令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

旅人編(24)磯のむろの木

2009年10月18日 | 旅人編
【掲載日:平成21年12月10日】

鞆の浦の  磯のむろの木 見むごとに
             相見し妹は  忘らえめやも

【「むろの木」 仙酔島にて】


天平二年〔730〕十二月 
大伴旅人おおとものたびとは 海路上京のにあった

大宰だざいそちとして 筑紫へくだったは 三年前
あの時  妻と一緒であった
よもや半年 永遠とわの別れが来るとは・・・
大納言拝命の帰路だが 
それを思うと 出世など らぬわ
山上憶良 沙弥満誓さみまんせいら 心楽しい歌友うたともがいた
酒も  こよない友であった
梅花うめはなうたげ 任官祝いの宴 送別の宴
その度に  心の慰めとなった 歌と酒
宴果てたのちの むなしさ 
あれは お前のないせいであったか〕

今宵の  船泊まりは 鞆の浦
旅人たびとに 妻恋しさが つの
吾妹子わぎもこが 見しともうらの むろの木は 常世とこよにあれど 見し人ぞ
《お前見た 鞆のむろの木 変われへん それ見たお前 いまもうらん》
鞆の浦の  磯のむろの木 見むごとに 相見し妹は 忘らえめやも
《むろの木を  見るたびお前 思い出す 一緒に見たんを 忘れられへん》
磯のうへに 根ふむろの木 見し人を いづらと問はば 語り告げむか
《磯の上  根張るむろの木 教えてや 見てたあの人 どこ行ったやろ》
                       ―大伴旅人―〔巻三・四四六~四四八〕 

冬寒ふゆさむの 海風うみかぜは 身にむものの
内海うちうみの 航路は 波静かであった
夜明け 大和島嶺やまとしまねに 日が昇る
〔ああ  帰ってきたのだ
左手に見えるのは 敏馬みぬめの崎か〕
旅人たびとの胸に またしても 妻の面影が 浮かぶ
妹と来し 敏馬みぬめの崎を 帰るさに 独りし見れば 涙ぐましも
敏馬みぬめさき お前と見たな 帰りみち ひとりで見たら 涙とまらん》
行くさには  二人我が見し この崎を 独り過ぐれば 心悲しも
《来るときは 二人で見たな このみさき ひとりとおるん 悲してならん》
                       ―大伴旅人―〔巻三・四四九、四五〇〕 

時に  旅人六十六歳
老齢のあまざかるひなへの赴任・妻との別れ・傷心をいての帰郷であった





<鞆・むろの木>へ


最新の画像もっと見る

コメントを投稿