令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

坂上郎女編(5)来むとは待たじ

2010年05月11日 | 坂上郎女編
【掲載日:平成22年4月2日】

むと言ふも ぬ時あるを じと言ふを
        むとは待たじ じと言ふものを



春もおぼろの夕暮れ
坂上郎女いらつめもとへ ふみが届く
郎女いらつめは 開こうともしない
文使ふみづかいが 待っている
返事をもらわないでは  帰れないのだ
文使いは 端女はしために 返しを
取りつく島もない 

「お願いです もう 半時も待っているのですあるじ麻呂様に 叱られます」
しびれを切らせた文使いに やっと返しが届いた
「これは! わたくしが あるじから預かったものでは ないですか」
「そうです これを持って帰しなさいとの 郎女さまのおおせです」

郎女は  おぼろな月の光を見やっていた
〈決まっているわ  『今宵は 行かれぬ』との文
 何度  受け取ったことやら
 それでも  『もしや』と待っている
 それを あの人は 見透みすかしているのだ
 もう  待つものですか〉
おぼろな光が  陰る
〈雲だわ  雲まで 私の心 見ているのね
 ああ  これで もう来ないかもしれない
 私としたことが はしたないことを・・・
 そうだわ  やはり 文だけは返さなくては〉

むと言ふも
  ぬ時あるを
    じと言ふを
      むとは待たじ
        じと言ふものを


うて
   ん時もある
     ない
       るの待たんで
         ない言うんを》
                         ―大伴坂上郎女おおとものさかうえのいらつめ―〈巻四・五二七〉

春の夜は更け  風もこころなしか寒い
郎女は  雲の晴れ間を 待っている


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