「大きすぎてつぶせない」という見方は、金融危機後もなかなか消え去らない妄想です。
米民主党の大統領候補選びを争うバーニー・サンダース氏は、大銀行は社会の脅威であり解体すべきだと主張して選挙運動を展開しています。2週間前、同氏には仲間が現れまし
た。ジョージ・W・ブッシュ第43代米大統領の共和党政権で金融機関救済措置を担当し、先ごろミネアポリス地区連銀総裁に就任したニール・カシュカリ氏です。
政府が解体できないほど大規模あるいは重要な金融機関は、つぶれないと投資家がみなすので、競合する中小金融機関よりも有利に資金が調達できます。こうした認識が事実上の補助金のような利点として働くため、経営陣の過剰な借り入れを促し、破綻の可能性が一段と高くなるのです。こうした考え方が懸念の根底にあります。
しかし、「大きすぎてつぶせない」という先入観は的外れです。将来的な公的救済の可能性を根絶しようと熱を入れすぎると、経済に悪影響を及ぼす恐れのある新たな危うさが生じ、次の危機を悪化させる危険性があります。
確かに米国の大手金融機関はサブプライムローン危機が深刻化する中で見境なく資金を借り入れ融資しました。しかし、自分たちは大きすぎてつぶせないと認識したうえでのことではなかったのです。実際、国際通貨基金(IMF)が大銀行の株価と破綻リスクに対する保険として機能するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を分析した結果、危機以前には最大手の銀行も中小銀行に対し借り入れにおいて有利な点はほとんどなかったのです。
「大きすぎてつぶせない」との認識が有利に働く問題は、米政府による金融機関の救済後に浮上しました。特に2008年にリーマン・ブラザーズが破綻した後、大手金融機関は解体が許されないことが明らかになりました。
以来、規制当局はこの補助金的効果を二つの方法で消し去ろうと苦慮してきました。まず、最大手の金融機関に対し、損失を吸収するために、特に株式を中心に資本を増強するよう求めています。このため金融機関は破綻の可能性が低くなるとともに収益力も低下し、その結果、そもそも巨大化しようとする意欲を失っています。
次の方法は、大手銀行の解散を容易にすることです。「生前遺言」(破綻時清算処理計画)と金融機関解散規則に従い、規制当局は破綻にひんした銀行の資本を債券保有者による「ベイルイン」(内部救済)で立て直す。これは債券の元本減免や債券保有者の株主転換などの手法です。規制当局がその結果に満足しなければ、当局は解散を命じることができます。JPモルガン・チェースやその他の巨大金融機関に対し、当局はこうした判断を迫られる可能性もあります。
これら二つの措置で、大きすぎてつぶせないとみなされる利点は大幅に縮小しました。しかしこの利点が失われたとしても、このような大銀行が破綻すれば金融面でのつながりを通じて壊滅的な衝撃が伝播するでしょう。このため、批判する向きは銀行をより小さい組織に解体するのが唯一の解決策だと主張しています。
しかし、どのくらい小さくすれば良いと言うのでしょうか。トレーダーの不正行為など特異な問題が原因で銀行が破綻した場合、それが大手銀行だとしても、金融システム全般の脅威となることはめったにありません。一方、多くの銀行や投資家、規制当局がそろってリスクの評価を誤ると、システミックな(全体に広がる)金融危機が生じます。その場合、ほどほどの規模の銀行であっても、その破綻は伝染する恐れがあります。市場が、他の銀行株も危ういとみなすからです。
だから1984年に、当時全米で7番目の規模の銀行にすぎなかったコンチネンタル・イリノイを当局は救済し、その後7年間で規模が14番目と33番目、36番目の銀行の保証されていなかった預金者を保護したのです。先のベアー・スターンズを巻き込んだ金融危機は、ニュー・センチュリー・ファイナンシャルなど、規制が緩い投資ファンドや住宅金融業者の破綻が発端でした。
欧州の銀行で最近起きた騒動も同じ事が言えます。銀行が破綻、ないし法定最低資本額に近い状況に置かれた場合、欧州の厳格な規則は債券保有者のベイルインを求めています。昨年、イタリアの小規模銀行4行とポルトガルの1つの銀行は、以前の失敗の遺産を抱え破綻し、債権者がベイルインしました。今年2月、ドイツ銀行の「偶発転換社債」が投資家に同様な不安を与えました。同行が破綻するリスクはないにもかかわらず、資本不足が懸念されたのです。こうした出来事から、多くの銀行が同じ危険性を抱えているとの懸念が強まったのです。
取り乱した動きは治まりましたが、銀行株と銀行に対する信頼は打撃を受け、ユーロ圏経済の信用拡大が是非とも必要とされるいま、貸し出しが弱まる可能性があります。
米国の規制当局は、経済情勢が悪化したときに最大手の銀行が確実に生き残れるよう、いわゆるストレステスト(健全性審査)に頼っています。さらに一歩進めて銀行を解体すれば、計り知れない意図せぬ結果につながりかねません。より小規模な専門に特化した部署の方がずっと破綻する可能性は高く、あまり規制されない「シャドーバンキング」(影の銀行)システムの一部として新たなリスクを生む温床になる恐れがあります。大きな銀行が弱い銀行を買収することはできないため、当局は破綻処理の有効な手段の一つを奪われています。顧客も大銀行の規模と多様性の恩恵を受けられない可能性があります。
大きすぎてつぶせない問題に対する最善の解決策は、最大手金融機関に株式資本を十分充実させるよう求めることです。規模の経済などの本当の事業利益は、救済されるという期待ではなく、大規模であり続けることによってしか正当化できないからです。米国の銀行はほぼ条件を満たしています。2014年に株式資本はリスク調整済み資産の12.5%に相当し、09年初頭の5.5%から二倍以上に膨らんでいます。
資本はさらに必要かもしれないし、当局もそう示唆しています。資本が十分にあるこうした銀行が破綻するのは、数え切れないほどの銀行が巻き込まれるほど深刻かつ壊滅的なシステミックな危機に至る場合だけです。2兆ドルの資本がある一つの銀行が破綻にひんするにせよ、資本量4000億ドルの銀行5行がそうなるにせよ、傍観して混乱が治まるに任せる政府などどこにもないだろうし、またそうすべきでもありません。(ソースWSJ)
米民主党の大統領候補選びを争うバーニー・サンダース氏は、大銀行は社会の脅威であり解体すべきだと主張して選挙運動を展開しています。2週間前、同氏には仲間が現れまし
た。ジョージ・W・ブッシュ第43代米大統領の共和党政権で金融機関救済措置を担当し、先ごろミネアポリス地区連銀総裁に就任したニール・カシュカリ氏です。
政府が解体できないほど大規模あるいは重要な金融機関は、つぶれないと投資家がみなすので、競合する中小金融機関よりも有利に資金が調達できます。こうした認識が事実上の補助金のような利点として働くため、経営陣の過剰な借り入れを促し、破綻の可能性が一段と高くなるのです。こうした考え方が懸念の根底にあります。
しかし、「大きすぎてつぶせない」という先入観は的外れです。将来的な公的救済の可能性を根絶しようと熱を入れすぎると、経済に悪影響を及ぼす恐れのある新たな危うさが生じ、次の危機を悪化させる危険性があります。
確かに米国の大手金融機関はサブプライムローン危機が深刻化する中で見境なく資金を借り入れ融資しました。しかし、自分たちは大きすぎてつぶせないと認識したうえでのことではなかったのです。実際、国際通貨基金(IMF)が大銀行の株価と破綻リスクに対する保険として機能するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)を分析した結果、危機以前には最大手の銀行も中小銀行に対し借り入れにおいて有利な点はほとんどなかったのです。
「大きすぎてつぶせない」との認識が有利に働く問題は、米政府による金融機関の救済後に浮上しました。特に2008年にリーマン・ブラザーズが破綻した後、大手金融機関は解体が許されないことが明らかになりました。
以来、規制当局はこの補助金的効果を二つの方法で消し去ろうと苦慮してきました。まず、最大手の金融機関に対し、損失を吸収するために、特に株式を中心に資本を増強するよう求めています。このため金融機関は破綻の可能性が低くなるとともに収益力も低下し、その結果、そもそも巨大化しようとする意欲を失っています。
次の方法は、大手銀行の解散を容易にすることです。「生前遺言」(破綻時清算処理計画)と金融機関解散規則に従い、規制当局は破綻にひんした銀行の資本を債券保有者による「ベイルイン」(内部救済)で立て直す。これは債券の元本減免や債券保有者の株主転換などの手法です。規制当局がその結果に満足しなければ、当局は解散を命じることができます。JPモルガン・チェースやその他の巨大金融機関に対し、当局はこうした判断を迫られる可能性もあります。
これら二つの措置で、大きすぎてつぶせないとみなされる利点は大幅に縮小しました。しかしこの利点が失われたとしても、このような大銀行が破綻すれば金融面でのつながりを通じて壊滅的な衝撃が伝播するでしょう。このため、批判する向きは銀行をより小さい組織に解体するのが唯一の解決策だと主張しています。
しかし、どのくらい小さくすれば良いと言うのでしょうか。トレーダーの不正行為など特異な問題が原因で銀行が破綻した場合、それが大手銀行だとしても、金融システム全般の脅威となることはめったにありません。一方、多くの銀行や投資家、規制当局がそろってリスクの評価を誤ると、システミックな(全体に広がる)金融危機が生じます。その場合、ほどほどの規模の銀行であっても、その破綻は伝染する恐れがあります。市場が、他の銀行株も危ういとみなすからです。
だから1984年に、当時全米で7番目の規模の銀行にすぎなかったコンチネンタル・イリノイを当局は救済し、その後7年間で規模が14番目と33番目、36番目の銀行の保証されていなかった預金者を保護したのです。先のベアー・スターンズを巻き込んだ金融危機は、ニュー・センチュリー・ファイナンシャルなど、規制が緩い投資ファンドや住宅金融業者の破綻が発端でした。
欧州の銀行で最近起きた騒動も同じ事が言えます。銀行が破綻、ないし法定最低資本額に近い状況に置かれた場合、欧州の厳格な規則は債券保有者のベイルインを求めています。昨年、イタリアの小規模銀行4行とポルトガルの1つの銀行は、以前の失敗の遺産を抱え破綻し、債権者がベイルインしました。今年2月、ドイツ銀行の「偶発転換社債」が投資家に同様な不安を与えました。同行が破綻するリスクはないにもかかわらず、資本不足が懸念されたのです。こうした出来事から、多くの銀行が同じ危険性を抱えているとの懸念が強まったのです。
取り乱した動きは治まりましたが、銀行株と銀行に対する信頼は打撃を受け、ユーロ圏経済の信用拡大が是非とも必要とされるいま、貸し出しが弱まる可能性があります。
米国の規制当局は、経済情勢が悪化したときに最大手の銀行が確実に生き残れるよう、いわゆるストレステスト(健全性審査)に頼っています。さらに一歩進めて銀行を解体すれば、計り知れない意図せぬ結果につながりかねません。より小規模な専門に特化した部署の方がずっと破綻する可能性は高く、あまり規制されない「シャドーバンキング」(影の銀行)システムの一部として新たなリスクを生む温床になる恐れがあります。大きな銀行が弱い銀行を買収することはできないため、当局は破綻処理の有効な手段の一つを奪われています。顧客も大銀行の規模と多様性の恩恵を受けられない可能性があります。
大きすぎてつぶせない問題に対する最善の解決策は、最大手金融機関に株式資本を十分充実させるよう求めることです。規模の経済などの本当の事業利益は、救済されるという期待ではなく、大規模であり続けることによってしか正当化できないからです。米国の銀行はほぼ条件を満たしています。2014年に株式資本はリスク調整済み資産の12.5%に相当し、09年初頭の5.5%から二倍以上に膨らんでいます。
資本はさらに必要かもしれないし、当局もそう示唆しています。資本が十分にあるこうした銀行が破綻するのは、数え切れないほどの銀行が巻き込まれるほど深刻かつ壊滅的なシステミックな危機に至る場合だけです。2兆ドルの資本がある一つの銀行が破綻にひんするにせよ、資本量4000億ドルの銀行5行がそうなるにせよ、傍観して混乱が治まるに任せる政府などどこにもないだろうし、またそうすべきでもありません。(ソースWSJ)