【掲載日:平成22年4月20日】
然とあらぬ 五百代小田を 刈り乱り
田廬に居れば 都し思ほゆ
旅人が 没した
大宰府より帰還 大納言を拝命した翌年
享年六十七の 身罷りであった
帰京後の半年ばかりは
亡妻大伴郎女を 偲ぶ日々であった
異母兄旅人を亡くし さすがの坂上郎女も 気落ちの極みを 味わっていた
鳴く鳥 咲く花 季節の移ろい
生まれる歌に 寂しさ漂う
霍公鳥 いたくな鳴きそ ひとり居て 寝の寝らえぬに 聞けば苦しも
《ホトトギス そないに鳴きな 聞いてたら ひとり悶々 寝られへんがな》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一四八四〉
咲く花も をそろはいとはし 晩なる 長き心に なほ如かずけり
《見頃前 あわて咲く花 嫌いやな 遅に咲くんが うちええ思う》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一五四八〉
妹が目を 始見の崎の 秋萩は この月ごろは 散りこすなゆめ
《よう咲いた 始見の崎の 秋萩よ ここ一月は 散らんといてや》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一五六〇〉
隠口の 泊瀬の山は 色づきぬ 時雨の雨は 降りにけらしも
《泊瀬山 黄葉の色に 染まってる 時雨も降って 秋去くんやな》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一五九三〉
吉隠の 猪養の山に 伏す鹿の 妻呼ぶ声を 聞くが羨しさ
《猪養山 棲んでる鹿が 妻呼んで 鳴くの聞いたら 妬けてくるがな》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一五六一〉
沫雪の この頃続ぎて かく降らば 梅の初花 散りか過ぎなむ
《沫雪が 続き毎日 降って来る 咲いた梅花 散って仕舞うがな》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一六五一〉
松蔭の 浅茅の上の 白雪を 消たずて置かむ ことはかも無き
《松蔭の 茅に積もった 白雪を そっと置いとく 術ないやろか》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一六五四〉
然とあらぬ 五百代小田を 刈り乱り 田廬に居れば 都し思ほゆ
《広もない 田圃耕し 暮らしてる 田舎居ったら 都懐かし》
―大伴坂上郎女―〈巻八・一五九二〉
故郷 飛鳥の地
心安らぎはするが
都慣れした郎女 平城の賑わいが 恋しい
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