【掲載日:平成21年11月5日】
験なき 物を思はずは
一坏の 濁れる酒を 飲むべくあるらし
〔わしは 酒に逃げて居るのではない
それにしても しらっと 中座しおって・・・〕
朝まだき 奥の座敷
文机をまえに 端座する旅人がいる
机の上 大徳利
なみなみと注がれた酒坏
〔人は どうして 酒を飲むのか
愉しきにつけ 悲しきにつけ
一杯目 これが また美味い
一杯の酒が 次の酒を呼ぶ・・・
また一杯 もう一杯 さらに一杯・・・
やがて 酔いつぶれて・・・
もう 金輪際との 二日酔い・・・
醒めぬうちの 酒坏・・・
性懲りもなくの 繰り返し・・・〕
〔酒に 罪があろうか
酒は 飲むべきもの 讃むべきもの〕
験なき 物を思はずは 一坏の 濁れる酒を 飲むべくあるらし
《仕様もない 考えせんと 一杯の どぶろく酒を 飲む方がええで》
―大伴旅人―〔巻三・三三八〕
酒の名を 聖と負せし 古の 大き聖の 言のよろしさ
《酒のこと 聖やなんて うまいこと 言うたもんやな 昔の聖人は》
―大伴旅人―〔巻三・三三九〕
古の 七の賢しき 人どもも 欲りせしものは 酒にしあるらし
《高名な 七賢人も 人並みに 欲しがったんは 酒やでやっぱ》
―大伴旅人―〔巻三・三四〇〕
賢しみと 物いふよりは 酒飲みて 酔泣きするし まさりたるらし
《偉ぶって 講釈するより 酒飲んで 泣いてる方が ええんと違うか》
―大伴旅人―〔巻三・三四一〕
言はむすべ せむすべ知らず 極まりて 貴きものは 酒にしあるらし
《なんやかや 言うたり思たり してみても 行きつくとこは やっぱり酒や》
―大伴旅人―〔巻三・三四二〕
なかなかに 人とあらずは 酒壺に 成りにてしかも 酒に染みなむ
《酒壺に 成って仕舞うて 酒に染も 鳴かず飛ばずの 人生よりか》
―大伴旅人―〔巻三・三四三〕
〔わしが まともなのか
あやつが まとのもなのか・・・〕
酒付き合いの悪い 相手と
ついつい 酒に溺れる 自分
忸怩たる思いの 旅人がいる
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