するかワシ》
恋ひ死なむ 後は何せむ 生ける日の ためこそ妹を 見まく欲りすれ
《恋狂い して死んだかて 意味ないで 生きてるうちに 逢いたいもんや》
思はぬを 思ふと言はば 大野なる 三笠の杜の 神し知らさむ
《嘘ついて 愛してるやて 言うたなら 三笠の神さん 罰当てはるで》
〈嘘やないから 罰当たらんで〉
暇無く 人の眉根を いたづらに 掻かしめつつも 逢はぬ妹かも
《人の眉 しょっちゅ掻かせて その気させ 逢うてくれんと 悪い女やで》
―大伴百代―〈巻四・五五九~六二〉
三十路に乗った郎女 それとは無しの拒み
黒髪に 白髪交り 老ゆるまで かかる恋には いまだ逢はなくに
《黒髪に 白髪の交じる 年なって こんな恋した ことあれへんわ》
山菅の 実成らぬことを 我れに依せ 言はれし君は 誰とか寝らむ
《うちのこと 思てるなんて 嘘言いな あんた誰かと 寝てるくせして》
―大伴坂上郎女―〈巻四・五六三~四〉
天平二年〈730〉帥の任解かれし旅人
前もっての 帰京の道を辿る郎女
宗像郡 名児山 その名に誘われ 思わず詠う 恋の歌
大汝 少彦名の 神こそば 名付け始めけめ
名のみを 名児山と負ひて 我が恋の 千重の一重も 慰めなくに
《大汝 少彦名の 神さんが 名前を付けた 名児山は
名前倒れや うちの恋 万に一つも 和めへんがな》
―大伴坂上郎女―〈巻六・九六三〉
我が背子に 恋ふれば苦し 暇あらば 拾ひて行かむ 恋忘貝
《貝拾ろお あんた思たら 胸苦し 恋を忘れる 片貝拾ろお》
―大伴坂上郎女―〈巻六・九六四〉
帰京の後も 筑紫が 偲ばれる
今もかも 大城の山に 霍公鳥 鳴き響むらむ 我れ無けれども
《ホトトギス 今も大城山で 鳴いてるか うち平城きて 居らへんけども》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一四七四〉
何しかも ここだく恋ふる 霍公鳥 鳴く声聞けば 恋こそまされ
《ホトトギス 鳴く声なんで 待つんやろ 聞いたら余計 恋しなるのに》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一四七五〉
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