【掲載日:平成22年3月26日】
恋ひ恋ひて 逢へる時だに 愛しき 言尽してよ 長くと思はば
訪ね来ては 去り
去った後には また別のが通う
その度に 心ときめかせ
待つ楽しさ 待つ喜びが
やがて 苦しみとなり
男の 不実を知る
妻問いが 結ばれ事の 習慣とはいえ
傷つくのは 女
この度こそはの 願い込めて
坂上郎女は 文を認め続ける
我れのみぞ 君には恋ふる 我が背子が 恋ふといふことは 言の慰そ
《うちだけや 恋し思うん 決まってる あんた口先 ばっかりやんか》
―大伴坂上郎女―〈巻四・六五六〉
思はじと 言ひてしものを 朱華色の 変ひやすき 我が心かも
《恋なんか もうせえへんで 言うてたが うちの決心 怪しいもんや》
―大伴坂上郎女―〈巻四・六五七〉
思へども 験もなしと 知るものを 何かここだく 我が恋ひわたる
《うちの恋 なんぼ思ても 叶わへん 分かってるのに し続けとるわ》
―大伴坂上郎女―〈巻四・六五八〉
あらかじめ 人言繁し かくしあらば しゑや我が背子 奥もいかにあらめ
《初めから あれこれ言われ 欝としい これやと後が 思いやられる》
―大伴坂上郎女―〈巻四・六五九〉
汝をと吾を 人ぞ離くなる いで吾君 人の中言 聞きこすなゆめ
《ふたり仲 裂こ思う人 居てるから あんたそんなん 聞いたらあかん》
―大伴坂上郎女―〈巻四・六六〇〉
恋ひ恋ひて 逢へる時だに 愛しき 言尽してよ 長くと思はば
《恋い焦がれ やっと逢えたで 好いてたら 甘い言葉を いっぱい言うて》
―大伴坂上郎女―〈巻四・六六一〉
〈誰彼なしに 呼び込みおって
父上が 亡くなられ 目付のなくなったを これ幸いと〉
佐保大納言家当主 旅人は 苦虫を噛んでいた
〈なんとか 一廉の男を 妻合わせねば
おおそうじゃ〉
思い立ったが 吉日
旅人の早馬は 藤原邸を目指す
藤原房前
藤原四兄弟の どちらかいえば 皇親派
旅人 予てからの昵懇
使いが 邸門をくぐっていく
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