令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

家待・青春編(二)(22)見(め)しし活道(いくぢ)の

2010年09月21日 | 家待・青春編(二)内舎人青雲
【掲載日:平成22年11月19日】

しきかも 皇子みこみこと
        ありがよひ しし活道いくぢの みちは荒れにけり



憔悴しょうすいごころを 引きずり
家持は付き従っていた 
帝は 恭仁くにへは戻らず
難波をあとに 和泉宮 安曇あずみ 紫香楽しがらき宮へ
内舎人うちとねり如きに 
帝のお心 何処いづこにありやの 詮索せんさくかなわぬが
独り  悔しさを 噛み殺していた

暫しのいとまいて 家持は 恭仁へと走る
皇子の御門ごもんを前に 思わずに 涙がこぼれる

けまくも あやにかしこし わごおほきみ 皇子みこみこと 
もののふの 八十やそともを つどへ あともたまひ 
朝猟あさかりに 鹿猪しし踏み起し 暮猟ゆふかりに 鶉雉とりふみ立て おほ御馬みうまの 口おさ
 
《口にするのも 畏れい 天皇おおきみさんの 御子みこさんが
 多くの臣下けらい 召し集め
 朝の狩りには けもの追い 夕べの狩りで 鳥飛ばす 手綱たづな引かれて 馬とどめ》
御心みこころを あきらめし 活道いくぢ山 
木立こだちしげに 咲く花も 移ろひにけり 世の中は かくのみならし
 
心晴々はればれされた 活道山いくじやま
 木立こだち鬱蒼うっそう 花散って 世の中うん こんなんか》
大夫ますらをの こころり起し 剣刀つるきたち 腰に取りき あづさ弓 ゆぎ取りひて 天地あめつちと いや遠長とほながに 万代よろづよ
武人心ぶじんごころを 振り興し つるぎや刀 腰にき 弓取り持って ゆき背負い 天地悠久てんちゆうきゅう  万世ばんせまで》
かくしもがもと たのめりし 皇子みこ御門みかどの 五月蝿さばへなす さわ舎人とねりは 
白栲しろたへに ころも取り着て つねなりし ゑま振舞ふりまひ いや日異ひけに かはらふ見れば 悲しきろかも

《お仕え仕様しょうと 頼みした みやどこ つどうてた 舎人とねり
喪服 身につけて にこやか姿 変わり果て 打ち沈むんは 悲してならん》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〈巻三・四七八〉

しきかも 皇子みこみことの ありがよひ しし活道いくぢの みちは荒れにけり
《痛ましや 御子みこみことが かよい見た 活道いくじの路は 荒れ果てて仕舞た》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〈巻三・四七九〉
大伴おほともの 名ゆぎおびて 万代よろづよに たのみし心 何処いづくか寄せむ
《大伴の 名に相応ふさわしい ゆぎ背負い 仕える決心こころ 寄せどころない》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〈巻三・四八〇〉

皇子の御門ごもんを後にし 
恭仁の仮居やしきに立ち寄った家持
待っていたのは  思いもかけない知らせ
今をときめく 仲麻呂が御曹司おんぞうし
久須麻呂くすまろ様からの
事もあろうに えんぐみ申し出

藤原家とのえにし結び
小躍りの胸に 旅人たびとさとし」が彷彿ほうふつ浮かぶ
思わずに  ぶるぶると首を振る
次第に 対立の様相深める とうきつ
「諭し」を考えれば  
いずれともくみしないが上策
さりとて 無下むげの断りは 
痛くもない腹さぐられとなろう

家持は  天を仰いだ


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