★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ベルリン・フィルのモーツァルト:交響曲第40番/交響曲第41番

2023-08-14 09:40:12 | 交響曲(モーツァルト)


モーツァルト:交響曲第40番
       交響曲第41番「ジュピター」

指揮:ヘルベルト・カラヤン

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

LP:東芝音楽工業 EAA‐101

 モーツァルトは、41曲の交響曲を作曲したが、最後の第39番、第40番、第41番の3つの交響曲は、1788年の夏から、たった2カ月間のうちにつくられたというから驚きだ。この3曲の最後の交響曲は、内容が特別に充実しているところから世にモーツァルトの“三大交響曲”と言われている。今回のLPレコードは、この“三大交響曲”のうち、40番と41番の2曲が、カラヤン指揮ベルリン・フィルの演奏で収められている。40番は、かつて小林秀雄が「モオツァルトのかなしさは疾走する」と表現したように、淡い悲壮感が全曲を覆い、私が最初にこの曲を聴いたときなどは、何ともやるせない想いが心の底から湧きあがって来たのを思い出す。モーツァルトの短調を主調とする作品の一つで、ト短調で書かれている。ここには、いつもの快活明朗なモーツァルトの姿はなく、曲全体に悲壮感がこれでもかとばかり漂う。しかし、このような短調の作品があるからこそモーツァルトの音楽の世界が大きな広がりを持つことになるのだと思うと、貴重な曲であることを再認識させられる。一方、41番は、実に堂々とした構成を持ち、モーツァルトの交響曲の最後を飾るのに、誠に相応しい奥行きのある大作である。ニックネームの「ジュピター」は後世の誰かが「ジュピター神を思わせる神々しい力強さを連想させる」と言ったことから付けられたようだ。カラヤンの指揮ぶりは、数多く存在するこの2曲の録音の中でも、一際突出した出来栄えを示している。ここでのカラヤンの指揮は、いつもの豪華絢爛一辺倒のイメージとは懸け離れ、むしろ控えめで緻密な演奏に終始する。カラヤンらしさを求めて聴くと肩透かしを食うかもしれない。40番の第1楽章の出だしなどは、耳を澄まして聴かねばならないほどの静寂さだ。全曲この雰囲気の演奏で終始するが、徐々に聴き進むうちに、モーツァルトの音とカラヤンの指揮とが渾然と一体化され、その悲しさが内面から自然に湧き上がって来るのだ。一方、41番「ジュピター」は、40番とがらりと変わり、実に奥行きが深い、恰幅のいい大きな構成力を持った演奏内容だ。ここでも従来我々が持っているカラヤンの印象とは異なり、モーツァルトの厚みのある音の響きが、ゆっくりとしたテンポでずしりと迫ってくる。ベルリン・フィルも柔軟性を持った演奏に終始し、素晴らしい演奏を聴かせる。“アンチ・カラヤン”のリスナーにも一度は聴いてほしい名録音なのである。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フルニエ&グルダによるベートーヴェン:チェロソナタ第5番/「ユダス・マカベウス」の主題による12の変奏曲 /「魔笛」の主題による12の変奏曲

2023-08-10 09:37:06 | 室内楽曲(チェロ)


ベートーヴェン:チェロソナタ第5番
        「ユダス・マカベウス」の主題による12の変奏曲
        「魔笛」の主題による12の変奏曲

チェロ:ピエール・フルニエ

ピアノ:フリードリッヒ・グルダ

録音:1959年6月17日~28日、ウィーン、ムジークフェラインザール

LP:ポリドール(ドイツ・グラモフォン) MGW 5174(2544 120)

 ベートーヴェンは、全部で5曲のチェロソナタを遺しているが、それらは初期、中期、後期の全生涯を通して書かれている。今回のLPレコードは、ベートーヴェン後期の作品で、最後のチェロソナタとなった第5番である。作曲されたのは1815年で、第4番と連作となっている。全部で3つの楽章からなっているが、第3楽章目には、4声のフーガが用いられているところが、いかにもベートーベンの後期の作品の雰囲気であることを漂わす。曲全体の印象は、簡潔に、透明感をもって書かれており、明快さと深い精神性とを併せ持った作品。「ユダス・マカベウス」の主題による12の変奏曲は、1796年の作と推定されている。比較的ピアノに重点が置かれ、チェロは、旋律を大きく歌わせるとか和声の支持をさせるとかの役目を与えられている。「魔笛」の主題による12の変奏曲は、1798年に書かれた初期の作品と考えられている。その主題は、「魔笛」の第2幕第23場で、パパゲーノが歌う有名な軽妙なアリア「かわいい娘か女房か」によるもので、原曲ではアンダンテだが、ベートーヴェンではアレグレットにされている。この3曲を弾いているが、かつて“チェロのプリンス”としてわが国でも多くのファンを有していたフランスのチェロの名手のピエール・フルニエ(1906年―1986年)である。最初はピアニストを目指したが、小児麻痺のためチェロに転じた。1923年、パリ音楽院を首席で卒業後、その存在感を世界に知らしめることになる。演奏法は、大変優雅で、その美しいチェロの音色を一度でも聴くと、もう演奏内容がどうのこうの言うこと自体が無意味なようにも感じてしまうほどの腕前。ピアノの伴奏はフリードリッヒ・グルダ(1930年―2000年)。ウィーンに生まれ、16歳の時、「ジュネーブ国際コンクール」で優勝して一躍世界的に注目を浴びた。ジャズ演奏にも興味を示すなど、従来の枠に捉われない演奏法は、当時、常に聴衆に新鮮な話題を提供していた。ただ、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトなどの作品を演奏する際は、決して奇を衒わず、伝統に依拠したオーソドックスな様式に基づいていた。このLPレコードでも優雅で伝統的な演奏に基づく、フルニエのチェロ演奏にピタリと歩調を合わせ、見事な伴奏の腕前を披露している。この2人の名手の手に掛かると、優雅さと同時に音楽的な面白さに溢れた曲であることを、改めて味あわさせてくれる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ビーチャム指揮ロイヤル・フィルによるディーリアス:管弦楽名曲集

2023-08-07 09:52:04 | 管弦楽曲


~ディーリアス管弦楽名曲集~

ディーリアス:ブリッグの定期市~イギリス狂詩曲
       夜明け前の歌
       マルシュ・カプス
       春初めてカッコウを聞いて
       河の上の夏の夜
       そり乗り(冬の夜)
       オペラ「フェニモアとゲルダ」間奏曲

指揮:サー・トマス・ビーチャム

管弦楽:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

LP:東芝EMI EAC‐80359

 フレデリック・ディーリアス(1862年―1934年)は、イギリス出身の作曲家である。イギリス出身と言っても、両親はドイツ人であり、イギリスの大学で2年間学んだ後は、米国に渡り、さらに1886年から1888年までライプツィヒ音楽院で学び、そして1888年以降はパリに定住し、生涯フランスで過すことになる。つまり、作曲家としての活動はイギリス以外の国で行われたわけであって、イギリスの作曲家と言い切るには少々苦しいところがある。では、何故、ディーリアスというと直ぐにイギリスの作曲家ということを思い浮かべるのであろうか。この理由は、イギリスの大指揮者ビーチャム(1879年―1961年)にありそうである。ビーチャムは、1907年にディーリアスと会い、そのときに深い感銘を受け、それ以後ビーチャムは、生涯ディーリアスの作品の擁護・紹介に務めたのである。ビーチャムは、当時欧米の楽界の重鎮としてその名を轟かしていたため、この結果として、欧米の楽界の人々にとっては、ディーリアスというとイギリスの作曲家という考えが定着したようである。このLPレコードは、ディーリアスの最大の支持者であったビーチャムがロイヤル・フィルを指揮し録音したもの。ビーチャムは、「春初めてカッコウを聞いて」を1927年、1946年、1948年の3回、「ブリッグの定期市」を1928年、1946年の2回録音しているが、このLPレコードの収められた録音は、これら2曲のビーチャム最後の録音となった。ディーリアスの音楽は、曲全体に優しさが溢れ、繊細な音づくりが特徴であり、聴くものを遥か別世界に連れって行ってくれるような雰囲気に溢れている。ビーチャムとロイヤル・フィルの演奏は、そんなディーリアスの曲の特徴を、最大限表現してくれている。「ブリッグの定期市~イギリス狂詩曲」は、グレンジャーがイングランド東部の寒村で採譜した民謡をもとに書き上げた作品。「夜明け前の歌」は、スウィンバーンの詩に感興を得て作曲。「マルシュ・カプス」は、「そり乗り」と共に「管弦楽のための2つの小品」を構成。「春初めてカッコウを聞いて」は、春の訪れの感情を美しい交響詩仕上げた作品。「河の上の夏の夜」は、平和と静寂の雰囲気を醸し出す美しい曲。「そり乗り(冬の夜)」は、冬の夜のそり乗りのスリルと愉しさが直に伝わってくる佳曲。「オペラ『フェニモアとゲルダ』間奏曲」は、ヤコプセンの小説「ニイリス・リーネ」にもとずくオペラの第7場へ導く音楽。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヨセフ・スークのベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」/第5番「春」

2023-08-03 09:41:14 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」
        ヴァイオリンソナタ第5番「春」

ヴァイオリン:ヨセフ・スーク

ピアノ:ヤン・パネンカ

発売:1974年5月

LP:日本コロムビア(SUPRAPHON) OP‐7048‐S

 このLPレコードは、ヴァイオリンのヨセフ・スーク(1929年―2011年)とピアノのヤン・パネンカ(1922年―1999年)の名コンビによる名演奏を聴くことができる、恰好の録音である。ヨゼフ・スークは、チェコのプラハ生まれのヴァイオリニスト。祖母はドヴォルザークの娘、祖父は同名の作曲家でヴァイオリニストのヨゼフ・スークという恵まれた音楽環境に生まれ、幼い頃から英才教育を受け天賦の才能を開花させていった。プラハ音楽院と音楽アカデミーを卒業後、ソロ、室内楽、指揮にも活躍。ボヘミア・ヴァイオリン楽派に属するヨセフ・スークのヴァイオリン演奏は、端正で、美しい音色が特徴である。決して人工的な装飾をするようなことはせずに、流れるように歌うようなそのヴァイオリン奏法は、一度聴くと強い印象をリスナーに与えずにはおかない。音色の美しいヴァイオリニストは、往々にして、演奏内容はというと希薄になりがちだが、スークに限ってはそのようなことは微塵もなく、一本筋の通った確固たる信念で曲の真髄に迫る演奏には迫力を感じる。そのヨセフ・スークも既に他界してしまい、寂しい限りである。しかし、このLPレコードを含め、多くの録音を遺してくれたことは、今となってはリスナーへのまたとない贈り物になっている。一方、ピアノのヤン・パネンカは、チェコ、プラハ生まれ。プラハ音楽院とレニングラード音楽院で学ぶ。1951年の「スメタナ国際コンクール」で第1位を獲得、注目を集めた。1972年にはベートーヴェンのピアノ協奏曲の演奏で国家賞を受賞している。ヤン・パネンカは ピアノ演奏の技巧については、超一流の腕を持っていたが、現役時代はソリストというより室内楽の一員としての存在感が強く感じられた。その意味でもヨセフ・スークとコンビを組むとその力を遺憾なく発揮し、現にこのLPレコードを聴くと、スークとの相性の良さが強く印象に残る。ヤン・パネンカは、ヴァイオリンのヨセフ・スーク、チェロのヨゼフ・フッフロと3人でスーク・トリオを結成し、数多くの録音も残している。このLPレコードでのベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第9番「クロイツェル」の演奏は、スークとパネンカの持つ特徴が遺憾なく発揮されており、聴き終わると端正な奥深さに加えて、清々しい印象を強く受ける。ヴァイオリンソナタ第5番「春」は、「クロイツェル」以上に成功した演奏内容と言ってもよく、文字通り“春”の香りが匂い立つような名演となっている。(LPC)

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