空飛ぶロボットが上空から急降下するのが見えても、クマは逃げないかもしれない。しかいし、体には負荷がかかっている可能性があります。ドローンと呼ばれる無人航空機（UAV）への動物の反応を調べる研究が、米国ミネソタ州のアメリカクロクマを対象に行われ、その結果が科学誌「Current Biology」に発表されました。
これは、UAVに対する野生動物の生理的反応を調べた最初の研究になります。研究者らは、回転翼を4つ搭載した大皿ほどのサイズのクワッドコプターを野生のクマの近くで17回飛行させました。あらかじめクマの体内に埋め込んでおいたセンサーによる計測の結果、クマの心拍数はほぼ全ての試行で有意に上昇しました。特に大きく増加したのがドローンに驚いたときで、冬眠のために巣穴に入ったばかりのメスのクマでも、心拍数の大幅な上昇がみられたのです。
予想に反して、たいていのクマはドローンに動揺する動きは見せず、ドローンが10メートルの距離まで接近しても行動に変化はありませんでした。例外は子連れのメス2頭で、ドローンから逃げようとして走り出し、ある親子は別のクマの縄張りに入り込んでしまいました。極端な例では、ドローンが接近すると、1分間の心拍数が39から162へと400％以上も増加したクマがいたと研究を主導した米ミネソタ大学のマーク・ディトマー氏は指摘しています。2回宙返りするジェットコースターに人間が乗ったときよりも激しい上昇率なのです。
レクリエーション、産業、自然保護事業などへの活用により、米国の空を飛ぶドローンは日に日に増えています。そんな中で科学者たちが抱き始めている疑問が、ドローンが野生動物に与え得る影響です。2014年5月には、ユタ州のザイオン国立公園で、ドローンが飛ばされたためビッグホーンの群れが散り散りになり、母子たちがはぐれてしまいました。これにより公園側は、特別な許可のないドローンの使用を禁止。ドローンは一般に考えられているほど無害ではないのではという懸念が生まれたのです。
2015年4月13日―オランダ、王立ブルガー動物園で空撮中のドローンが、1匹のチンパンジーに近づきすぎてしまったところ、遊具の上にいたメスのチンパンジーが、頭上を通過するドローンを背中に隠し持っていた枝で一撃、ドローンは地面に落下したのです。落下後の様子も含めた一部始終が、ドローン搭載のカメラに収められました。
一方、皮肉かもしれないが、野生動物を守るためのドローンの活用も進んでいる。例えば、ドローンは特定の種の個体数を監視したり、生息域を判定するのにとても有用です。また、密猟者の位置を上空から特定することで、密猟を未然に防ぐこともできます。そう遠くない将来には、タンザニアのセレンゲティ国立公園のように野生動物の豊富な広大な地域で、より大きく頑丈なドローンが密猟者の車を発見するようになるかもしれません。
同時に、ドローンは大幅な効率化にも役立ちます。「例えば、ガボンの沿岸地域全体を保護するとしましょう」と話すのは、野生生物保護協会（WCS）の保護支援ディレクター、デビッド・ウィルキー氏です。「長時間飛べる固定翼のドローンをたった2機、常に飛ばしておくだけで監視が可能です。しかも自動操縦ですから、スタッフは首都リーブルビルの事務所にいればよいのです」。
とは言え、ウィルキー氏は、このほど行われたアメリカクロクマの心拍数に関する研究は解釈が難しいと付け加えました。「彼らがドローンを表現するのに『ストレッサー』という用語を使ったのは不適切です」とウィルキー氏。「心拍数が示すのは興奮状態であり、自然な反応です。聞き慣れない音がすればどんな動物でも興奮状態になります。これは警戒の度合いの問題であり、必ずしもストレスとは言えません」と。
そのためウィルキー氏は、ストレスホルモンであるコルチゾールのレベルを計測するよう主張しています。コルチゾールは糞から採取できるので、ドローンが飛んだ後に残された糞を調べればよいのです。これにより、心拍数よりも有力な情報が得られるだろうと言います。
ディトマー氏は、「将来、多くのUAVが空を飛ぶことになれば、急激なストレスが今よりも頻繁に発生し、いくつもの問題につながる可能性があります」と危惧しています。「例えば、慢性的なストレスはクマの生殖能力や採餌能力に影響し、特に餌の少ない時期にはより顕著になります。免疫機能が弱り、病気にかかりやすくなる可能性もあります」。
科学者たちは、野生動物の行動および生理的反応の両方を引き続き研究していく必要があるとの見解でおおむね一致しています。「さまざまな種に対して、メリットがデメリットを上回ることを確認する必要があるからです」とウィルキー氏は語ります。ウィルキー氏は、今以上に大きく、静かで、高機能のドローンが空を飛び、ドローンでなくてはなしえない保護活動を行う未来を思い描いています。「ドローンには計り知れない可能性があります。その活用はまだ始まったばかりなのです」とウィルキー氏は力を込めました。（ソース ナショナルジオグラフィック）
これは、UAVに対する野生動物の生理的反応を調べた最初の研究になります。研究者らは、回転翼を4つ搭載した大皿ほどのサイズのクワッドコプターを野生のクマの近くで17回飛行させました。あらかじめクマの体内に埋め込んでおいたセンサーによる計測の結果、クマの心拍数はほぼ全ての試行で有意に上昇しました。特に大きく増加したのがドローンに驚いたときで、冬眠のために巣穴に入ったばかりのメスのクマでも、心拍数の大幅な上昇がみられたのです。
予想に反して、たいていのクマはドローンに動揺する動きは見せず、ドローンが10メートルの距離まで接近しても行動に変化はありませんでした。例外は子連れのメス2頭で、ドローンから逃げようとして走り出し、ある親子は別のクマの縄張りに入り込んでしまいました。極端な例では、ドローンが接近すると、1分間の心拍数が39から162へと400％以上も増加したクマがいたと研究を主導した米ミネソタ大学のマーク・ディトマー氏は指摘しています。2回宙返りするジェットコースターに人間が乗ったときよりも激しい上昇率なのです。
レクリエーション、産業、自然保護事業などへの活用により、米国の空を飛ぶドローンは日に日に増えています。そんな中で科学者たちが抱き始めている疑問が、ドローンが野生動物に与え得る影響です。2014年5月には、ユタ州のザイオン国立公園で、ドローンが飛ばされたためビッグホーンの群れが散り散りになり、母子たちがはぐれてしまいました。これにより公園側は、特別な許可のないドローンの使用を禁止。ドローンは一般に考えられているほど無害ではないのではという懸念が生まれたのです。
2015年4月13日―オランダ、王立ブルガー動物園で空撮中のドローンが、1匹のチンパンジーに近づきすぎてしまったところ、遊具の上にいたメスのチンパンジーが、頭上を通過するドローンを背中に隠し持っていた枝で一撃、ドローンは地面に落下したのです。落下後の様子も含めた一部始終が、ドローン搭載のカメラに収められました。
一方、皮肉かもしれないが、野生動物を守るためのドローンの活用も進んでいる。例えば、ドローンは特定の種の個体数を監視したり、生息域を判定するのにとても有用です。また、密猟者の位置を上空から特定することで、密猟を未然に防ぐこともできます。そう遠くない将来には、タンザニアのセレンゲティ国立公園のように野生動物の豊富な広大な地域で、より大きく頑丈なドローンが密猟者の車を発見するようになるかもしれません。
同時に、ドローンは大幅な効率化にも役立ちます。「例えば、ガボンの沿岸地域全体を保護するとしましょう」と話すのは、野生生物保護協会（WCS）の保護支援ディレクター、デビッド・ウィルキー氏です。「長時間飛べる固定翼のドローンをたった2機、常に飛ばしておくだけで監視が可能です。しかも自動操縦ですから、スタッフは首都リーブルビルの事務所にいればよいのです」。
とは言え、ウィルキー氏は、このほど行われたアメリカクロクマの心拍数に関する研究は解釈が難しいと付け加えました。「彼らがドローンを表現するのに『ストレッサー』という用語を使ったのは不適切です」とウィルキー氏。「心拍数が示すのは興奮状態であり、自然な反応です。聞き慣れない音がすればどんな動物でも興奮状態になります。これは警戒の度合いの問題であり、必ずしもストレスとは言えません」と。
そのためウィルキー氏は、ストレスホルモンであるコルチゾールのレベルを計測するよう主張しています。コルチゾールは糞から採取できるので、ドローンが飛んだ後に残された糞を調べればよいのです。これにより、心拍数よりも有力な情報が得られるだろうと言います。
ディトマー氏は、「将来、多くのUAVが空を飛ぶことになれば、急激なストレスが今よりも頻繁に発生し、いくつもの問題につながる可能性があります」と危惧しています。「例えば、慢性的なストレスはクマの生殖能力や採餌能力に影響し、特に餌の少ない時期にはより顕著になります。免疫機能が弱り、病気にかかりやすくなる可能性もあります」。
科学者たちは、野生動物の行動および生理的反応の両方を引き続き研究していく必要があるとの見解でおおむね一致しています。「さまざまな種に対して、メリットがデメリットを上回ることを確認する必要があるからです」とウィルキー氏は語ります。ウィルキー氏は、今以上に大きく、静かで、高機能のドローンが空を飛び、ドローンでなくてはなしえない保護活動を行う未来を思い描いています。「ドローンには計り知れない可能性があります。その活用はまだ始まったばかりなのです」とウィルキー氏は力を込めました。（ソース ナショナルジオグラフィック）