ユニーク古典現代訳(大阪弁万葉集改題)

日本の古典を訳します。そのままストンと腑に落ちる訳。なんだ、こうだったのかと分かる訳。これなら分かる納得訳。どうぞどうぞ

「七五調 源氏物語」掲載開始~はじめに~

2014年12月31日 | 七五調 源氏物語
■七五調 源氏物語■

平成26年3月の刊行開始に先立ち
本ブログに於いて 先行掲載をすることにしました。

正式タイトルは
『古語紛い・腑に落ち・まんま訳 七五調 源氏物語
です。












まずは 現代訳に取り組む事とした趣旨を「はじめに」として掲載します。

 ■は じ め に■

とある夢に 立ちたるは
女房 装束 姿なの
才長さいたけ見えし 女性にょしょうにて
何や心痛うれたき 面持ちに
我れの枕辺まくらべ 座り為し
嘆き言 の葉 申すには

 時空飛来の からくり乗りて
  今のこの世に 来たりてみれば
 わらわ作りし 語りの物を
  今風なりに 写して作る
 なにがし源氏 様々あるを
 とくと眺めて 読みき見るに
 およそ二つの たぐいと見たり
  
 先ずはわらわの 元物語
  噛みて砕きて 我が物と為し
  読み易きにと 編み変え為すの
 さながら作者 今人いまひとなるは
  面白きにも 我が意と為さず
  
  またの一つは 元物語
 わらわ作りし 流れに則し
  言葉古きを 今にと変えて
  忠実なるに 訳してあれど
 古言ふるごと訳す 辞書さながらに
  読むに飽きるの 物とぞ見ゆる
  
 さらに二つの たぐいは共に
 わらわ作りし 古きの時代
  言わず語らず 分かりしことを
 わらわ略して 書かざるなるを
 時るにしも おぼろとなるや

 写筆写筆の 重なるたび
  過ち積り 通じずなるを
  新た解釈 改変為すの
 あれやこれやの ゆがみの故に
  
  我が意離れの 語りの流れ
  ぎくしゃくなりて 腑に落ちぬ箇所
 数多あまたにありて 読み手は惑い

  遺志の固きに 読み進みしの
  須磨の返りは まだしもなるに
 気軽取り組み 紙りしなの
 桐壺挫折 累々るいるいなるを
  知りての嘆き 堪え難かりし』

夢中ゆめなかなるの 我れはしも
「如何によとぞ 現れし
  我れは力の さも無きに」
言いしに女性にょしょう 答えるは

 すでに分別 為したる通り
 わらわ式部の 紫にてぞ
 なれが訳せし 万葉歌まんよううた
  今に易きの 七五の訳で
  詠い作者の 思いの全て
 捉え心情こころの 機微きび鮮やかに
 よみがえらせし 評判うわさを聞くに

 なれに頼めば 我が物語
  古語を使いて 七五の調べ
  我れの編みたる 展開まんま
  腑に落ち訳を 見事と為せば
  読み手喜び 嬉々とに読みて
 広きに流布ながれ 我が意に添うと
  時空飛来の からくりに乗り
 なれ夢中ゆめなか 出でせるなり』

 されど長きの 物語
  訳す歳月 ただならず
  我が身持つやの 気掛かりぞ」
言う に式部は またに言う

わらわ毎夜に 夢中ゆめなか出でて
 元原文もとふみを 読み聞かせるに
  そなた言葉で 言い換えなせば
 すらすら訳の たがいは無しぞ
 全て五十四ごじゅうし 帖にてあるも
  これを十五に 小分けとなして
 一つ二月ふたつき こなせばなんと
 二年ふたとせ半ば 楽々なるに
 だくと申せや もう夜が明ける』

くなる次第 始めしに
およそ二月ふたつき 一の巻
 足り無きの 出来なるも
形整い 出でしを
世に問う恥を ここさら

やがてある夜に 式部しきぶ

 言い忘れしの ことあり来たる
 なれのもの為す 訳文なるを
 読むに一夜に 一巻いちまき全て
  止まず一息 読み果て為せり
 この分なれば 源氏物語げんじの全て
  読むに一月 掛からずなりや
 正に読み手の 福音ふくいんにてぞ
 くて礼にぞ 罷りてしぬ


  さらに一言 付け足すならば
 我れの原文もとふみ 並べて読むに
 真の我が意が 今世いまよにまさに
  速やか伝え 叶うは固し

  これを為すにて 副読本に
  使い読み為し 然るの後に
 講義入れば はかどり早く
 聞き手楽しは たがいも無しぞ
  夢と疑う ことこそ無けれ』

くて式部の 夢出で来ずに




源氏:桐壺(21)大臣の御里に

2014年03月13日 | 七五調 源氏物語



大臣おとどの御里に
     ―左大臣おとど娘を妻にとて―


宮中 下がり 源氏君
その夜左大臣おとどの おやしき
婿むこ取り儀式 この上の
 きまでのもの 丁重さ

若やか源氏君げんじ 見る左大臣おとど
目映まばゆ可愛かわいと ご覧なる

 の姫は 年上で
源氏君げんじを見るに まだ子供
似合わぬさまに 気詰まりも







臣下一等 左大臣さのおとど
みかど信頼 あつきにて

正室なるは みかどとは
 の同じの 皇女にて
夫婦 共々 華やかな
系譜つながり持てる 家なるに
そこに源氏君げんじを 迎えたは

次春宮とうぐう祖父の 右大臣
やがて 国政 掌握の
その威勢をも しのぐかに

左大臣ひだりおとどは 幾人いくたり
夫人ふじんとの中 数多いくたお子
 に姫との 同母なる
兄の蔵人くろうど 少将しょうしょう
若く 魅力の 人なりし

右大臣みぎのおとどは 蔵人少将しょうしょう
両家 悪きの 仲なれど
見過ごし するの 出来ずとに
大切育ての の姫の
       (四番目娘)
婿むこと迎えて 居りしにて

                         【蔵人少将くろうどのしょうしょう
                           近衛少将と蔵人を兼務による呼び名

迎え婿君 大切だいじ
両家同じき 婿舅むこしゅうと


源氏:桐壺(20)侍所に罷で給ひて

2014年03月10日 | 七五調 源氏物語




侍所さぶらひまかたまひて
    ―加冠かかん左大臣おとどに賜わるは―


拝礼舞はいれいまいを 終えしのち
休息所 にて 時過ごし
皆の御酒みき召す 宴席へ
席は親王 次席ならびせき

隣に座すは 左大臣さのおとど
今夜こよいのことと ソと耳も
気恥ずかしさに 返答へんさず













折しも内侍ないし 伝えしは
左大臣ひだりおとどを 召す宣旨せんじ

                         【内侍ないし】=内侍掌なおしのじょう
                          ・内侍所の三等官
                          ・その第一席が宣旨を伝える役
                         ・(=勾当こうとうの内侍)

ろく下げ渡し 取り次ぎの
てい付き命婦みょうぶ 捧げるは
慣例なりし 大袿おおうちぎ
御衣おおんぞたぐい 一領ひとそろい
(帝衣服)

                         【大袿おおうちぎ
                          禄(祝儀)として賜わる袿 裄丈ゆきたけが大きく 着るときは普通の袿に仕立て直す
                         ※うちぎ表衣うえのきぬである狩衣かりぎぬ直衣のうしの中に着る衣

酒杯さかづきたまう おついでと
みかど念押し 左大臣おとどへと

  幼子の
    元服為すに
  末永の
   契る次第を
    知らしめししや

                           いとけなき
                             初元結もとゆいに
                            長き世を
                            ちぎる心は
                              結び込めつや

お心遣い  胸沁みて
  
  元服の
    折の契りの
      末長ごは
     誓い言葉の
      守れる限り

                           結びつる
                            心も深き
                              元結もとゆひに
                             濃き紫の
                             色しせずは






席をくだりし 左大臣
庭にり立ち 拝礼舞まいを舞う

終えし左大臣おとどに 更にまた
左馬寮ひだりめりょうの 馬一頭
蔵人所くろうどどころ 鷹一羽
手ずから 褒美 下げ渡す

                         【左馬寮ひだりのめりょう
                           馬の飼育・調練・馬具調達を掌る馬寮の一つ
                           太政官直属の官司
                         【蔵人所くろうどどころ
                           帝直属の役所
                           宮中諸行事の取り締まり


階段きざはし根方 親王みこ達と
上達部かんだちめらが 居並びて
ろく賜わるに 列を為す

この日お礼と 源氏君げんじから
みかど献上 品々の
折櫃物おりひつものや 籠物かごもの
(折り詰め料理類)(果物類)
右大弁うのだいべんが ご用意に

官吏 の者に 与えなす
屯食とんじき並び 唐櫃からひつ
(強飯握り飯) (絹入り箱)
 こそ庭も 狭しとに

次春宮とうぐう元服 時よりも
 も多くて 更にまた
この上無くの 盛大ごうかにて


源氏:桐壺(19)この君の御童姿

2014年03月06日 | 七五調 源氏物語




この君の御童姿わらわすがた
      ―元服為すの源氏君げんじきみ



わかわらわの 髪形かみかたち
変える に未練 ありしかど

よわい十二の 元服の
日迎えみかど お手ずから
世話し式例しきれい 更増しの
儀式たらんと おぼ










先年せんねん第一皇子いちみこ 元服の
紫宸殿ししんでんでの 立派なる
評判 高き 儀式にも
劣らず なるの ものにてぞ

所々しょしょに催す 祝宴も
任に当たるの 内蔵寮くらつかさ
穀倉院こくそいんなど こぞりてぞ
規定きまり遂行すすめは 簡素な」と
特命ありて ぜい尽す
儀式 となるに 進め為す

                    【紫宸殿ししんでん
                      内裏の殿舎の一つ
                      即位、長賀、節会などの公式の儀式を行う場
                    【内蔵寮くらつかさ
                      中務省に属し宮中の宝物 帝の装束などを納める倉を管理
                    【穀倉院こくそういん
                      宮廷行事における宴膳をまかなう役所


みかどお住まい さいます
清涼殿に 加冠かかんの場
東廂ひがしひさしに しつらえて

東向きての みかど椅子
冠者かんざの席と 加冠かかん
左大臣席 前に











申の刻なり 座す源氏君げんじ
 午後四時)
角髪みずら結いたる 表情や
童顔わらわがおなる 色つやは
髪形かたち変えるに 惜しばかり

ぎ役の 大蔵卿おおくらきょう
 よらかなるの 髪切るの
心苦しげ  顔したる
ご覧みかどは 今さらに

桐壺更衣こうい見たらば・・・」 思いしも
いいやならじと こらえ為す


                    【大蔵卿おおくらきょう
                      大蔵省の長官
                     大蔵省=諸国から納める「調」などの収納・管理等を掌る役所



加冠かかんを終えて 休息所
そこでお着替え さいまし

でて東の 庭りて
拝礼舞はいれいまいを 演ずるに
涙落とすの 同座みな

みかど格別 たまらずて
ふと忘れいた 桐壺更衣こういとの
昔思い 悲しくと

 若にての 髪上げは
美損そんずやの 気掛かりも
案に相違の 新愛あいらしげ
加えなされ し お姿に

加冠かかん役なる 左大臣さのおとど
妻はみかどと 同母なる
皇女なりしが そのした
大切だいじ育ての 娘して

かね次春宮とうぐう きさきにと
所望ありしを 逡巡ためらう
源氏君きみ妻合めあわせ かんがうに

みかどに向けて そのむね
奏しご意向 うかがうに

「元服なした あとにても
 適す後見人こうけん 無き故に
 そちなる娘 添臥そいふし
 してそのまま あと婿に」
うながしたるに 腹ぞ決む


                    【添臥そいふし
                      春宮・皇子などの元服の夜、公卿の娘を添い寝させること



源氏:桐壺(18)御辺り去り給はぬを

2014年03月03日 | 七五調 源氏物語



あたり去り給はぬを
       ―藤壺慕う源氏君げんじきみ



「源氏のきみ」と なるお子は
みかどそばを 離れずと

繁く 渡らす 藤壺に
付きて参るに その姫宮みや
恥じ隠れも 随意ままならず








後宮みやに仕える きさき
 我れぞ」と思う 器量しも
若き盛り の 過ぎにしの
召され お年に 比ぶるに
若く 可愛げ 藤壺ぞ

                          【妃】
                          ・帝の夫人の総称
                          ・主として皇后・中宮
                          ・女御・更衣を含める場合も

見るに御簾みす陰 隠れるに
容易たやす拝見みつけの 源氏わか

桐壺更衣ははぎみお顔 しかととは
記憶おぼえさぬに 「似たるや」と
典侍ないしのすけが 申すとに
幼心おさなごころに 慕わしと
お思い なるか 参りたや
なつき見たやと 思うらし


みかど思うに 藤壺みや源氏げんじ
愛情おもい注ぐに 区別たがい無く

「そなたこの子の 母親はは似るに
 うとい避けずと まといしも
 礼無き取らず 可愛い
  顔立ち目元 さも似たり
 母子おやこと言えど とうるにて」

言い付け為すに 源氏わか
幼心おさなごころの 喜びを
花や紅葉もみじに こと寄せて
参りし折は お持ち


源氏のわかの お慕いを

藤壺みやと折り合い 悪しきにて
桐壺更衣こうい憎悪にくしの 思返かえりてや
不快思うの 弘徽殿こきでん



「世にたぐい無き」 とぞ見られ
世人よひと美貌きりょう 評される
藤壺みやと比ぶに 更増しと
つやと美々びびしく 愛らしに
わかを称すに 「光る君」

藤壺みやも並びて 寵愛おぼえまた
それぞれ 深く あるからに
 輝く日の宮」 呼ばれなる

源氏:桐壺(17)御息所の御ことを

2014年02月27日 | 七五調 源氏物語



御息所みやすんどころの御ことを
 ―桐壺更衣こういに似たる姫宮ひめをとて―


                          【御息所】
                          ・皇子・皇女を産んだ女御・更衣を言う
                          ・ここは桐壺更衣のこと


年月つも みかど
桐壺更衣こうい面影 去りらず

みかど慰め さんとの
相応ふさわしひとを 入内じゅだい

桐壺更衣こうい並ぶの ひとなし」と
憂い 増々 募る中
先々帝の の宮ぞ
     (四番目皇女)
候補如何いかにと 浮かび来る


みかど仕えの 女房にて
典侍ないしのすけの奏ずるに

 四の宮姫と 申さるは
 先々帝の 母妃おきさき
 大切だいじ養育 為なされし
 すぐれ器量と 評判の
 高き姫宮ひめにて 我れ知れり

 姫宮ひめ幼きに 母妃宮みやさん
 馴染なじたるの 姫君で

  今に垣間見 するなれば
 桐壺更衣こうい様 ご美貌きりょう
  似たも似たるや 瓜二つ

  我れ三代に 仕えしも
 かるに似ての ご成長
 世にもまれなる ご美貌きりょう
 いまだ知らずと 見受けす」

真実まことなりや」と 心
礼尽くしての 入内じゅだいなを
要請もうしで為すも 母妃おきさき

「あな恐ろしや 次春宮とうぐう
 母の弘徽殿こきでん 気性さがしく
 桐壺更衣こうい露骨の きものの
 例証ためしありしを 忌々ゆゆしとぞ」

お思いなさり 如何いかが
わずらう間にぞ せたりき


心細 なる 四の宮に

わが皇女みこなりと 思う故
 心安きの 入内じゅだいを」の
言葉あつきの 要請に

姫宮みやの女房ら 後見人こうけん
兄の兵部卿ひょうぶの 親王は

                          【兵部卿】
                           兵部省の長官
                          ※兵部省=諸国の兵士・軍事に関する一切を管轄する部署


「心細きの 生活くらしより
 内裏うちにて 暮らすなら
  寂し心も 慰むに」
とて入内じゅだいをば 決めしつ

これぞ 藤壺 女御なり


容貌かんばせ正に 生き写し
身分 格段 高きにて
それ故ことに 目も引きて
おとしめすらも 受け無くの
さわり不足の 無きにてぞ

思えば桐壺更衣こうい その身分
さして 高きの 無きにてか
周囲ひとの許しの 無きが故
寵愛おぼえあだと なりしかや

桐壺更衣こうい思うの 残りしも
みかどこころの 新宮あたらし
移り慰み  覚えるは
人のこころの 性質さがなるや

源氏:桐壺(16)かしこき相人

2014年02月24日 | 七五調 源氏物語



かしこき相人そうひと
      ―高麗こま観相かんそうかしげ―





来たる高麗人こまびと その中に
すぐ観相人かんそう ある聞くも

宇多てい決めし いましめの
異人 宮中 禁じ故

お世話使いの 右大弁うだいべん
子なりとして ひそやかに
鴻臚館こうろかんへと お連れ

                          【右大弁】
                          ・太政官右弁官局の長
                          ・従四位相当
                          ※太政官=国政の最高機関
                          ※右弁官=兵部、刑部、大蔵、宮内を管轄
                          【鴻臚館】
                          ・外国使節を接待する館
                          ・京都・太宰府に設けられた



観相人かんそう驚愕がくし 首かし

 国の治めの 親となり
 帝王ていおう位 昇り為す
 そう持ちたるの 人と見る

 く成るものと 占えば
  民は苦しみ 国乱る

  そうは成らずと 朝廷の
 柱石はしらとなりて あめの下
 政治まつり補佐人ほさと 占うに

 斯様かような相は 見え来ずて
  これも無きやに 思われる」


博識なりし 右大弁うだいべん
肝胆かんたん互い 照らすにて
かさなる通い 交わしごと
興味 深きの 多かりし

文のわしの 重なるに
帰国日取りの 近きて

高麗人こまびと若君わかへ 作りたる
稀相きそう御子みこなに 逢いたるの
  嬉しに別れ 惜しかる」の
詩文 渡すに 若宮は
床しき 詩句を 作り為し
高麗人こまびとめて 贈り物

応えるかにや 朝廷みかどより
たまわり物の 数多あまたかず

みかど経緯いきさつ 漏らさねど
おのずと噂 広がりて
次春宮とうぐう祖父の 右大臣みぎおとど
思惑ありや 疑念




「さすが高麗人こまびと 観相人かんそうぞ」

以前さきに我国 観相人かんそう
同じき見立て すにより
若宮わかの親王 宣下せんげの儀
控え 居りしが 「やはりかや」

                          【親王宣下】
                           正式の皇族の一員たるべき「親王」を称することを許す宣旨を下すこと










後見こうけん無しの 身にしての
 無品親王むぼんしんのう 忍びない
 われの治世も 分からぬに
 臣下として 朝廷みかど補佐
 為すが将来ゆくすえ 守護まもる道」

決断だんみかど 若宮に
多方面なる 学奨励すすむ

才能さいの聡明 こうじるに
 臣下くだすは 惜しかれど
 親王たらば 次春宮とうぐう
 さん疑念の 招くにて

 宿曜道すくようどうの 秀人すぐれにも
  (占星術)
 占わせしに 高麗人こまびと
 同じきとに 出たからは)

思い決して 「みなもと」の
かばね授けを お決心きめ

源氏:桐壺(15)七つになり給へば

2014年02月20日 | 七五調 源氏物語



七つになり給へば
     ―七歳なりて読書ふみ始め―



今や若宮 内裏うち
七つ迎えて されるは
漢籍 講義 聞く儀式
読書ふみ始めにと 臨まるの
たぐいも無しの 聡明を
途轍とてつもなしと みかど見つ













「母の無い子の 不憫ふびんにて
  憎む人なぞ 無きぞかし」
言いて引き連れ 内裏うち
弘徽殿こきでんなかも 御簾みすうち

美なるいとしさ 見るにつけ
たけ武士もののふ 仇敵きゅうてき
おのずとみの こぼれるに
弘徽殿女御こきでんさえも 遠離けも得ず


弘徽殿女御こきでんせし 二皇女ふたひめ
及びも付かぬ 美貌きりょう
数多あまたきさきの 女御にょうごらも
姿隠さで 若宮みこの前

七歳ななつおさなと 思われぬ
近付き難き 美男きりょう見て
惹かれ 危うさ 思いつも
誰も誰もと あそび為す



漢籍たぐい 学問も
琴や笛音ふえねも 驚嘆おどろき
すにことごと ひいわざ
並の優れの 才能さいならず


源氏:桐壺(14)いとど現世の

2014年02月17日 | 七五調 源氏物語




いとど現世このよ
      ―成長皇子みこは参内に―



月日がちて 参内さんだい
若宮対面おあい みかど目に
現世このよとも無き 高貴なる
清ら美貌きりょうの 成長は
目映まばゆきまでと 映り為す








明けて若宮 四つのとし
次春宮とうぐう定め すにつけ
みかどひそかの 胸うち
第一皇子いちみこ越して 若宮と

されど後見こうけん 無しにして
世間 承知の 筈も無く
受ける 危害の 無く無しを
思いて気配 さずとに

寵愛おぼえ極みと 思いしに
  及び着かずも あるぞかし」
世人よひとささやく 声聞きて
安堵会心かいしん みたるは

弘徽殿女御こきでんにょうご その人ぞ

悲嘆に暮れる 桐壺更衣こうい
慰む 無しに 送る日々
桐壺更衣むすめもとへ くだにと
尋ね 行かんの 願いなの
届きしかやの おくなり

 長のお慕い 若宮を
  残し先立つ 悲しみは
 返すがえす」と 申しつつ

伝え 知らせを 聞きたるの
みかど嘆きも 限り無く

六歳 なりし 若宮は
 に着きたる もの心
嘆き 慕うて 泣き給う

源氏:桐壺(13)いみじき絵師と

2014年02月13日 | 七五調 源氏物語



いみじき絵師と
     ―偲ぶみかどの憂いは深く―



類稀たぐいまれなる 絵師描く
楊貴妃ようきひにして 容貌かんばせ
生気 無かりし 止む無しか


大液池たいえきいけの 蓮花はちすばな(顔)
未央宮びおうきゅうなる 柳とぞ(眉)
たたえられたる 容貌かんばせ
唐風衣装 まといしの
麗し絵姿すがた ご覧ずも

 ここには あらずして




 惹かれる 優しさと
気高けだか可愛かわいげ 思い出し
 の色やの 鳥の声
たとえるものの あらばこそ

朝夕毎に 「比翼鳥ひよくとり
連理枝れんりえだに」と 誓いしに
叶う 無きかの 命とは
 めしなるの 限りにて

庭に吹く風 虫の
いや 更増して 迫る胸



みかど御局上おのぼり 久しきに
無きのお過ごし 弘徽殿女御こきでん
管弦遊あそび されしの
深夜よふけと云うに 興じ声

め聞くみかど 不愉快ふゆかげを
みかどこの頃 お気持ちを
察し給える 女房輩にょうぼども
殿上人てんじょうびとも にがと聴く

弘徽殿女御こきでん性質さがの 傲慢ごうまん
みかど嘆きも 知らぬ
無視されしの わざなるを
くも耐えずと 月も


  宮にても
    涙曇らす
      秋の月
  浅茅あさじの里で
    澄むはずも無き

                           雲の上も
                           涙にくる
                               秋の月
                            いかで澄むらむ
                              浅茅生あさじふの宿


桐壺更衣こうい実家さとを 思いつつ
かか灯火あかりの つくまでと
みかどせ無く お過ごしに

聞こえ来たるは 右近衛府うこのえ
宿直とのいもうしの 丑の刻
 巡回警護の名告り)(午前二時)
周囲ひとめ憚り 寝御殿おとどへも
みかど微睡まどろみ さぬまま


                          【右近衛府】
                             近衛府(帝親衛軍)の一つ






起床おおきされの お思いは
「明くるも知らで」の さきの日々

先の怠り 政務まつりごと
 も怠り 続くにて

 もからきし 進まずて
朝餉あさげ膳箸 形のみ
昼餉ひるげ膳には 見向きすら
はべりし給仕きゅうじ 気の毒な
様子拝見つつに 嘆くのみ



そば仕えの 男女みなみな

「嘆かわしやな くなるも
 前世ぜんせ宿縁しゅくえん なりしかや

 周囲ひとの非難も 恨みをも
 はばかげに 女人ひと
 分別ふんべつ無しの されよう

 今また政務まつり 怠りは
 沙汰さたの限りや 嘆かわし」

ひそひそ 声の 到りしは
またも唐土もろこし くとぞに


源氏:桐壺(12)御前の壺前栽の

2014年02月10日 | 七五調 源氏物語



御前の壺前栽つぼせんざい
     ―みかど就寝やすまずお待ちにて―



役目果たした 靫負命婦ゆげみょうぶ
みかどいまだの 就寝やすまずを
お痛 ましやと ご覧なる




帰り待つ間の 所在無しょざいな
前栽せんざいさかる 花眺め
気心 知りの 女房らの
四、五人そばに お置きなり
しめやか語り 御座おわしなる

今夜こよい語りと 聞こゆるは
ここ明け暮れの おさだまり

絵巻に為した 長恨歌ちょうごんか
これ宇多うだみかど かせしに
伊勢いせ 貫之つらゆきの 和歌わか添えぞ

                          【長恨歌】
                           唐の白居易作の玄宗皇帝と楊貴妃を題材とした長編叙事詩


加え 和歌やら 漢詩なぞ
悲恋かなしの筋の ものなるの
重ね語り の 繰返し








戻り来たれる 靫負命婦みょうぶにと
細々こまごま様子 問われるに
身につまされし 事共ことども
言葉深沈しめやに 申し上ぐ

ご覧返書に したたむは



おそれ多きの 御文にて
 身の置きどこの さも無きに
  お申し越しを 見るにつけ
 闇の心は 乱れ

 この吾子あこ
  守る桐壺更衣むすめ
     亡くしては
    先々不安
     言う方ぞ無き」

                           荒き風
                           ふせぎし木陰かげ
                               枯れしより
                              小萩が上ぞ
                                静心なき


みかど皇子みこなは 小萩にて
木陰かげとなれるは みかどなを
これを枯れしと うたいにし
不謹慎ふきんしんなる もの言いも
(心静まり いまだしか)
お思い なされ 許し為す


みかどみずから 我れしもや
心乱みだれ見せじの てい為すも
こらえ心に 浮かぶのは
初の桐壺更衣こういの お目見えの
あれこれ 月日 思い草

 片時離れ ならじとぞ
  思いしものを 長き日ぞ」
死後の月日の ち行くを
ほうけに 思われる












 君哀れ 思われて
漏らすお言葉 ひそやかに

「亡き大納言 遺志いしちて
 宮仕つかえ宿願 果たせしの
 甲斐あるさまも 詮無きに

  されど長らえ 若宮の
 成人ひとなる待てば 良きことも
  命長くと 伝え為せ」

桐壺更衣こうい母君 持たせたる
贈物もの見てみかど つぶやくに

「亡き人住処すみか 尋ね当て
 得たる証拠あかしの かざしなら」


                          【釵】=二本足のかんざし
                          玄宗皇帝が道士に命じて楊貴妃の魂の所在を探させ見付けた印に持ち帰った金のかざし

はかなき思い 甲斐も


  探し当て
    形見得たらば
   亡き人の
   たましいそこに
      宿るを知るに

                           尋ね行く
                           幻術士まぼろしもがな
                             得物つてにても
                           たま在処ありか
                             そこと知るべく




源氏:桐壺(11)風いと涼しくなりて

2014年02月06日 | 七五調 源氏物語




風いと涼しくなりて
    ―皇子みこ参内さんだいえずとて―









 傾きて 空澄みて
 収りて 涼やかに
 誘うに 虫の声
去りがたきやの 風情ふぜい





牛車ぎっしゃ乗りかね 靫負命婦みょうぶ

  鈴虫が
   声尽くし果て
     泣いたとて
    夜長尽きずと
        涙が流る

                           鈴虫の
                            声を限りを
                               尽くしても
                            長き夜かず
                              る涙かな



靫負命婦みょうぶ詠うは おの
代りみかどの 涙かや


み掛けられし 母君は
女房使いて 伝え

 只でさえ
   泣きの涙の
    この荒宿やど
   つかいが持て
       更なる涙

                           いとどしく
                           虫の音しげ
                             浅茅生あさじう
                             露置き添ふる
                               雲の上人うえひと


 恨みごとにと 成りにしか」

時が時やで ゆかしきの
品差し上げも 如何いかがとて
桐壺更衣こうい形見と 斯様かようなる
 にと残し 置きたるの
一揃いなる 装束しょうぞく
髪上げ調度ちょうど 添え持たす


靫負命婦みょうぶ帰りし 後からも
桐壺更衣こうい付きてし 女房にょうぼらは
悲し思いを いだきつも
朝夕あさゆに慣れた 内裏うち生活くらし
思うに実家さとは 寂しくて

みかどご様子 思いつつ
早やの若宮 参内さんだい
すすすやに 母君は

いまわし身う 参内さんだい
 世間聞こえの しきにて
  若宮お顔 見ずにては
 え切れ無しの 心地」とぞ

思い切りての 参内さんだい
させさるさえ 出来ずとに


源氏:桐壺(10)暮れ惑ふ心の闇も

2014年02月03日 | 七五調 源氏物語



暮れまどふ心の闇も
     ―桐壺更衣こうい母君恨み言―



急ぐ靫負命婦みょうぶに 母君は
あふれ思いを 次々と

くしまどう 心闇こころやみ
 片端かたはしとての 晴らしとに
 話す相手と おでませ
 おおやけ遣い ならずとも

 なにかとうれし 晴れがまし
 お訪ねしげく ありしやに
 打って変わって ごと
 つかい迎えの 運命さだめとは




 桐壺更衣むすめといえば 生まれにし
 時より嘱望のぞみ 掛けし子で

 亡き大納言 今際いまわにぞ
 『桐壺更衣むすめ宮仕つかえの 宿願を
  屹度きっとに叶え 申すべし
   我れ先立つも 気落ちせず
  めげずこころを 果たせよや』

 重ねがさねに 申せしを
 後楯うしろだて無き 宮仕つかえなぞ
 ずが良きかと 思いつも

 遺言いごんたがえを さじとて
 出仕しゅっしさせたを 覚えずと
 寵愛おぼえ目出度めでたに お受けして
 勿体もったい無くも 有り難く
 後楯うしろだて無き はじの身を
 おさ宮仕つかえに 励みしを

 ねたそねみの 重なりて
 心痛みの こうじ末
 横死おうしの羽目と なり果つは

 あつ寵愛おぼえぞ 恨めしと
  割り切れ果てぬ 親心
 迷い心の 愚痴ぐちにてぞ」

せ返え言うに 夜ぞ更けぬ




聞きし靫負命婦みょうぶは 口開き

みかど御心 同じにて
  『我が心根に でしかも
   傍目はため驚く 寵愛おぼえをぞ
    掛けたは長く 続かぬの
   前世ぜんせえにしの せるかや
   今に思うと つらきなの
   えにしなりける 女人ひとにてぞ』

  『みかどたるもの いささかも
   世人よひと傷つけ かなわじに
   桐壺更衣こういえにしが 原因もといにて
   恨みうたが 果てにてぞ

   あと残されて 心晴れもせず
   おろわらわれ 身となるは
   前世ぜんせ因縁いんねん 如何いかなるぞ』
  とぞ繰返し お涙を」



尽きぬ 語りも 泣く泣くに

「夜も更けたれば 今夜こよい
 報告もうしまいらに 帰らば」と

急ぎ靫負命婦みょうぶは 席を立つ

源氏:桐壺(09)目も見え侍らぬに

2014年01月27日 | 七五調 源氏物語



目も見えはべらぬに
     ―みかど願うの皇子みこお召し―










押し頂きて 桐壺更衣こうい
 涙に曇る この目しも
  光りお言葉 頼りにと」
開く便りに したたむは

《時過ぎ行かば まぎれると
  思いて過ごす 月日やに
  忍び難きの 増々ぞ

 幼き人は 如何いかにとぞ
  共の育ての 出来無くの
 気掛かりなるに 如何いかがやな
 桐壺更衣こうい形見と 参内さんだいを》

こと 細やかと 書きたるに
添えたる 歌ぞ これぞかし

  宮中に
   居りし桐壺
       露と消え
   里ある皇子みこ
      思うははる

                          宮城野みやぎの
                            露吹き結ぶ
                              風の
                            小萩こはぎがもとぞ
                              思いやられる









御文おふみ涙で 読み切れず

「生きておるさえ つらき身に
 松が思うも はずかしの
  この身宮中 参るなど
  憚り多き ことにてぞ

                           【松が思うも】
                           いかでなほ
                            有りと知らせじ
                           高砂の
                            松の思はむ
                             事も恥づかし
                              ―古今集―
                          (長寿なる
                            高砂松も
                              驚くの
                           長らえ為すの
                            知られ恥ずかし)


 重ねお言葉 たまわるも
 内裏だいり参内さんだい とてもにて

 若宮胸は 如何いかなるや
 思うに直ぐに 参内さんだい
 したきようやの うべなるも
  この身とりては 悲しゅうに
 見はべりおると お伝えを

 桐壺更衣むすめ先立て 不吉ふきつ身と
 共のお過ごし おそ
 思えど桐壺更衣むすめ 形見にて・・・」


若宮既に お就寝やすみ

「お目に掛かりて くわしくに
  ご様子なりと 思いしも
 みかど帰りを お待ちかね
 も更け行くに そろそろと」

源氏:桐壺(08)門引き入るるより

2014年01月23日 | 七五調 源氏物語



 門引き入るるより
    ―来たる屋敷に野分吹き―


靫負命婦みょうぶ着きにて くぐる門
哀れ 気配の 漂いは

未亡人やもめ暮らしに ありしかど
桐壺更衣むすめ支えの 為にとぞ
手入れ怠り 無きなも

泣きの涙の 気落ち
生えたる草背くさせ 高きをば
野分のわき吹く風 荒したに
昇りたる月 雑草くさ越しと
射しし明かりの びにてぞ





庭過ぎ牛車ぎっしゃ 寝殿の
正面おもてに るに
出でし桐壺更衣こういの 母君は
しば黙然もくぜん ややあって

いまだ長らえ 居るにての
  心苦しと 覚えしに
 草深くさふか宿の 露分けて
 勅使つかいお越しは 身も縮む」
難気がたげにぞ 泣き給う






靫負命婦ゆげいのみょうぶ うなづきて

「先にこちらに まいられし
 典侍ないしのすけの 奏上の
   『いと気の毒と お見受けし
    心消え果つ 心地にて』
  なるお言葉を 漏れ聞くに
 情趣なさけの薄き この身とて
 辛さこらえも し得ず」と

                          【典侍】
                           内侍司(ないしのつかさ)の次官
                          ※内侍司=帝に常侍しその身辺奉
                           仕や女官の管理などを行う


先ずの訪問おとない 挨拶に
続きみかどの 仰せ言


  「『しばしは夢と 覚えしが
   ようよう心静しずむ 今にては
   めぬうつつに 堪えられず
   辛さ晴らすの すべなんぞ
    語り掛くべき 人無きに
   忍び参内さんだい かなわぬか

    若宮とても 気に掛かる
   露深つゆふか涙 満つる中
   過ごすは如何いかが 思うにて
   願う参内さんだい くにてぞ』

 涙せつつ おっしゃるも
 気弱見せじと はばかるを
 皆まで聞かず 参りし」

言いて御文おふみを 差しいだ