【掲載日:平成21年11月17日】
言問はぬ 樹にはありとも うるはしき
君が手馴れの 琴にしあるべし
神亀六年〔729〕二月
京に 政変が起こった
長屋王の変である
「長屋王密かに要人呪詛し国家を傾けんと欲す」
との密告による 長屋王一族の滅亡
皇親政治を守ろうとする 高市皇子実子 長屋王
台頭する貴族政治を推し進める 藤原四兄弟
両者の決着であった
藤原房前
藤原四兄弟のうち 一族の中心ではあるが
比較的 皇親派に近いとされる人物
その 房前に 大伴旅人は 梧桐の日本琴を贈る
添えられた 文に
【琴の精が言うことには
「わたしは 対馬の山奥に生まれ 陽の光に恵まれ 雲や霧に育まれ 風や波を友として 暮らしてきました
世の役に立つとは 思いもしませんでしたが やがて 上手の細工師に出会い こうして琴に生まれ変わりました
質も悪く音色も もう一つですが 立派な人に愛用されるのが 望みです」
如何にあらむ 日の時にかも 声知らむ 人の膝の上 わが枕かむ
《うちのこと 分かってくれる 人の膝 乗れる日来るの 何時のことやろ》
―大伴旅人―〔巻五・八一〇〕
それを聞いて わたしは こう答えてやりました
言問はぬ 樹にはありとも うるはしき 君が手馴れの 琴にしあるべし
《元々は 樹ィやったのに 今はもう 上手の人に 似合いの琴や》
―大伴旅人―〔巻五・八一一〕
これに対し 琴の精は 言いました
「ありがとう ありがとう 光栄です」と
夢に見た 経緯を この琴に添えて お送りします】
早速に 藤原房前から 返書が届く
言問はぬ 木にもありとも わが背子が 手馴れの御琴 地に置かめやも
《あんたはん 愛用してた 琴やから 大事にするで 元は樹やけど》
―藤原房前―〔巻五・八一二〕
もとより 皇親派の旅人
房前との間の 梧桐日本琴のやりとり
藤原一族の中心 房前へのへつらいか
はたまた 近皇親派房前を通じての
巻き返し工作の一環か
琴は 知らず 対馬音色を 奏でるのみ
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