【掲載日:平成21年10月23日】
級照る 片足羽川の さ丹塗の 大橋の上ゆ
紅の 赤裳裾引き・・・
【大和川と石川の合流点、大橋はこの辺りにあったか?】
あっ あれは 桜児様!
一瞬 目を疑う 虫麻呂
あの紅い裳 藍色の服
まさしく 桜児様!
その昔 垣間見た 桜児の容姿
長い年月 忘れようとて 忘れえぬ容姿
そっくり そのままな児が通る
魂の抜けた 虫麻呂の前
娘子は 通り過ぎる
難波の宮造営工事は 完成が近付いていた
報告の 道すがら
いつも いつも 通る 片足羽川の 大橋
これまで 何度 往復したことか
でも 一度も 見ることは なかった
〔あれは 桜児様の 生まれ変わりに 違いない
幻ではない
こうして 去っていく後ろ姿が 見えている
桜児様は 生きている!〕
虚ろな 虫麻呂の佇みをよそに
娘子の姿は 人陰に 紛れる
小半時ばかりの後
大橋の 欄干の脇
流れを見つめる 虫麻呂の 口から
歌が 漏れる
級照る 片足羽川の さ丹塗の 大橋の上ゆ
紅の 赤裳裾引き 山藍もち 摺れる衣着て ただ独り い渡らす児は
《丹塗りの綺麗な 橋の上 紅い裳穿いて 藍の服 通って来る児 可愛らしな》
若草の 夫かあるらむ 橿の実の 独りか寝らむ
問はまくの 欲しき我妹が 家の知らなく
《旦那居るんか ひとり身か 口説きたいけど 伝手あれへん》
―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四二〕
大橋の 頭に家あらば うらがなしく 独り行く児に 宿貸さましを
《橋のそば 家があったら 寂し気な あの児を連れて 泊まれるのにな》
―高橋虫麻呂歌集―〔巻九・一七四三〕
いつもの 諧謔味を帯びた 歌だ
現に 行いはしないが 思いだけを 綴る
実とも 虚とも つかない 恋の歌
虫麻呂は 己が心を 覗いていた
そこは もはや 桜児の住処ではなかった
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