石の上 布留の尊は 手弱女の 惑によりて・・・
元正天皇 その御代に 左大臣をば 務めしし
石川麻呂の ご三男 乙麻呂殿が 御災難
宇合妻の 久米若売 通じた罪で 土佐配流
巷噂は 政権の 陰謀なりやの 沙汰頻り
巷噂は 見送る人の 立場に立って しみじみ詠う
石の上 布留の尊は 手弱女の 惑によりて
馬じもの 縄を取り付け 鹿猪じもの 弓矢囲みて
大君の 命恐み 天離る 鄙辺に退る
古衣 又打の山ゆ 帰り来ぬかも
《石上の 布留の殿さん 哀れにも 女に迷て 罪問われ 縄で括られ 見張り付き
国の仕置きの 罰受けて 辺鄙の国へ 配流される
紀和国境 真土山 越えて行くけど 還れるやろか》
―作者未詳―〈巻六・一〇一九〉
巷噂は 身に詰まされて 妻の心を 替って詠う
大君の 命恐み さし並ぶ 土佐の国へと 出でますや わが背の君を
かけまくも ゆゆし恐し 住吉の 現人神を
《国からの お咎め受けて 海向この 土佐の国へと 配流される
あの人の為 住吉の 海の神さん 頼みます》
船の舳に 領き給ひ 着きたまふ 島の崎々 寄りたまふ 磯の崎々
荒き波 風に遇はせず 恙無く 病あらせず
急けく 帰したまはね 本の国辺に
《船の舳先に 座られて 行く先々の 島や磯 大っきい波や 強い風
出合うこと無う 無事着いて 病気もせんと 早いこと 帰したってや ここの大和へ》
―作者未詳―〈巻六・一〇二〇〉
巷噂は 同情頻り 当人代わり 悔しさ詠う
父君に われは愛子ぞ 母刀自に われは愛子ぞ
参上る 八十氏人の 手向する 恐の坂に 幣奉り われはぞ追る 遠き土佐道を
《父上の 大事な子やで 母上の 愛しい子やで
そのわしが 都へ上る 人皆 手向けする云う この峠
幣を奉って 行くのんか 遠いあの土佐 途はるばると》
―作者未詳―〈巻六・一〇二二〉
大崎の 神の小浜は 狭けども 百船人も 過ぐと言はなくに
《大崎の 小浜狭いが どの船も 寄るて云うのに わし素通りや》
―作者未詳―〈巻六・一〇二三〉
天平十三年〈741〉の大赦で 乙麿許され
後 中納言まで昇進
果たして 冤罪の証しなりや
<大崎>へ
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