【掲載日:平成21年11月4日】
わが行きは 久にはあらじ
夢のわだ 瀬にはならずて 淵にあらぬかも
【都府楼址の台地、後方は大野山】
神亀五年〔728〕春
大宰の帥 旅人からの回状
赴任早々の 小野老歓迎宴の誘い
「先ずは老どの
貴殿の歌がなくては始まらぬ」
旅人が促す
あをによし 寧楽の京師は 咲く花の 薫ふがごとく 今盛りなり
《賑やかな 平城の京は 色映えて 花咲くみたい 今真っ盛り》
―小野老―〔巻三・三二八〕
「おお 早速に 京恋しの歌か いやいや 我らへの 京伝えの手土産歌と見た」
やすみしし わご大君の 敷きませる 国の中には 京師し思ほゆ
《大君の 治めてなさる この国で やっぱり京が 好えなと思う》
藤波の 花は盛りに なりにけり 平城の京を 思ほすや君
《藤の房 波打つみたい 花見ごろ 京恋しか どやそこの人》
―大伴四綱―〔巻三・三二九、三三〇〕
「四綱殿も 京か ほんに わしもじゃが」
わが盛 また変若めやも ほとほとに 寧楽の京を 見ずかなりなむ
《も一遍 若返りたい そやないと 平城の京を 見られへんがな》
わが命も 常にあらぬか 昔見し 象の小河を 行きて見むため
《この命 もうちょっとだけ 延べへんか 象の小川を また見たいんで》
浅茅原 つばらつばらに もの思へば 故りにし郷し 思ほゆるかも
《何やかや つらつらつらと 思う度 明日香の故郷が 懐かしいんや》
わすれ草 わが紐に付く 香具山の 故りにし里を 忘れむがため
《忘れ草 身に付けるんは 香具山の 故郷忘れよと 思うためやで》
わが行きは 久にはあらじ 夢のわだ 瀬にはならずて 淵にあらぬかも
《筑紫には 長ごうは居らん 夢のわだ 浅瀬ならんと 淵で居ってや》
―大伴旅人―〔巻三・三三一~三三五〕
「京京と 女々しいぞ わしは筑紫の歌じゃ」
しらぬひ 筑紫の綿は 身につけて いまだは箸ねど 暖かに見ゆ
《珍しい 筑紫の真綿 わしの身に 着てみてへんが 温そに見える》
―沙弥満誓―〔巻三・三三六〕
「どこの女のことじゃ 相変わらず」老が囃す
満誓の比喩歌で 座は一挙に盛り上がる
末席 興に加わらない憶良がいる
旅人が はるか主席から 声をかける
「憶良殿 酒も進まぬようじゃが
どうじゃ 一首召されぬか」
億良らは 今は罷らむ 子泣くらむ そのかの母も 吾を待つらむそ
《憶良めは ぼちぼち帰らして もらいます 子供も女房も 待ってますんで》
―山上憶良―〔巻三・三三七〕
〔身内奉仕か 喰えぬ男じゃ〕
渋い顔の旅人 杯をあおる
<大宰府(一)①>へ
<大宰府(一)②>へ
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます