古今相聞往来（上）編（20）なぞ汝（な）がゆゑと

【掲載日：平成25年1月29日】

解とき衣きぬの　思ひ乱れて　恋ふれども　なぞ汝ながゆゑと　問ふ人もなき



独りごち歌　愚痴ぐち歌多い
相手　ある歌　趣き変わる
相手向むこての　心伝つたえの歌は
焦こがれ歌さえ　甘えが宿る

嬉　し待っても　焦がれはするで
恋し相手を　詰なじってみせる
こんな芸当げいとう　出来るは女
出来ん　男の　歌少しだけ

【　旋頭歌】
真澄鏡まそかがみ　見しかと思ふ　妹いもも逢はぬかも
玉たまの緒をの　絶たえたる恋の　繁しげきこのころ
《逢いたいと　思うあの児に　出逢であえんもんか
　ここん処とこ　逢わんで恋焦こがれ　偉えろ募つのってる》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二三六六）
　　
解とき衣きぬの　思ひ乱れて　恋ふれども　なぞ汝ながゆゑと　問ふ人もなき
《こんなにも　心こころ乱みだれて　焦こがれるに　「うちの所為せいかと」　聞きかへんのんか》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六二〇）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（汝ながゆゑ＝間接話法・直接話法なら「我わがゆゑ」）

伊勢の海ゆ　鳴き来くる鶴たづの　音おとどろも　君が聞こさば　我あれ恋ひめやも
《偶たまにでも　あんた音沙汰おとさた　あるんなら　うちこんなにも　焦こがれへんのに》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二八〇五）
　　
韓衣からころも　君にうち着せ　見まく欲ほり　恋ひぞ暮らしし　雨の降る日を
《韓衣からころも　着せたあんたを　うち見とて　焦こがれ過ごした　雨降るこの日》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六八二）
　　
我が背子せこが　振ふり放さけ見つつ　嘆くらむ　清き月夜つくよに　雲なたなびき
《あの月を　あんた仰あおいで　焦こがれるか　この良ええ月に　雲懸かかりなや》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六六九）
　　
君に恋ひ　寝いねぬ朝明あさけに　誰たが乗れる　馬の足あの音おとぞ　我れに聞かする
《恋しいて　寝られん朝に　誰なんや　馬足音あしおとさして　馬で行くんは》【寄物陳思】
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十一・二六五四）




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