★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇名バリトン シャルル・パンゼラのフォーレの歌曲

2021-08-12 09:32:06 | 歌曲(男声)


~フォーレの歌曲から~

  漁夫の歌
  ひめやかに
  オーラ
  ゆりかご
  リディア
  秋
  ノクチュルヌ
  夕ぐれ
  夢のあとに
  墓場で
  消え去らぬ香り
  月の光
  憂鬱
  恍惚
  歌曲集「幻想の地平線」

バリトン:シャルル・パンゼラ

ピアノ:マドレーヌ・パンゼラ

LP:ANGEL RECORDS GR-34

 このLPレコードは、“世紀の巨匠たち”シリーズ(GRシリーズ)の一枚である。同シリーズは、EMIがSPレコード時代に収録した巨匠と呼ばれていた名演奏家の録音を、新たにLPレコードに収録し直したもの。バリトンのシャルル・パンゼラ(1896年―1976年)が、妻のマドレーヌ・パンゼラのピアノ伴奏で、フォーレの歌曲を歌ったのがこのLPレコード。シャルル・パンゼラは、スイス出身。パリ音楽院で学ぶことになるが、この時の院長がフォーレであった。このことからパンゼラは、フォーレから歌曲集「幻想の水平線」の献呈を受け初演し、絶賛を浴びた。このことで、パンゼラの名前は一躍知れ渡ることになる。また、同窓生には後でパンゼラの妻となるピアニストのマドレーヌ・バイヨがおり、生涯に渡ってパンゼラのピアノ伴奏役を演じた。同音楽院で学び始めたころ、第一次世界大戦が勃発し、パンゼラは志願兵として一時参戦することになる。戦争から戻り、その後、同音楽院を終了し、1919年にパリのオペラ・コミック座でデビューを果たす。オペラ・コミック座では、数々の役を演じたが、中でもドビュッシーのオペラ「ペレアスとメリザンド」のペレアス役がはまり役となり、以後、各国でも演じ絶賛を浴びる。パンゼラは、バリトンでもリリック・バリトンと呼ばれる高い音域のバリトン歌手であった。パリ音楽院で学び、フランスを中心に活躍したので、パンゼラは、フランスのオペラや歌曲のスペシャリストとして、日本でも多くのファンを有していた。フランスの歌曲は、ドイツのリートとは異なり、茫洋としたメロディーが延々と続くイメージがあるが、パンゼラにかかると、その印象は一変し、曲の表情が明るく豊かで、明確な輪郭を描くようになる。録音も活発に行い、このLPレコードのフォーレの歌曲のほか、コルトーをピアノ伴奏にシューマン:歌曲集「詩人の恋」のほか、モーツァルト、ベートーヴェン、ワーグナー、ベルリオーズなど幅広いレパートリーにわたっており、一般的なフランスの歌手とは少々毛色が違っていた。このLPレコードに収録された時期は、パンゼラの全盛時代。このLPレコードでのパンゼラの歌声は、いずれも表情豊かで、生き生きと、輪郭のはっきりとした歌唱法に徹している。日本人にとって比較的分かりにくいフランス歌曲を、身近に感じさせてくれる歌い方だということが実感できる。このLPレコードの最後に、フォーレが若きパンゼラに献呈した生涯で最後の歌曲集「幻想の地平線」が収録されている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇イーヴ・ナットのベートヴェン:ピアノソナタ第1番/第7番/第8番「悲愴」

2021-08-09 09:40:23 | 器楽曲(ピアノ)

 

ベートヴェン:ピアノソナタ第1番/第7番/第8番「悲愴」

ピアノ:イーヴ・ナット

LP:東芝EMI EAC‐30219

 これは、イーヴ・ナット(1890年―1956年)のベートーヴェン:ピアノソナタ全集からの1枚のLPレコードだ。イーヴ・ナットは、フランス人なのであるが、ベートーヴェンを演奏すると、実に骨格のはっきりした、強い主張を持った曲づくりをする。しかし、フランス人特有の洒落たセンスでもって弾きこなすので、ドイツ人が弾くベートーヴェンのような武骨さが表面に立つことはない。指揮者でいえば、ほぼ同時代に活躍した同じフランス人のアンドレ・クリュイタンス(1905―1967年)が指揮するベートーヴェンの交響曲のような印象を受ける。イーヴ・ナットは、幼くして音楽の才能を示したようで、サン=サーンスやフォーレにパリ音楽院への進学を勧められ、同楽院で学ぶ。1909年に、ドビュッシーに連れられてイギリスに渡り、高い評価を受け、その後、ヨーロッパやアメリカで演奏旅行を行い、その地位を確かなものにしてい行く。1934年に、母校パリ音楽院での教育と、自らの作曲活動に集中するため、演奏活動を一度は退いたが、1950年代に入るとピアノの演奏活動を再開。そして、1951年から1955年にかけてベートーヴェンのピアノ・ソナタの全曲録音を行い、今回のLPレコードはその中の一枚。ベートーヴェンのピアノソナタ第1番は、3曲からなる作品2の中の最初の曲。3曲ともウィーンで作曲され、ハイドンに献呈されている。劇的な情熱に富んだ書法は、エマニエル・バッハの影響によるものと考えられてる。第1番は、「アパショナータ(熱情)」と同じヘ短調で、雰囲気も似ていることから「小アパショナータ」と呼ばれることがある。第2曲目のピアノソナタ第7番は、1798年に出版された3曲からなる作品10の中の第3番目の曲。ベートーヴェンのピアノソナタの最初の傑作として知られている。第3曲目のピアノソナタ第8番は、ベートーヴェン自身により、「悲愴」と名付けられている。青春の烈しい気概とロマン溢れる内容は、広く親しまれている。これら3曲の演奏でイーヴ・ナットは、ベートーヴェンの世界を簡潔に、そして起伏のある、適度な広がりを持った表現に徹する。思わせぶりなところは少しもない。淡々とベートーヴェンに向き合い、素直にベートーヴェンの心の内を探り当てているようでもある。イーヴ・ナットは、自らをひけらかすことは全くと言っていいほどない。むしろ、一歩引いた演奏といった方が適切かもしれない。しかしそれが、曲を聴き終えた時には、リスナー一人一人の中にしっかりと受け止められ、忘れようにも忘れられないような強い印象を遺す。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ディヌ・リパッティのバッハ:ピアノ協奏曲第1番/ブラームス:「愛の歌」

2021-08-05 09:51:59 | 協奏曲(ピアノ)


バッハ:ピアノ協奏曲第1番 BWV1052 (ライヴ録音:1947年10月2日)

  ピアノ:ディヌ・リパッティ

  指揮:エドゥアルト・ヴァン・ベイヌム
  管弦楽:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団

ブラームス:「愛の歌」op.52~四手のピアノと歌のためのワルツ~

  ソプラノ:ジャンヌ・ドゥ・ポリニャック
  メゾ・ソプラノ:イレーヌ・ケドロフ
  テノール:ユーグ・クエノー
  バス:ドダ・コンラート

  ピアノ連弾:ディヌ・リパッティ/ナディア・ブーランジェ

発売:1978年5月

LP:日本コロムビア OZ‐7549‐BS

 ディヌ・リパッティが遺したピアノ協奏曲のレコードは、まず、1950年8月23日、ルツェルン音楽祭において、カラヤン指揮でモーツァルトのピアノ協奏曲第21番を演奏したものがある。ディヌ・リパッティが遺したピアノ協奏曲のもう一つの録音は、1950年2月22日のジュネーブ、ヴィクトリアホールにおけるアンセルメ指揮スイスロマンド管弦楽団と共演したシューマンのピアノ協奏曲。こちらの方は、リパッティ没後20年を記念して、英デッカから発売となった。その後、もうディヌ・リパッティが遺したピアノ協奏曲の録音はあるまい、と思われていた時に、ひょっこりと発売されたのが、この、1947年10月2日にエドゥアルト・ヴァン・ベイヌム指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団と共演したバッハ:ピアノ協奏曲第1番 BWV1052の演奏会のライヴ録音盤である。1947年9月にリパッティは、イギリスを訪問して、演奏会のほかに、グリーグ:ピアノ協奏曲とショパンのワルツをレコーディングした。その帰途にオランダに立ち寄り、アムステルダムのコンセルトヘボウの大ホールで演奏会を開催した時の録音が、このLPレコードのバッハ:ピアノ協奏曲第1番 BWV1052というわけである。原盤はアセテートの78回転盤。このため、音質はぎりぎり鑑賞に耐えうる、といった感じであり、現在の録音レベルとは比較はできない。しかし、そのことさえ我慢すれば、この録音は1947年という、リパッティの最盛期の演奏会の模様が収められている、リパッティを知る上で誠に貴重な録音なのである。演奏内容は、リパッティの特徴である、輪郭のはっきりとした、透明感あふれる名演を聴き取ることができる。特に第2楽章のつぶやくような、しみじみとした情感あふれる演奏を聴くと、リパッティはつくづく不世出のピアニストだったのだという感慨にとらわれる。第1楽章と第3楽章は、一部の隙もない、軽快なテンポに加え、リパッティ一流のロマン感覚をたっぷりと注ぎ込んで、バッハの世界を思う存分描き切っている。一方、このレコードのB面には、20歳のリパッティが恩師のナディア・ブーランジェ(1887年―1979年)と一緒にピアノ連弾で伴奏をした録音。ブーランジェは、フランスの作曲家・指揮者・ピアニスト・教育者で、特に音楽教師として数々の名演奏家を育てたことで知られる。ブラームス:「愛の歌」op.52は、愛らしい18曲からなる、混声四重唱と連弾のためのワルツ集。ここでの演奏内容は、先生と教え子達が仲睦まじく演奏する、心温まる雰囲気が伝わってくる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇アルテュール・グリュミオーの珠玉のヴァイオリン小品集

2021-08-02 09:45:17 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


~アルテュール・グリュミオーの珠玉のヴァイオリン小品集~

パラディス:シチリアーノ
モーツァルト=クライスラー編:ロンド
グルック=クライスラー編:メロディ
グラナドス=クライスラー編:スペイン舞曲第5番「アンダルーサ」
クライスラー:美しきロスマリン
クライスラー:愛の悲しみ
クライスラー:愛のよろこび
ヴェラチーニ:アレグロ
ヴィヴァルディ:シチリアーノ
ルクレール:タンブーラン
ベートーヴェン:ト調のメヌエット
シューベルト:アヴェ・マリア
ドヴォルザーク:ユーモレスク
マスネー:タイスの瞑想曲
チャイコフスキー:感傷的なワルツ

ヴァイオリン:アルテュール・グリュミオー

ピアノ:イストヴァン・ハイデュ

発売:1978年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード)X-8557

 これは、名ヴァイオリニストのアルテュール・グリュミオー(1921年―1986年)が、珠玉の小品15曲を収めたLPレコードである。これらの小品は、LPレコードの持つ音質に非常によく馴染む。特に、端正で美しい音色が特色のフランコ・ベルギー楽派の最後のヴァイオリニストのアルテュール・グリュミオーを偲ぶには、これに勝る記録媒体はあるまい。グリュミオーが弾くヴァイオリンの微妙な音色が、レコード針を通してひしひしと伝わってくる。最近になり、このようなLPレコードの優れた音質に対して再評価の動きも出てきている。このLPレコードに収録された小品の概要は次の通り。最初の曲のパラディス:シチリアーノは、幼いころから目がまったく不自由であった貴族の娘のパラディスが作曲した曲。モーツァルト=クライスラー編:ロンドは、ハフナー・セレナードの第3楽章をクライスラーがヴァイオリン独奏用に編曲したロココ風の優美な曲。グルック=クライスラー編:メロディは、グルックの歌劇の中の、精霊たちがフルートの音色ににつれて踊るエレガントな曲。グラナドス=クライスラー編:スペイン舞曲第5番「アンダルーサ」は、グラナドスのピアノ独奏曲「12のスペイン舞曲」の中の第5番で、スペイン南部アンダルシア地方の雰囲気が巧みに描かれている。クライスラー:美しきロスマリン/愛の悲しみ/愛のよろこびの3曲は、クライスラーの書き下ろした作品で、ウィーンの古い民謡を素材としたもので、3拍子の舞曲レントラーのリズムによっている。ヴェラチーニ:アレグロは、18世紀前半のイタリアのヴァイオリニストのヴェラチーニが作曲したソナタop.1-7の終楽章で、ヴェラチーニの名人芸を髣髴とさせる作品。ヴィヴァルディ:シチリアーノは、ヴィヴァルディが作曲した2つのヴァイオリンとチェロのための協奏曲の第2楽章「ラールゴ」によるもの。ルクレール:タンブーランは、18世紀前半のヴァイオリニスト兼作曲家であったルクレールのヴァイオリンソナタop.2-4の終楽章で、タンブーラン舞曲独特の低音ときびきびした曲調を巧みに取り入れた魅力ある曲。ベートーヴェン:ト調のメヌエットは、ベートーヴェンが青年時代作曲した6曲のメヌエットWoO10の第2曲。これらの小品をアルテュール・グリュミオーは、一曲一曲実に丁寧に、しかも典雅に弾き込んでおり、ヴァイオリンの音色の光り輝く様子を、このように自然に捉えた録音は、滅多にお目にかかれるものではない。 (LPC)

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