【掲載日:平成22年3月17日】
家にありし 櫃にかぎさし 蔵めてし
恋の奴の つかみかかりて
〈とかくの噂ある あの方じゃが
いたしかた あるまいか〉
安麻呂は 気の進まぬ心決めをしていた
大伴安麻呂
大納言を拝命する 大伴家の総帥
朝廷軍事を預かる 伴造意識は強い
かの壬申の乱
天武天皇のもと 戦功を立て
天武朝の重臣として活躍した 大伴家
天皇中心の 皇親政治が行われていた
しかるに
持統天皇の御代 文武 元明と 時代が下り
平城遷都 律令整備進み
世は官僚中心政治へと移る
その中核は 藤原不比等
あの大職冠藤原鎌足の子である
次第に 勢力地図の変わる中
安麻呂は 今一度の 皇親政治復活を願っていた
安麻呂は とある宴席を 思う
家にありし 櫃にかぎさし 蔵めてし 恋の奴の つかみかかりて
《家にある 箱に錠かけ 封印た 好色心 またぞろ疼く》
―穂積皇子―〈巻十六・三八一六〉
穂積皇子
天武天皇 第八皇子
あの 但馬皇女との 熱愛 いまだに語り草だ
その皇女が亡くなられ 五年
〈我が家の末娘 郎女と なんとか成らぬものか〉
安麻呂は 坂上郎女の歌を 届けさせる
童女の域を 脱したばかりの 郎女
歌詠み家の育ちが 幸いし
年を思わせぬ歌を詠む
〈この歌を添えての 婚結びの誘い
皇子の気を引くやも知れぬ〉
狩高の 高円山を 高みかも 出で来る月の 遅く照るらむ
《すぐ傍に 迫る高円山 高いんで 月出て照るん 遅いんやなあ》
ぬばたまの 夜霧の立ちて おほほしく 照れる月夜の 見れば悲しさ
《霧立って ぼやっと照る月 見てたなら なんや悲しに なってきたがな》
山の端の ささら愛壮士 天の原 門渡る光 見らくしよしも
《山の端 かかって光る お月さん 空渡るんを 見てたら楽し》
―大伴坂上郎女―〈巻六・九八一~三〉
果たして 安麻呂の策 功を奏すか
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