【掲載日:平成21年12月9日】
荒津の海 潮干潮満ち 時はあれど
いづれの時か わが恋ひざらむ
旅人の船出に 先立ち
郎党・従者の一行は
那の大津を後に 大和への航路を進んでいた
大和へ戻れば 大納言職遂行に 従者は倍増する
早急に帰っての 準備が必要とされる
主人 旅人とは違い 用意の船は 大船ではない
航路の不安は 比ぶべくもない
乗員の 船旅不安 帰京の喜び
二つの思いを乗せ 船は 一路 東へと・・・
わが背子を 吾が松原よ 見渡せば 海人少女ども 玉藻刈る見ゆ
《おお見える アガ松原から 眺めたら 磯で少女ら 玉藻刈ってる》
―三野連石守―〔巻十七・三八九〇〕
荒津の海 潮干潮満ち 時はあれど いづれの時か わが恋ひざらむ
《海の潮 満ち干の時は 決まってる わしの思いは 引く時ないわ》
―作者未詳―〔巻十七・三八九一〕
磯ごとに 海人の釣船 泊てにけり わが船泊てむ 磯の知らなく
《磯どこも 漁師の船が 泊まってる わしら泊るん どこの磯やろ》
―作者未詳―〔巻十七・三八九二〕
昨日こそ 船出はせしか 鯨魚取り 比治奇の灘を 今日見つるかも
《船出したん 昨日みたいに 思うたが 早いもんやな ヒジキの灘や》
―作者未詳―〔巻十七・三八九三〕
淡路島 門渡る船の 揖間にも われは忘れず 家をしそ思ふ
《船の梶 間狭いが そんな間も わし家のこと 忘れられへん》
―作者未詳―〔巻十七・三八九四〕
大船の 上にし居れば 天雲の たどきも知らず 歌乞わが背
《船の上 波に揺られて 頼りない 何時着くんやろ 懐かし家に》
―作者未詳―〔巻十七・三八九八〕
海少女 漁り焚く火の おぼほしく 都努の松原 思ほゆるかも
《ぼんやりと 津野の松原 見えとおる なんとは無しに 懐かしいがな》
―作者未詳―〔巻十七・三八九九〕
玉はやす 武庫の渡に 天づたふ 日の暮れゆけば 家をしそ思ふ
《きらきらと 武庫の海峡 日ィ暮れる 夕暮れ寂して 家思い出す》
―作者未詳―〔巻十七・三八九五〕
家にても たゆたふ命 波の上に 思ひし居れば 奥処知らずも
《この命 家に居っても 頼りない 船の上では なお頼りない》
―作者未詳―〔巻十七・三八九六〕
大海の 奥処も知らず 行くわれを 何時来まきむと 問ひし児らはも
《海越えて 何処まで行くか 分からんに 何時帰るかと あの児が聞いた》
―作者未詳―〔巻十七・三八九七〕
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