巻七（雑歌・比喩歌・挽歌）編（21）笑(ゑ)みしがからに

【掲載日：平成24年8月31日】

道の辺への　草くさ深ふか百合ゆりの　花笑ゑみに　笑ゑみしがからに　妻と言ふべしや




誘い　の歌に　拒絶の歌に
後朝きぬぎぬ別れ　引き留め歌に
夫浮気の　詰なじりの歌に
果て　は歌垣　しくじり歌に

【　時に臨みて】
佐伯山さへきやま　卯うの花はな持ちし　愛かなしきが　手をし取りてば　花は散るとも
《佐伯さえき山やま　卯うの花はな持つ児　良ええ児やで　手ぇ繋つなごかな　花散るやろが》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古歌集―（巻七・一二五九）
時ならぬ　斑まだらの衣ころも　着き欲ほしきか　島の榛原はりはら　時にあらねども
《時期じき違ちゃうが　斑まだら染そめ衣ふく　着てみたい　榛はんの木き実み時どき　違ちがうんやけど》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古歌集―（巻七・一二六〇）
（まだ若い　おぼこの児やが　まあ良えとするか）

道の辺への　草くさ深ふか百合ゆりの　花笑ゑみに　笑ゑみしがからに　妻と言ふべしや
《うちちょっと　百合ゆり花ばなみたい　微笑わろたけど　その気なりなや　あつかましいに》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古歌集―（巻七・一二五七）
月つき草くさに　衣ころもぞ染そむる　君がため　斑まだらの衣ころも　摺すらむと思ひて
《露草で　衣ふく染めてんや　あんたにと　斑まだら染そめ衣ふく　作ろと思おもて》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古歌集―（巻七・一二五五）
春霞　井ゐの上うへゆ直ただに　道はあれど　君に逢はむと　た廻もとほり来くも
《湧水わきみず場　家から真直すぐの　道あるが　あんた逢あいとて　遠回とまわりで来た》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古歌集―（巻七・一二五六）
暁あかときと　夜よ烏がらす鳴けど　この岡の　木末こぬれの上うへは　いまだ静けし
《夜明あけすぐと　夜よ鴉がらす鳴くが　山の上　梢こずえ静かや　夜明よあけまだやで―もう一寸居ろ―》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古歌集―（巻七・一二六三）
黙もだあらじと　言ことの慰なぐさに　言ふことを　聞き知れらくは　悪あしくはありけり
《気まずいと　思おもて慰なぐさめ　言ゆうのんを　分わかって聞くん　辛つらいもんやで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古歌集―（巻七・一二五八）
山やま守もりの　里へ通かよひし　山道ぞ　茂くなりける　忘れけらしも
《山やま守もりが　里通かよとった　山道は　偉えろ繁ったで　道忘わすれたらしな》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古歌集―（巻七・一二六一）
（よう来てた　あの人来こんと　長なごなって仕舞もた）

あしひきの　山椿咲く　八やつ峰を越え　鹿しし待つ君が　斎いはひ妻づまかも
《椿咲く　峰々みねみね越えて　鹿を待つ　あんたのうちは　飾かざりの妻か》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古歌集―（巻七・一二六二）
（狩りや言ゆて　よう出掛けるが　嘘違ちゃうやろか）

西にしの市いちに　ただ独り出いでて　目め並ならべず　買ひてし絹の　商あきじこりかも
《西にしの市いち　一人出掛けて　買こうた絹　見比べせんで　買い損そこのたで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―古歌集―（巻七・一二六四）
（歌垣で　見込み違ごたで　良女ええ思おもうたに）



――――――――――――――――――――
【新しい試みです】
「歌心関西訳」の作成過程をご覧ください。
これなら　あなたも　訳せますよ。
｛訳してみよう万葉集】へ