【掲載日:平成21年12月8日】
大夫と 思へるわれや 水茎の
水城の上に 涙拭はむ
【水城の全貌、上水城付近】

旅立ちの一行は 帥の館を出
いま 水城の堤に立っていた
振りかえる 旅人
三年を過ごした 館が見える
それらの日々が 走馬灯が回る如くに 思われる
筑紫赴任への 船旅
小野老歓迎の 春の宴
憶良との すれ違い
大伴郎女との 永遠の別れ
憶良の 心情あふれる弔問
郎女無き日々の憂い
丹生女王からの便り
長屋王の変
総勢三十二人が集いし 梅花宴
松浦川への 遊行
死病の取り憑かれと 回復
なんと 目まぐるしくもの 日々であったろう
馬上 感慨にふける旅人に 歩を寄せる女人
筑紫での 数多の宴席に侍りし遊女 児島
老齢 やもめの旅人に
それとなくの気遣いを見せてくれた 児島
旅人とて その都度の 気配りを
気付かずにいたわけではない
ここ 大宰府を去り 京へと戻れば
児島との別れは 今生のものとなろう
互いの胸を知りながら
それぞれが 別れの心を詠う
凡ならば かもかも為むを 恐みと 振り痛き袖を 忍びてあるかも
《いつもやと 袖振るけども 門出には 端ないかと 辛抱するんや》
―児 島―〔巻六・九六五〕
倭道は 雲隠りたり 然れども わが振る袖を 無礼しと思ふな
《道雲に 隠れてしもたで ええかなと 袖振るけども 堪忍してや》
―児 島―〔巻六・九六六〕
倭道の 吉備の児島を 過ぎて行かば 筑紫の児島 思ほえむかも
《帰り道 吉備の児島を 通るとき きっと思うで 筑紫の児島》
―大伴旅人―〔巻六・九六七〕
大夫と 思へるわれや 水茎の 水城の上に 涙拭はむ
《男やぞ 水城の上で 涙なぞ 拭いてたまるか 女のために》
―大伴旅人―〔巻六・九六八〕
遠ざかる 旅路の一行
今にも 泣き出しそうな空
雲が 垂れこめ 馬上の旅人の影は 遠ざかる
堪えに堪えた 児島が 袖を振る
振り向こうとしない旅人の馬は 靄の彼方に

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