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令和・古典オリンピック

令和改元を期して、『日本の著名古典』の現代語訳著書を、ここに一挙公開!! 『中村マジック ここにあり!!』

家待・越中編(一)(16)御名(みな)に帯(お)ばせる

2011年02月18日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年2月1日】

朝日さし 背向そがひに見ゆる 
     かむながら 御名みなばせる
         白雲しらくもの 千重ちへを押し別け
             あまそそり 高き立山たちやま・・・



〔なになに 今度は 立山たちやま
 さすが かみ殿どの 
 目の付けどころ とてもかなわぬ
 しかし  引く訳には まいらぬ〕

朝日さし 背向そがひに見ゆる かむながら 御名みなばせる 
白雲しらくもの 千重ちへを押し別け あまそそり 高き立山たちやま 
冬夏と くことも無く 白栲しろたへに 雪は降り置きて いにしへゆ ありにければ
 
《朝来たら 朝日にして 輝いて 神山かみ言われるん もっともで
 白雲くも押し分けて 大空に そそり立つ山 立山たてやま
 冬夏問わず っ白に 雪降り積もり 昔から 此処ここに控えて おわします》
こごしかも いはかむさび たまきはる 幾代いくよにけむ 立ちて居て 見れどもあやし 
だかみ 谷を深みと 落ちたぎつ 清き河内かふちに 朝去らず 霧立ちわたり 夕されば 雲居くもゐたなびき
 
《岩けわしいて 神々こうごして 何千年も ったやろ 何処どこから見ても 有難い
 峰はたこうて 谷ふこて はげし流れる 川淵に 毎朝のに 霧立って 夕方なると 雲なびく》
雲居くもゐなす 心もしのに 立つ霧の 思ひすぐさず 行く水の 音もさやけく 
万代よろづよに 言ひぎ行かむ 川し絶えずは

《雲さながらに  心掛け 霧さながらに 思い込め 清い流れの 水音に
 乗せて末ご 語りご 絶えることう ずううっと》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・四〇〇三〕
立山たちやまに 降り置ける雪の 常夏とこなつに 消ずてわたるは かむながらとそ
立山たてやまに 降り積もる雪 夏でも ずっと消えんで 神さんやから》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・四〇〇四〕
落ちたぎつ 片貝川かたかひがはの 絶えぬごと 今見る人も 止まず通はむ
《流れ落つ 片貝かたかい川の 水えん 守殿あんたも絶えず 見に来るやろな》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・四〇〇五〕
                                 【四月二十八日】 


家待・越中編(一)(17)立つ日近づく

2011年02月15日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年2月4日】

都辺みやこへに 立つ日近づく
         くまでに 相見て行かな 恋ふる日おほけむ



天平十九年〔747〕四月二十日 
四月末日を限っての  租税目録の中央報告
家持待望の  上京である
遠路旅ゆえの はなむけうたげ
四等官さかん 秦八千島はだのやちしまやかた

大嬢おおいらつめ待つ 都への で立ち
内心の喜び  胸に伏せ
はなむけに応える 家持

奈呉なごの海の おきつ白波 しくしくに 思ほえむかも 立ち別れなば
奈呉なごの海 白波なみ次々に 寄せて来る 名残り次々 出かけ行くんで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九八九〕
わが背子せこは たまにもがもな 手に巻きて 見つつ行かむを 置きて行かば惜し
八千島おまえさん たまやったなら 手巻いて行く 残して行くん つらいでわしは》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九九〇〕

同 四月二十六日 池主やかた
再度の はなむけうたげ

玉桙たまほこの 道に出で立ち 別れなば 見ぬ日さまねみ 恋しけむかも
《都への 遠い旅路に 出て仕舞たら しばらく逢えん さみしいこっちゃ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九九五〕

わが背子せこが 国へましなば 霍公鳥ほととぎす 鳴かむ五月さつきは さぶしけむかも
守殿あんたはん 行って仕舞しもたら ほととぎす 鳴く時期来ても 楽しないがな》
                         ―内蔵縄麻呂くらのつなまろ―〔巻十七・三九九六〕
あれなしと なびわが背子せこ 霍公鳥ほととぎす 鳴かむ五月さつきは たまかさね
落ちしな わしらんかて ほととぎす 鳴く時期来たら 糸ししとき》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九九七〕

『玉をかさね』を聞き
池主 古歌を引き合いに 

わが屋戸やどの 花たちばなを 花ごめに たまにそく 待たば苦しみ
《実ィ成るん 待てんよってに 花ぜて 糸しするわ 家の花橘たちばな
                         ―石川水通いしかわのみみち―〔巻十七・三九九八〕

うたげ名残なごりは 尽きず
かみ家持やかたに 席移し 二次のうたげ

日増しに  強くなる 別れの思い
喜び隠しでない 心底しんそこつらさが 歌ににじ

都辺みやこへに 立つ日近づく くまでに 相見て行かな 恋ふる日おほけむ
《都行く 日ィこなった きるほど 顔合わそうや さみしなるから》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・三九九九〕


家待・越中編(一)(18)越え隔(へな)りなば

2011年02月11日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年2月8日】

・・・白雲しらくもの たなびく山を
      磐根いはね踏み 越えへなりなば 恋しけく の長けむそ・・・



上司  部下の 垣根越えての付き合い
同族ならでは  あるも
家持と池主の仲 
思いの いでどころ 考えの めぐらしどころ
全て知る  旧知の間柄は 
こここしの ひとりが深め
歌のり取りが 確固の度を高めてきた

いよいよの 出発いでたちを 間近に
家持の 別れ哀惜あいせきは きわみへ

かきかぞふ 二上山ふたがみやまに かむさびて 立てるつがの木 もとも 同じ常磐ときはに しきよし わが背の君を  
ひいふうの 二上山ふたがみやまに ふるうから あるつがの木の みきえだは もとは同じや 池主あんたわし 同じ氏族や なあ池主あんた
朝去らず 逢ひて言問ことどひ 夕されば 手たづさはりて 射水川いみづかは 清き河内かふちに 出で立ちて 
《毎朝のに 顔合わせ 夕方なると 手たづさえ 射水いみずの川に 行ったなあ》
わが立ち見れば あゆの風 いたくし吹けば 水門みなとには 白波高み 
妻呼ぶと 洲鳥すどりさわく 葦刈ると 海人あま小舟をぶねは 入江ぐ かじの音高し
 
《川のほとりで 見てたなら ひがしの風が つよ吹いて 水門みなとに 白波なみが たこ寄せて
 連れ呼ぶ洲鳥すどり 鳴きさわぐ 葦刈る海人あまの ぐ小舟 入江あたりで 梶音おとしてた》
そこをしも あやにともしみ しのひつつ 遊ぶ盛りを 天皇すめろきの す国なれば みこと持ち 立ち別れなば  
《そんな景色を 楽しんで 遊ぶ季節の さかりやに 国の仕事で 仕様しょうなしに 都行くんで 別れした》
おくれたる 君はあれども 玉桙たまほこの 道行くわれは 白雲しらくもの 
たなびく山を 磐根いはね踏み 越えへなりなば 恋しけく の長けむそ
 
《残った池主あんた まだえで 旅行くわしは 白雲しらくも
 棚引く山の 岩踏んで 遠く離れて 仕舞しもうたら 池主あんた恋しい 日ィ続く》
そこへば 心し痛し 霍公鳥ほととぎす 声にあへく たまにもが 手に巻き持ちて 
朝夕あさよひに 見つつかむを 置きてかば惜し

《それを思たら 胸痛い ほととぎす時期 作るたま 池主あんたたまなら 手ぇ巻いて
 朝夕あさゆ見ながら 行けるのに 置いて行くのん 堪えられん》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇〇六〕

わが背子せこは たまにもがもな 霍公鳥ほととぎす 声にあへき 手に巻きて行かむ
池主あんたはん たまやったらな ほととぎす 鳴く時作り 手巻き行くのに》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇〇七〕
                                【四月三十日】 


家待・越中編(一)(19)脚帯(あゆひ)手装(たづく)り

2011年02月08日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年2月11日】

・・・大君おほきみの みことかしこ
      す国の 事取り持ちて 若草の 脚帯あゆひ手装たづく・・・



切々たる 思いのたけ
かみ殿どの
 こんなにも 我輩それがしを 頼りとされておるのか〕
思わずに がしらを熱くする 池主

青丹あおによし 奈良をはなれ 天離あまざかる ひなにはあれど 
我が背子せこを 見つつしれば 思ひる 事もありしを
 
青丹あおによし 奈良の都を 出かけて 遠く離れた とこやけど
 守殿あんた一緒に てるんで 心も晴れる 日々やった》
大君おほきみの みことかしこみ す国の 事取り持ちて 
若草の 脚帯あゆひ手装たづくり むら鳥の 朝なば 
おくれたる れや悲しき 旅に行く 君かも恋ひむ
 
《けどもお国の つかえ事
 手甲てっこうきゃはん 身につけて 飛び立つように 朝出たら
 残るこのわし さみしいで 守殿あんたもわしが 恋しいか》
思ふそら 安くあらねば 嘆かくを とどめもかねて 
見わたせば の花山の 霍公鳥ほととぎす のみし泣かゆ
 
思うだけでも  気ィ重て 嘆くん我慢 出けへんで
 の花におう 山で鳴く ほととぎすの 泣いて仕舞た》
朝霧の 乱るる心 ことに出でて はばゆゆしみ 
砺波山となみやま 手向たむけの神に 幣奉ぬさまつり まく
 
《乱れる心 口したら 縁起えんぎ悪いで 押し殺し
 なみやまの 峠神 ぬさを奉って 祈ったで》
しけやし 君が正香ただかを ま幸くも ありたもとほり 
月立たば 時もかはさず なでしこが 花の盛りに 相見しめとぞ 

《「恋し守殿あんたが つつがう 旅路往復 無事されて
 来月来たら 帰られて 撫子なでしこ花の 盛りには 守殿あんたにお逢い 出来ます様に」》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・四〇〇八〕

玉桙たまほこの 道の神たち まひはせむ おもふ君を なつかしみせよ
《道々の 神さん拝み そなえする 大事なお人 お守りあれと》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・四〇〇九〕
うらこひし 我が背の君は なでしこが 花にもがもな あさな見む
守殿あんたはん 花やったなら 撫子なでしこの 毎朝ごとに 逢えるんやのに》
                         ―大伴池主おおとものいけぬし―〔巻十七・四〇一〇〕
                                 【五月二日】 
     ――――――――――――――――
帰郷家持 
 大嬢おおいらつめとの再会
 一族  知友の歓迎宴
 八束やつか 市原王いちはらのおおきみらからの 政局情報
 橘諸兄もろえへの挨拶
 奈良麻呂からの誘い 
 藤原氏の近づき・・・ 
滞京顛末てんまつは どうであったか 記録にない
ただ 聖武のみかどは 大仏鋳造を 急がせ
政界は  仲麻呂路線が 進行していた


家待・越中編(一)(20)我(あ)が大黒(おほぐろ)に

2011年02月04日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年2月15日】

鷹はしも 数多あまたあれども 矢形やかたの 大黒おほぐろに・・・

都より戻り かみの任務に戻った 家持
黙りこくり  不機嫌であった
自分でも  判っていた
上京この方  半年
あれほど 心捉えていた 歌がうたえない
都の風が  解けた封を 又もや閉じたのだ

以来半年の  歌なし
晴れぬ心の  泣き面に 蜂が刺す

大君おほきみの とほ朝廷みかどぞ み雪降る 越と名にへる 天離あまざかる ひなにしあれば 山高み 川雄大とほしろし 野を広み 草こそしげ 
《国の役所の この越国こしくには み雪降る越 言われる様に 遠く離れた くにではあるが 山は高いし 川幅広い 野原広うて 草多数よけ茂る》
鮎走る 夏の盛りと 島つ鳥 鵜養うがひともは 行く川の 清き瀬ごとに かがりさし なづさひのぼ 
《鮎が跳ね飛ぶ 夏が来たら 手綱たづなあやつる 鵜飼の漁師 清い瀬毎に かがりいて 流れさお差し 川さかのぼる》
つゆしもの 秋に至れば 野もさはに 鳥多巣すだけりと 大夫ますらをの ともいざなひひて 
しも置く秋の 季節になると 野原いっぱい 鳥つどうので 仲間誘うて 鷹狩りに出る》
鷹はしも 数多あまたあれども 矢形やかたの 大黒おほぐろに 白塗しらぬりの 鈴取り付けて 朝狩りに 五百いほつ鳥立て ゆふ狩りに 千鳥踏み立て 追ふ毎に 許すこと無く 手放たばれも をちもかやすき 
《鷹とうても いろいろあるが 矢形やかたの尾持つ 我が大黒は 銀の鈴付け ばしてみると 朝追い立てた 五百の鳥も 夕にりだす 千もの鳥も 狙いたがわず とめて捕って 放ち舞い降り 自在じざいの鳥や》
これをきて またはあり難し さ並べる 鷹は無けむと こころには 思ひ誇りて ゑまひつつ 渡るあひだ 
《この鷹いて おなじの鷹は 滅多めったに無いと 心で思い ほくそみして 誇っていたが》
たぶれたる しこつ翁の ことだにも 我れには告げず との曇り 雨の降る日を 鷹狩とがりすと 名のみをりて
《間抜けじじいの 大馬鹿者が わしに一言 断りなしに 雲立ち込める 雨降る日ィに 鷹狩り行くと 出かけた挙句あげく
三島野みしまのを 背向そがひに見つつ 二上ふたがみの 山飛び越えて 雲がくり かけにきと 帰り来て しはぶぐれ・・・・・・ 
《「大黒鷲は 三島野みしまのあとに 二上山ふたがみやまの 山飛び越えて 雲に隠れて って仕舞た」と 息せき切って 告げ言う始末・・・》
                              【「彼面此面をてもこのもに」へ続く】

松反まつがへり しひにてあれかも さ山田の をぢがその日に 求め逢はずけむ
《老いぼれの あの山田じじ けたんか その日のうちに よう探せんと》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇一四〕


家待・越中編(一)(21)彼面此面(をてもこのも)に

2011年02月01日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年2月18日】

・・・思ひ恋ひ 息きあまり けだしくも 逢ふことありやと
    あしひきの 彼面此面をてもこのもに 鳥網となみ張り 守部もりべを据ゑて・・・



【「大黒おほぐろに」の続き】
・・・・・・よしの そこに無ければ 言ふすべの たどきを知らに 心には 火さへ燃えつつ 
《・・・呼び寄せ手立て 何処どこにもうて 何をうても 詮無せんないことで いかり炎が 心で燃える》
思ひ恋ひ 息きあまり けだしくも 逢ふことありやと 
あしひきの 彼面此面をてもこのもに 鳥網となみ張り 守部もりべを据ゑて
 
しい気持ちが 心底しんそこ湧いて ひょっとしたなら 見つかることも ありはせんかと
 山あちこちに 鳥網とりあみ張って 見張りを立てて》
ちはやぶる 神のやしろに 照る鏡 倭文しつに取り添へ みて 
が待つ時に 娘子をとめらが いめに告ぐらく
 
《神のやしろに 輝く鏡 ぬさ付けて お祈りしつつ
 待ってる時 一人の娘 わしの夢出て 次の告げる》
が恋ふる そのつ鷹は 松田江の 浜行きらし 
つなし捕る 氷見ひみの江過ぎて 多胡たこの島 飛びたもとほ
 
《「あんた待ってる 立派な鷹は 松田江浜で 晩までって
 コノシロ獲れる 氷見ひみ浜越えて 多胡たこうえを 飛びまわりして》
葦鴨あしがもの すだく古江に 一昨日をとつひも 昨日きのふもありつ 
近くあらば 今二日ふつかだみ 遠くあらば 七日なぬかのをちは 過ぎめやも なむ我が背子せこ 
ねもころに な恋ひそよとたぞ いめに告げつる

あしがもれる 古江ふるえりて そこで一昨日おととい 昨日きのうった
 早うて二日ふつか おそても七日なのか 待ったら帰る
 心配しな」と 告げてくれたで 夢中ゆめなかやけど》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇一一〕

二上ふたがみの 彼面此面をてもこのもに 網さして が待つ鷹を いめに告げつも
二上ふたがみの あちらこちらに 網張って わし待つ鷹が 夢出てきたで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇一三〕
矢形やかたの 鷹を手にゑ 三島野みしまのに らぬ日数多まねく 月ぞにける
矢形やかた尾の 鷹に乗せて 三島野みしまので 狩りせん日ィが ご続いとる》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇一二〕
心には ゆるふこと無く 須加すかの山 すか無くのみや 恋ひ渡りなむ
《こころなか あきらめきれず からっぽで すっかりしょげて 恋し思てる》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇一五〕
                                【九月二十六日】 

自慢の  またと得難い 愛鳥「大黒」
落ち込み家持に  更なる 落胆降りかかる
大伴池主  越前転任
茫然ぼうぜん自失じしつの家持
この九月以降  一年八ヶ月 
短歌詠いは きざすものの
長歌の歌扉は  閉ざして開かず
あわれ  家持 失いしもの
「大黒」そして「池主」 
更に「長歌」・・・ 


家待・越中編(一)(22)和(な)ぐる日も無く

2011年01月28日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年2月22日】

天離あまざかる ひなともしる
        ここだくも 繁き恋かも ぐる日も無く



迎えて  天平二十年〔748〕新春
こし 二度目の春
吹く風は  強く 寒い
池主を失くした  痛手
胸にみ入るものの 
停止ちょうじの封は 少し 緩みを見せていた
都では見られぬ  越の景色 風物
これらが  家持の 歌心を 揺らす

東風あゆのかぜ いたく吹くらし 奈呉なご海人あまの 釣する小舟をぶね かくる見ゆ
東風ひがしかぜ つよ吹くみたい 奈呉なご海人あま 釣りの小舟が 波見え隠れ》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇一七〕

みなと風 寒く吹くらし 奈呉なごの江に 妻呼びかはし たづさはに鳴く
みなと風 さむ吹くみたい 奈呉なごの江に 連れ呼びかわし 鶴鳴いとおる》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇一八〕

天離あまざかる ひなともしるく ここだくも 繁き恋かも ぐる日も無く
《遠いひな ようたもんや 奈良宮が えろう恋して こころがんで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇一九〕

越の海 信濃の浜を 行き暮らし 長き春日はるひも 忘れて思へや
信濃しなの浜 一春日いちにち歩き 通したが あいだずうっと 都おもてた》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇二〇〕

まだ開けやらぬ  越の春
吹く風に任せて歩く  浜
思うは  都 妻
そして  友
家持の胸を  浜風 吹き抜ける



家待・越中編(一)(23)朝びらきして

2011年01月25日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年2月日】

珠洲すすの海に 朝びらきして ぎ来れば
           長浜のうらに 月照りにけり



雪深いこし
待ちに待った春の訪れ 
わたくし鬱々うつうつは知らず おおやけ任務は やってくる
家持は 春の稲の出挙すいこに出る
官による いねもみの貸付だ
役目の果しと共に  春景色が楽しい

雄神川をかみがは くれなゐにほふ 娘子をとめらし 葦附あしつきると 瀬に立たすらし
雄神川おかみがわ あこえてる 娘子おんなの子 海苔のり採ろおもて 川瀬立ってる》
                         ―大伴家持―〔巻十七―四〇二一〕 
鵜坂川うさかがは 渡る瀬多み このうまの 足掻あがききの水に きぬれにけり
鵜坂川うさかがわ 渡る瀬数せかずが いよって 馬ね水で ふく濡れて仕舞た》
                         ―大伴家持―〔巻十七―四〇二二〕 
婦負川めひがはの 早き瀬ごとに かがりさし 八十伴やそともは 鵜川うかは立ちけり
婦負川めひがわの 早瀬早瀬で かがりき 土地の役人 鵜飼いしとるで》
                         ―大伴家持―〔巻十七―四〇二三〕 
立山たちやまの 雪しらしも 延槻はひつきの 川の渡瀬わたりぜ あぶみかすも
立山たてやまの 雪解け水が あふれてて 早月瀬ぇで あぶみかった》
                         ―大伴家持―〔巻十七―四〇二四〕 

越中巡行終えた家持  能登へと向かう
越中とは違ったくに心緒じょうちょが またうれしい

志雄路しをぢから ただ越え来れば 羽咋はくひの海 あさぎしたり ふねかぢもがも
志雄しお街道みちを 越えたらパッと 羽咋はくい海 朝ぎしてる ふねしたいな》
                         ―大伴家持―〔巻十七―四〇二五〕 
鳥総とぶさ立て 船木ふなぎるといふ 能登の島山
今日けふ見れば 木立こだちしげしも 幾代いくよかむびそ

《船にする え木出すう 能登島の山
 やっぱりな  山繁ってて 神秘的やで》
                         ―大伴家持―〔巻一七―四〇二六〕 
香島かしまより 熊来くまきを指して ぐ船の かぢ取るなく みやこし思ほゆ
《香島出て 熊来くまきぐ梶 休みなし 都おもうも 休む間ないわ》
                         ―大伴家持―〔巻一七―四〇二七〕 
妹にはず 久しくなりぬ 饒石川にぎしがは 清き瀬ごとに 水占みなうらへてな
《置いてきた 大嬢おまえどしてる うらなおか きれえな水の 饒石にぎしの川で》
                         ―大伴家持―〔巻十七―四〇二八〕 
珠洲すすの海に 朝びらきして ぎ来れば 長浜のうらに 月照りにけり
《朝珠洲すずを 船出ふなで日中ひなか ぎ続け 長浜来たら え月出てる》
                         ―大伴家持―〔巻十七―四〇二九〕 

任務合間の折々  思いは 都 そして 妻



家待・越中編(一)(24)愛(め)づ児(こ)の刀自(とじ)

2011年01月21日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年3月1日】

母にまつりつや  
        父にまつりつや 



出挙すいこ任務は 望外ぼうがいの収穫であった
越中 能登の国めぐ
土の匂いする 民謡たみうたの数々
素朴の中に 古来いにしえが 宿る

【能登国の歌】 
梯立はしたての くまのやらに 新羅しらきをの 落し入れ
                         わし 
懸けて懸けて な泣かしそね 浮きづるやと見む
                         わし 

舶来はくらいの 斧としたで 熊木沼 ホイ♫
 泣きないな  浮いてくるかも 知れんがな ホイ♫》
                         ―作者未詳―〔巻十六・三八七八〕 
梯立はしたての 熊来くまき酒屋さかやに 真罵まぬらるやっこ
                     わし   
さすひ立て なましを 真罵まぬらるやっこ
                     わし 
 
怒鳴どなられて 熊木酒蔵さかぐら ドジなやつ ホイ♫
 連れ出して 助けたろかな ドジなやつ ホイ♫》
                         ―作者未詳―〔巻十六・三八七九〕 

しまの つくゑの島の
   小螺しただみを いひりひ持ちて 
ち つつき破り
   早川に 洗ひすすぎ 
辛塩からしほに こごと
   高坏たかつきに盛り 机に立てて 
母にまつりつや  
 父にまつりつや 

《机の島の  シタダミ拾ろて
 石でくだいて きれえにあろ
 塩もみしてから うつわに盛って
 おにあげたか いとしいよめ
 おにやったか 可愛かいらしよめよ》
                         ―作者未詳―〔巻十六・三八八〇〕 

【越中国の歌】 
大野路おほのじは しげもりみち 繁くとも 君し通はば 道は広けむ
《大野みち 森の木しげり 細いけど あんたかよたら 広なるちゃうか》
                         ―作者未詳―〔巻十六・三八八一〕 

渋谿しぶたにの ふたがみ山に わしといふ
さしはにも 君のみために 鷲ぞといふ

渋谿しぶたにの 二上山で わし子ぉ産むで
 殿のため おうぎ作りと わし子ぉ産むで》
                         ―作者未詳―〔巻十六・三八八二〕 

弥彦いやびこ おのれかむさび 
青雲あをくもの たなびく日すら 小雨こさめそほ降る

弥彦山やひこやま 鬱蒼うっそう繁り しずくり 天気うても 雨降るようや》
                         ―作者未詳―〔巻十六・三八八三〕 
弥彦いやびこ 神のふもと
  今日けふらもか 鹿のすらむ
    かはごろも着て つのきながら

弥彦山やひこやま 神さん庭で
  今日あたり 人鹿しか伏せとるで
    皮のふく着て つの頭付け》
                         ―作者未詳―〔巻十六・三八八四〕 


家待・越中編(一)(25)船暫(しば)し貸せ

2011年01月18日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年3月4日】

奈呉なごの海に 船しばし貸せ
        おきに出でて 波立ちやと 見て帰り



家持は 心のおどりを 抑えかねていた
都から ぞうしゅつかさ三等官 田辺福麻呂たなべのさきまろが来る 
都の様子も  さることながら
左大臣橘諸兄たちばなのもろえ使者 
役目帯びての らいえつである
時に  天平二十年〔748〕三月二十三日

快活旧知きゅうち さき麻呂まろを前に 
家持 ひょうてみせる
さき麻呂まろ殿 ようこその遠路
 家持め  歌を用意の上 
 首を長うして  待ちおりました
 まずは ご披見ひけんあれ」
「これなるは さき麻呂まろ殿を 鶯に見立てての作」

うぐひすは 今は鳴かむと かたてば 霞たなびき 月はにつつ
《もうじきと 鶯鳴くん 待ってたが 霞ばっかり 日ィつばかり》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇三〇〕

「次なるは ぞうしゅつかさのお役目に ことせて」 

中臣なかとみの ふと祝詞のりとごと 言ひはらへ あがふ命も 誰がためになれ
《酒そなえ 祝詞のりと唱えて おはらいし 無事祈るんは 福麻呂あんたのためや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十七・四〇三一〕

「これはまた 奇抜きばつなご挨拶
 我輩それがしも 負けませぬぞ
 わしが 逢いとうおもうたは 
 かみ殿どのでなく の海」

奈呉なごの海に 船しばし貸せ おきに出でて 波立ちやと 見て帰り
船貸してんか 奈呉なごの海出て おき波が 立って寄せるん 見てるよって》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ―〔巻十八・四〇三二〕

波立てば 奈呉なご浦廻うらまに 寄る貝の き恋にぞ 年はにける
奈呉なご浜に 波貝寄せる ぁ無しや 間なし逢いとて 年月としつきった》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ―〔巻十八・四〇三三〕

奈呉なごの海に しほの早ば あさりしに 出でむとたづは 今ぞ鳴くなる
奈呉なご浜で 潮が引いたら えさ捕ろと 待ってた鶴が 今鳴いとおる》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ―〔巻十八・四〇三四〕

霍公鳥ほととぎす いとふ時なし 菖蒲草あやめぐさ かづらにせむ日 こゆ鳴き渡れ
《ほととぎす な時ないが 菖蒲草あやめぐさ かずらする日は ここ来て鳴いて》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ―〔巻十八・四〇三五〕

かみ 家持の館のうたげ 談笑の輪が広がる


家待・越中編(一)(26)見とも飽(あ)くべき

2011年01月14日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年3月8日】

乎布をふの崎 ぎたもとほ
      終日ひねもすに 見ともくべき 浦にあら無くに



明くる二十四日 
重ねての宴席 
「家持殿 さすがこし 
 今日のの海 如何いかにも見事
 いやはや 堪能たんのう致した
 なになに  
 明日は 布勢ふせの浦へと お誘いあるか 
 役目えしにより
 早々の帰還をと 思いるが
 とどまれと仰せか そうは遊んでおれぬぞ」

如何いかにある 布勢ふせの浦ぞも 幾許ここだくに 君が見せむと 我れをとどむる
《よっぽどに えとこやろな 布勢ふせの浦 守殿あんた見せとて わしとどめるん》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ―〔巻十八・四〇三六〕

乎布をふの崎 ぎたもとほり 終日ひねもすに 見ともくべき 浦にあら無くに
乎布をふ崎は 船ぎ廻し 晩までも 見ても見きん 浜やでほんま》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四〇三七〕

玉櫛笥たまくしげ いつしか明けむ 布勢ふせの海の 浦を行きつつ たまひりはむ
《このよるは 早よ明けんかな 布勢ふせの海 浜辺あるいて たま拾おうや》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ―〔巻十八・四〇三八〕

音のみに 聞きて目に見ぬ 布勢ふせの浦を 見ずはのぼらじ 年はぬとも
《まだ見んが 噂に高い 布勢ふせの浦 見んとくかい 年ししても》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ―〔巻十八・四〇三九〕

布勢ふせの浦を 行きてし見てば 百磯城ももしきの 大宮人おほみやびとに かたぎてむ
布勢ふせ浦を 見たら絶対 都る おお宮人みやびとに 伝えでくか》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ―〔巻十八・四〇四〇〕

梅の花 咲き散るそのに 我れ行かむ 君が使を かたちがてら
《梅花が 咲き散るそのに さき行くで 守殿あんたの使い 待たれんよって》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ―〔巻十八・四〇四一〕

藤波ふぢなみの 咲き行く見れば 霍公鳥ほととぎす 鳴くべき時に 近づきにけり
《藤の花  次々咲くで ほととぎす 鳴くん近いな 待ち遠しいで》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ―〔巻十八・四〇四二〕

明日あすの日の 布勢ふせ浦廻うらまの 藤波ふぢなみに けだし鳴かず 散らしてむかも
明日あした行く 布勢ふせの浜辺の 藤波は 鳴きに来んまま 散るんとちゃうか》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四〇四三〕


家待・越中編(一)(27)浦を漕(こ)ぎつつ

2011年01月11日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年3月11日】

垂姫たるひめの 浦をぎつつ
      今日けふの日は 楽しく遊べ ぎにせむ



布勢水海ふせみずうみへと 馬をる一行
途上とじょう通過の 松田まつだはま
沖漕ぐ  釣り船に 興を覚えた家持
さき麻呂まろ殿 迎えの船が 来ておりますぞ
 遊覧迎えでしょうか  
 都からの迎えでしょうか」 

浜辺はまへより 我が打ち行かば 海辺うみへより 迎へもぬか 海人あまの釣船
《海沿いに 馬走らせて 来てみたら 迎えにるか 海人あまの釣り船》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四〇四四〕
おきより 満ちしほの いや増しに ふ君が 御船みふねかもかれ
おきの船 迎えの船や 潮満ちる わし気に入りの 福麻呂あんた迎えの》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四〇四五〕

布勢の水海は 見所みどころいっぱい
崎 垂姫たるひめ 多胡たこ
春に日の きらめく水面みなもに 藤波えて
遊ぶ  宮人は 時を知らない

神さぶる 垂姫たるひめの崎 ぎめぐり 見れどもかず いかに我れせむ
垂姫たるひめの みさきめぐりの 遊覧は なんぼ行っても けへんこっちゃ》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ―〔巻十八・四〇四六〕

垂姫たるひめの 浦をぎつつ 今日けふの日は 楽しく遊べ ぎにせむ
垂姫たるひめの 浦で船ぎ 一日を 楽しゅ遊んで 伝えに仕様しょうや》
                         ―遊行女婦土師うかれめはにし―〔巻十八・四〇四七〕

垂姫たるひめの 浦をぐ船 梶間かぢまにも 奈良の我家わぎへを 忘れて思へや
垂姫たるひめの 浦ぐ梶は ぁ無しや その奈良家いえを 忘れてへんで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四〇四八〕

おろかにそ 我れは思ひし 乎布をふの浦の 荒磯ありその廻り 見れどかずけり
《このわしは 間抜けやったな 乎布おふ浦の 荒磯あらいそ巡り ほんま見事や》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ―〔巻十八・四〇四九〕

めづらしき 君がまさば 鳴けと言ひし 山霍公鳥ほととぎす 何か来鳴かぬ
《珍客が 来たら鳴けよと うといた 山ほととぎす なんで鳴かへん》
                         ―久米広縄くめのひろつな―〔巻十八・四〇五〇〕

の崎 木のくれしげに 霍公鳥ほととぎす 来鳴きとよめば はだ恋ひめやも
多胡たこ崎の 木立こだちしげみに ほととぎす 鳴きに来たなら 満足やのに》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四〇五一〕


家待・越中編(一)(28)坂に袖振れ

2011年01月07日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年3月15日】

可敝流廻かへるみの 道行かむ日は
      五幡いつはたの 坂に袖振れ 我れをしおもはば



うたげ遊び 尽きはせぬが
役目終えての 帰りが 気をかす
三月二十六日 
じょう 久米広縄くめのひろつな館での うたげが 打ち上げとなった
遊び疲れもあるが 
別れ思いが 酒うたげを 湿めらせる

霍公鳥ほととぎす 今鳴かずして 明日あす越えむ 山に鳴くとも しるしあらめやも
《ほととぎす 今鳴かへんで 明日あした行く 山で鳴いても 手遅れちゃうか》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ―〔巻十八・四〇五二〕

くれに なりぬるものを 霍公鳥ほととぎす 何かかぬ 君にへる時
《木の繁み 色成ったに ほととぎす なんで鳴かへん 福麻呂あんたるに》
                         ―久米広縄くめのひろつな―〔巻十八・四〇五三〕

霍公鳥ほととぎす こよ鳴き渡れ 燈火ともしびを 月夜つくよなそへ その影も見む
《ほととぎす 影見たいんで 灯火ともしびを 月や思うて ここ鳴いて来い》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四〇五四〕

可敝流廻かへるみの 道行かむ日は 五幡いつはたの 坂に袖振れ 我れをしおもはば
可敝流かえる道 とおって行く日 五幡いつはたの 坂で袖振れ わし恋しなら》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四〇五五〕

別れに際し 田辺福麻呂さきまろ
歌集一冊と 歌綴りひとくさを 残していった

「田辺福麻呂歌集」  
それには  添え書きが附いていた
《家持殿  お手元に 本歌集 残し置き候
 我輩それがしつたなふであと 残すに躊躇ためらいあるも
 古今の歌 集めみの試み 聞き及び
 我が作 片隅にてもの心 斟酌しんしゃく賜りたく
 本来  口頭にてのお許し 得べき処
 恥を忍びての所業しょぎょうならば 書面にてのお願い
 寛容賜りたく 非礼の段 平にご容赦ようしゃ

 いまひとくさの歌綴り 
 これなん  
 過ぐる 天平十六年〔744〕難波うたげにてのもの
 当時様子  伝えよと 
 橘諸兄もろえ様から託されしにより 持参
 「君臣きずな 読み取り頂き
 おおやけへの 心いたし 変わりなく」
 との  お言葉 お伝えいたし候》

〔さすが 田辺福麻呂さきまろ殿 
 橘諸兄もろえ様の使い と聞き及びしに
 何の言伝ことづても無しの 数日
 いぶかり思いしが よもやの用心であったか
 それにしても  良き歌集と歌綴り
 有難くの  頂戴といたそう〕


家待・越中編(一)(29)誰(たれ)に見せむと

2011年01月04日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年3月18日】

一本ひともとの なでしこ植ゑし
      その心 たれに見せむと 思ひめけむ



田辺福麻呂たなべのさきまろが 京へと発ってからも
宴席の弾み  止まらない
じょう 久米広縄くめのひろつなやかた
四月一日 
明日に立夏りっかを控え 待ち切れない面々が集う

の花の 咲く月立ちぬ 霍公鳥ほととぎす 来鳴きとよめよ ふふみたりとも
の花が 咲く季節とき来たで ほととぎす まだつぼみやが 鳴き来たどうや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四〇六六〕
二上ふたがみの 山にこもれる 霍公鳥ほととぎす 今も鳴かぬか 君に聞かせむ
二上ふたがみの 山隠れてる ほととぎす 聞かせたいんや 今鳴かんかい》
                         ―遊行女婦土師うかれめはにし―〔巻十八・四〇六七〕

かし 今夜こよひは飲まむ 霍公鳥ほととぎす 明けむあしたは 鳴き渡らむぞ
《ここって 朝まで飲もや ほととぎす 明日あした夏立つ 朝から鳴くで》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四〇六八〕
明日あすよりは ぎて聞こえむ 霍公鳥ほととぎす 一夜ひとよからに 恋ひ渡るかも
明日あしたから 続いて聞ける ほととぎす 一晩よて 聞かれんのかい》
                         ―能登乙美のとのおとみ―〔巻十八・四〇六九〕

  深まった頃
越中国分寺  先代の国師に仕えした 
僧の清見せいけんが 帰京するという
僧の帰京には 酒を進呈してのうたげが 持たれる
家待 惜別のこころ 撫子なでしこに込める

一本ひともとの なでしこ植ゑし その心 たれに見せむと 思ひめけむ
《一株の 撫子なでしこ植えた この気持ち 誰に見せよと おもた分るか》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四〇七〇〕
しなざかる 越の君らと かくしこそ 柳かづらき 楽しく遊ばめ
《この遠い 越でみんなと 出逢でおたんで 柳かずらで 楽しゅう仕様しょうや》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四〇七一〕
ぬばたまの わたる月を 幾夜と みつつ妹は 我れ待つらむぞ
よるの空 渡る月見て 日や月を 数えて大嬢おまえ 待ってんやろな》
                         ―大伴家持おおとものやかもち―〔巻十八・四〇七二〕

家持は 酔いにひたれない
手にするさかづき 往き来はあるが
気はそぞ
心は  先日 貰い受けた 
田辺福麻呂たなべのさきまろ歌集と 歌綴り
目を通さねばの  心急ぎは
連日の  酒を 気抜けにしていた


家待・越中編(一)(30)妻問(つまど)ひしけむ

2010年12月31日 | 家待・越中編(一)友ありて
【掲載日:平成23年3月25日】

いにしへへの ますら壮士をとこ
      相きほひ 妻問つまどひしけむ
            葦屋あしのやの 菟原うなひ処女をとめの・・・



やっとの いとま得た 家待
田辺福麻呂たなべのさきまろが残し置いた 歌集を
〔これは  これは
 田辺福麻呂さきまろ殿
 諸兄もろえ様お付きの歌人と 思いしが
 いろいろとの巡り さって居ったか
 おお 菟原うない処女おとめじゃ
 高橋蟲麻呂むしまろ殿での歌 名高いが〕

いにしへへの ますら壮士をとこの 相きほひ 妻問つまどひしけむ 
葦屋あしのやの 菟原うなひ処女をとめの 奥津城おくつきを 我が立ち見れば 
 
《その昔 雄々おおし男が 二人して 妻争いで 競い
 菟原うない処女おとめの 墓処はかどこを 見よと思うて やって来た》 
永き世の 語りにしつつ 後人のちひとの しのひにせむと 
玉桙たまほこの 道の近く 磐構いわかまへ 造れる塚を 
天雲あまくもの そくへのきはみ この道を 行く人ごとに 
行き寄りて い立ち嘆かひ ある人は にも泣きつつ
 
後々のちのちまでの 語り草 後の世ひとの しのび草
 仕様しょうみちに 石積んで 作り築いた はかづか
 この国住まう  どの人も 往き来にここを 通るとき
 立ち寄りたずね 嘆きする 人によっては 泣きむせぶ》
語りぎ しのぎくる 処女をとめらが 奥津おくつどころ 
我れさへに 見れば悲しも いにしへ思へば

《語り伝えて しのぐ 処女おとめまつる 墓処はかどころ
 見るに悲しい  昔の話》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ歌集―〔巻九・一八〇一〕

いにしへの 信太しのだ壮士をとこの 妻問つまどひし 菟原うなひ処女をとめの 奥津城おくつきぞこれ
《その昔 信太しのだ壮士おとこが 妻問つまどうた 菟原うない処女おとめの 墓処はかやで此処ここが》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ歌集―〔巻九・一八〇二〕
語りぐ からにも幾許ここだ 恋しきを ただに見けむ いにしへ壮士をとこ
《語りぐ だけでもこんな つらいのに とうの本人 どんなやろうか》
                         ―田辺福麻呂たなべのさきまろ歌集―〔巻九・一八〇三〕