令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

蟲麻呂編(11)片足羽川(かたしはがは)の

2009年10月03日 | 蟲麻呂編
【掲載日:平成21年10月23日】

しな  片足羽川かたしはがはの さ丹塗にぬりの 大橋の上ゆ 
               くれなゐの あか裾引き・・・

【大和川と石川の合流点、大橋はこの辺りにあったか?】


あっ あれは 桜児さくらこ様!
一瞬 目をうたがう 虫麻呂
あのあか あい色の服 
まさしく  桜児様!
その昔 垣間見た 桜児の容姿すがた 
長い年月としつき 忘れようとて 忘れえぬ容姿すがた
そっくり  そのままな児が通る
魂の抜けた  虫麻呂の前
娘子おとめは 通り過ぎる

難波の宮造営工事は  完成が近付いていた
報告の 道すがら 
いつも いつも 通る 片足羽川かたしわがわの 大橋
これまで  何度 往復したことか
でも  一度も 見ることは なかった
〔あれは  桜児様の 生まれ変わりに 違いない
 幻ではない 
 こうして  去っていく後ろ姿が 見えている
 桜児様は  生きている!〕
うつろな 虫麻呂のたたずみをよそに 
娘子おとめの姿は 人陰に まぎれる

小半時ばかりののち
大橋の  欄干の脇
流れを見つめる  虫麻呂の 口から
歌が  漏れる
  
しな  片足羽川かたしはがはの さ丹塗にぬりの 大橋の上ゆ 
くれなゐの あか裾引き 山藍やまあゐもち れるきぬ着て ただ独り い渡らす児は 
 
塗りの綺麗きれえな 橋の上 あか穿いて あいの服 とおって来る児 可愛かいらしな》 
若草の つまかあるらむ 橿かしの実の 独りからむ 
はまくの しき我妹わぎもが 家の知らなく

《旦那るんか ひとり身か 口説きたいけど 伝手つてあれへん》
―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四二〕 
大橋の つめあらば うらがなしく 独り行く児に 宿やど貸さましを
《橋のそば 家があったら さみな あの児を連れて 泊まれるのにな》
―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四三〕 

いつもの 諧謔かいぎゃくを帯びた 歌だ
現に おこないはしないが 思いだけを つづ
まこととも そらごととも つかない 恋の歌

虫麻呂は おのが心を のぞいていた
そこは もはや 桜児の住処すみかではなかった
 




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