★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇カラヤン指揮ウィーン・フィルのベートーヴェン:交響曲第7番

2020-11-12 09:39:34 | 交響曲(ベートーヴェン)

ベートーヴェン:交響曲第7番

指揮:ヘルベルト・フォン・カラヤン

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1977年

LP:キングレコード(LONDON) GT 9127

 カラヤンは日本へは何回来たのであろうか。調べてみると合計11回だったようだ。このLPレコードの発売は、7回目の1977年の時のものであろう。これらのうち、私は1981年10月31日、東京文化会館でのブラームス:交響曲第4番/交響曲第2番の演奏会を聴いたことを昨日のように思い出す。この頃、既にカラヤンの体調に異変が生じつつあったようで、片足を引きずりながら指揮台に登壇したのを見た時には一瞬びっくりした。その痛々しい姿が今でも目に焼き付いて離れない。逆に言うと、そうまでしてカラヤンは、日本公演に拘ったとも言うことができる。カラヤンは大のメカ好きで、当時の日本の音響機器には世界最高の製品が数多くあり、そんなこともカラヤンが日本に引き付けられた一因にもなっていたようでもある。カラヤンが亡くなった時に、その部屋に居たのは元バリトン歌手で当時のソニー社長の故大賀典雄氏であったことでも、カラヤンと日本の因縁の深さを感じざるを得ない。さて、このLPレコードのジャケットの帯には、「カラヤン/ウィーン・フィルのステレオによる唯一のベートーヴェン」と記載されている。正に貴重な録音なのだ。そういえばカラヤンはベルリン・フィルとの録音は数多く残しているが、ウィーン・フィルとの録音はそう多くはないことに思い当たる。そもそもウィーン・フィルは常任指揮者を置かないし、プライドも高そうなので、帝王カラヤンといえどもそう気易く指揮をするわけにいかなかったもしれない。それを裏付けるように、このLPレコードのA面のベートーヴェン:交響曲第7番の第1楽章および第2楽章を聴くと、いつもの“カラヤン節”は、少々湿りがちで、全開に至っていない。やはり、両者(カラヤンとウィーン・フィルの団員)が互いに様子見の綱引きをやっているように私には聴こえる。ワーグナーがこの7番を「舞踏の神化」となぞらえたような活力が聴き取れない。第1楽章および第2楽章の演奏だけを聴くと、何かを手探りで模索してしているかのような演奏に終始する。ところが、B面の第3楽章および第4楽章に入ると、ようやくにいつもの“カラヤン節”が全開する。その鋼鉄のような力強い表現に圧倒される。同時に「舞踏の神化」そのものの軽快な音の運びは聴いていて心地よい。特に第4楽章に入ると、弦、管、打楽器の全てがカラヤンの棒の下に結集して圧倒的な効果を発揮する。このLPレコードを聴くと、やはり帝王カラヤンをもってしても、ウィーン・フィルを統率するには一筋縄ではいかなかったのではなかろうか、との思いに至った録音ではあった。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇アマデウス四重奏団とウィーン・コンツェルトハウス四重奏団のモーツァルト:弦楽五重奏曲第4番/第6番

2020-11-09 09:44:52 | 室内楽曲

モーツァルト:弦楽五重奏曲第4番/第6番

<第4番>

アマデウス四重奏団
セシル・アロノウィッツ(第2ヴィオラ)

<第6番>

ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団
フェルディナント・シュタングラー(第2ヴィオラ)

発売:1964年 

LP:キングレコード(ウェストミンスター) MH5164

  モーツァルトは、弦楽五重奏曲を6曲、つまり第1番K.174、第2番k.406(516b)、第3番K.515、第4番K.516、第5番K.593、第6番K.614を作曲している。ところがこのLPレコードのジャケットには、「第5番K.516」「第7番K.614」と記載されているのだ。これは多分、現在では偽作と見なされている「13管楽器のセレナーデ」を編曲したK.46を第1番にしたためと思われる。つまり今回のLPレコードで演奏されているのは、第4番と第6番である。弦楽五重奏曲第3番と第4番の関係は、よく交響曲第40番と第41番の関係になぞらえられる。短調と長調の順番が逆ではあるが、弦楽五重奏曲第3番は交響曲第41番に、弦楽五重奏曲第4番は交響曲第40番に類似しており、いずれの曲も、その内容は、モーツァルトの曲の中でも一際充実したものとなっている。そして弦楽五重奏曲第6番もモーツァルト晩年の憂愁を含んだ名曲として知られている。今回演奏しているのは、第4番が第2ヴィオラにセシル・アロノウィッツを加えたアマデウス四重奏団、第6番が第2ヴィオラにフェルディナント・シュタングラーを加えたウィーン・コンツェルトハウス四重奏団である。アマデウス弦楽四重奏団は、1950年代から1970年代に活躍した弦楽四重奏団で、実に39年間という長きにわたり同一メンバーで活動を行った団体でもあった。ここでは、まるで羽毛が風に揺れ動いているかのような、優雅でロマンティックな演奏に終始する。このためモーツァルトの短調の曲が持つ陰鬱で暗いという印象よりも、仄かな憂いを含んだ優美さが、ここでは最善の形となって表現され切っている。ある意味、天上の音楽の表現とでも言ったらよいのであろうか。これほど微妙な表現力を持ったカルテットには、現在あまりお目にかかれなくなってしまった。一方、ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団は、ウィーン・フィルの第一ヴァイオリン奏者の一人、アントン・カンパーを中心として結成された弦楽四重奏団。名前の通りウィーン情緒たっぷりとした表現力を特徴とし、当時はバリリ四重奏団と双璧をなすカルテットとして多くのファンを有していた。ここでの演奏は、ウィーン情緒というより、メリハリの利いたすっきりとした演奏内容を披露する。モーツァルト晩年に書かれたこの弦楽五重奏曲第6番は、悟りの心境にも似た静かな安らぎの精神性に満ちた曲だが、そんな曲を、一見淡々として弾き進む。その演奏は、モーツァルトに対する限りない敬愛が込められていることが聴き取れ、聴き終えた後に深い満足感を得ることができる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のチャイコフスキー:幻想序曲「ロミオとジュリエット」/弦楽セレナード

2020-11-05 09:42:13 | 管弦楽曲

チャイコフスキー:幻想序曲「ロミオとジュリエット」
         弦楽セレナード

指揮:シャルル・ミュンシュ

管弦楽:ボストン交響楽団

発売:1974年

LP:ビクター音楽産業(RCA) RGC‐1148

 フランスの名指揮者のシャルル・ミュンシュ(1891年ー1968年)は、ドイツで生まれ、のちにフランスに帰化する。ゲヴァントハウス管弦楽団でコンサートマスターを務めた後、1929年にパリで指揮者としてデビュー。以後、就任したオーケストラを挙げると次の通りとなる。パリ音楽院管弦楽団首席指揮者(1937年―1946年) 、コンセール・コロンヌ首席指揮者(1956年―1958年)、フランス国立管弦楽団音楽監督(1962年―1968年) 、ボストン交響楽団常任指揮者・音楽監督(1949年―1962年)、パリ管弦楽団首席指揮者(1967年―1968年) 。ミュンシュは、フランスとドイツの両方の国からの影響を受け育ったことから、典型的なフランス系指揮者とは少々異なり、よりインターナショナルな感覚の音楽表現を行い、これが多くのファンの心を掴んだと言えそうである。今回のLPレコードには、ボストン交響楽団とのコンビで、チャイコフスキーの幻想序曲「ロミオとジュリエット」と弦楽セレナードが収められている。チャイコフスキーの音楽というと、ロシアの風土に根差した、ある意味泥臭い演奏が多いが、ここでのシャルル・ミュンシュとボストン交響楽団のコンビの演奏は、ロシアの音楽ということをあまり意識せず、インターナショナルな感覚で演奏されており、その分、素直に音楽に入っていくことができる。特に、幻想序曲「ロミオとジュリエット」の情熱的な演奏が光る。ミュンシュが全力を挙げてオーケストラの持てる力を発揮させようとする意気込みが、このLPレコードを介してリスナーにひしひしと伝わってくる。ボストン交響楽団もそんなミュンシュの期待に応えるかのように、見事な演奏を披露する。もともとボストン交響楽団は、弦と管のバランス感覚が抜群に良いオーケストラなのであるが、ここでの演奏は、そういった特徴を最大限に発揮させ、見事な効果を挙げている。スケールを大きくとって、ダイナミックな表現に徹するその演奏を聴くと、ボストン交響楽団が世界の一流オーケストラとして君臨してきたことが手に取るように分かる。これは、チャイコフスキー:幻想序曲「ロミオとジュリエット」が、独立したオーケストラ作品として魅力満々の作品であることを証明した録音とでも言えよう。これに対して、B面のチャイコフスキー:弦楽セレナードの演奏は、少々常識的な演奏に収まってしまった感がないでもない。エネルギーの発散のどころがいまいち明確でないように思われる。とは言いながら、都会的、現代的なセンスを備わった演奏として、完成度が高い録音であることも事実だ。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇リリー・クラウスのモーツァルト:幻想曲K.475/ピアノソナタ第14番/第6番

2020-11-02 09:33:32 | 器楽曲(ピアノ)

モーツァルト:幻想曲K.475
       ピアノソナタ第14番
       ピアノソナタ第6番

ピアノ:リリー・クラウス

LP:東芝EMI EAC‐30130

 このリリー・クラウス(1903年―1986年)によるモーツァルトのピアノ・ソナタ全集が録音された経緯には、次のようなドラマが隠されている。リリー・クラウスは、ブタペストで生まれた。8歳でブタペスト王立音楽院に入学の後、17歳で卒業し、ウィーン音楽院のマスタークラスに進み、卒業と同時に若くして、同校の教授に迎えられたというから、順風満帆の音楽家人生のスタートを切ったようだ。ヨーロッパ全域で演奏活動を繰り広げ、既にモーツァルト弾きとしての第一人者に数えられるほどになっていた。20代の後半からは、ヴァイオリンの名手のシモン・ゴールドベルクと組んで、モーツァルトとベートーヴェンのヴァイオリンソナタ連続演奏会を開催することになるが、これが大好評を得て、1936年には来日も果たしている。第二次世界大戦中も二人で世界演奏旅行を行っていたが、そんな中、1942年、たまたまジャワ島にいたいた時に、旧日本軍の進攻とぶつかり、捕虜として日本軍の収容所で3年間を過ごさざるを得なくなってしまう。そして、9年ぶりに帰ったヨーロッパでリリー・クラウスは、今までにも増して大歓迎を受けることなる。そんな時に企画されたのが、このLPレコードなのである。当時、リリー・クラウス48歳とピアニストとして円熟の境地にあった時の録音である。その後、リリー・クラウスは60歳の時に再録音をしたが、演奏の輝かしさでは、この最初の録音に軍配が上がるというのが大方の見方である。早速このLPレコードの針を下して聴いてみよう。幻想曲K.475である。リリー・クラウスのピアノは、ゆっくりとしたテンポで始まる。重々しく、同時に優雅さも損なわずに弾き進む。その響きは何か独白のようでもあり、内省的な美しさに満ち溢れた演奏である。次の曲は ピアノソナタ第14番。このピアノソナタは、17曲あるモーツァルトのピアノソナタの中で、第8番とともに短調の作品である。それだけに曲全体に緊張感が漂い、リリー・クラウスの演奏も、幻想曲K.475にも増して激しい闘争心のような力強さが加わる。しかし、その合間に時折訪れる静寂の世界の表現は、リリー・クラウスでしか表現できない透明感溢れるもので、モーツァルトの哀しみの心を映し出す。そして最後のピアノソナタ第6番。ここでのモーツァルトは天真爛漫そのものであり、リスナーもその幸福感溢れる世界を存分に堪能できる。ここでのリリー・クラウスの躍動感溢れる演奏は、正に天国的といっていいもの。あたかも天使の翼に乗って天空を舞うようでもあり、軽快なテンポがいつまでも耳に残る。(LPC)

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