令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

旅人編(4)猿にかも似る

2009年11月08日 | 旅人編
【掲載日:平成21年11月6日】

あなみにく さかしらをすと 酒飲まぬ
           人をよく見れば 猿にかも


「まあ  どう なされたのですか」
散らばる短冊に あきれかえる 郎女いらつめ
頭を抱える旅人たびとを 覗きこむ
「こんな  朝早くに 珍しいこと
 おや  朝酒ですか?」
「・・・いや  酒ではない 水じゃ
 たまには 徳利と酒坏さかづきから
 酒気さかけを抜いてやろうと 思うたまでじゃ」

あなみにく さかしらをすと 酒飲まぬ 人をよく見れば 猿にかも
《ああ嫌や  酒も飲まんと 偉そうに 言う奴の顔 猿そっくりや》
                         ―大伴旅人―〔巻三・三四四〕 
「あれ 
 これは  まさか 筑前さまのことでしょうか
 お気の毒に  猿だなんて
 あのお方 わたくしは 好きですよ
 真面目でいらっしゃる 
 お酒飲みの  あなたよりもね」
にこりと 微笑ほほえむ郎女に 思わず苦笑した旅人
「では わしも 酒気さかけを抜かねば なるまいて」

あたひ無き たからといふとも 一つきの にごれる酒に あにさめやも
《極上の  高値の宝 なんかより 酒一杯が わしにはええで》
                         ―大伴旅人―〔巻三・三四五〕 
よるひかる 玉といふとも さけ飲みて こころをやるに あにかめやも
夜光やこうだま そんなもんより 酒飲んで 憂さ晴らすが ええなわしには》
                         ―大伴旅人―〔巻三・三四六〕 
世のなかの みやびの道に すすしくは ゑひなきするに あるべくあるらし
《風流の 道を極めて 澄ますより 酔うて泣くが ええのんちゃうか》
                         ―大伴旅人―〔巻三・三四七〕 
この世にし 楽しくあらば には 虫に烏にも われはなりなむ
《この世さえ  楽しいでけたら 次の世は 虫とか鳥に 成ってもええで》
                         ―大伴旅人―〔巻三・三四八〕 
ける者 つひにも死ぬる ものにあれば この世なるは 楽しくをあらな
《人いつか  死ぬと決まった もんやから 生きてるうちは 楽しゅうしょうや》
                         ―大伴旅人―〔巻三・三四九〕 
黙然もだをりて さかしらするは 酒飲みて 酔泣ゑひなきするに なほ若かずけり
《澄まし込み かしこるより 酒飲んで 泣いてる方が まだ益しちゃうか》
                         ―大伴旅人―〔巻三・三五〇〕 

「郎女  やはり 酒じゃ 酒を持て
徳利も酒坏さかづきも しょんぼりしてる」 
笑いをこらえて  酒を運ぶ 郎女
そこには 剛毅ごうきな旅人が 
あごひげを撫でて 待っていた



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