シューベルト:交響曲第8番「未完成」
交響曲第3番
指揮:エドゥアルト・ファン・ベイヌム
管弦楽:アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音:1957年5月23日~25日(8番)/1955年6月6日~9日、アムステルダム・コンセルトヘボウ
発売:1976年
LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) PC‐5511
このレコードは、名指揮者エドゥアルト・ファン・ベイヌム(1901年―1959年)が、長年にわたり常任指揮者を務めた名門オーケストラ、アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団を率い、シューベルトの交響曲を録音したもの。ベイヌムは、オランダ東部の町アルンヘムで生まれ、アムステルダム音楽院で学び、最初はピアニストとしてデビューしたが、その後指揮者に転向した。1938年、メンゲルベルクとともにアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団の首席指揮者に就任。第二次世界大戦後の1945年、メンゲルベルクがナチスへの協力の廉でスイスに追放されると、ベイヌムはメンゲルベルクの後をついで、コンセルトヘボウ管弦楽団の音楽監督兼終身指揮者に就任。同時にロンドン・フィルやロサンゼルス・フィルの首席指揮者を務めるなど、世界的に活躍したが、1959年にリハーサル中に心臓発作で倒れ、57歳の若さで急逝した。アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団は、メンゲルベルク時代は、指揮者が強力な個性でオーケストラを統率し、解釈も旧式な演奏スタイルをとっていたが、ベイヌム時代に入ると、オーケストラの自主性を尊重し、その演奏スタイルも近代的に一変し、オーケストラの能力を大きく向上させることに成功したと言われる。このレコードのシューベルト:交響曲第8番「未完成」において、ベイヌムはオーケストラに充分に歌わせると同時に、適切な抑制力で流れるように演奏する。一切の既成概念を取り払い、今曲が書かれたかのような、実に活き活きとした表情づくりに成功している。「未完成交響曲」は、生の演奏と録音の両方で最も演奏されることの多い曲であり、新たな感動を受けることはそれほど多くはない。しかし、このレコードの演奏内容は、全くそんなことを感じさせず、初めてこの曲を聴いた時のような新鮮な感動を受けることができる。これは、ベイヌムはもちろんのこと、オーケストラのメンバーの一人一人がシューベルトの音楽をこよなく愛し、心からの共感の下に演奏したからにほかあるまい。現在のオーケストラの演奏技術は当時より向上しているかもしれないが、このLPレコードの演奏のような、心の底からゆすぶられるような演奏内容は、そう滅多にお目にかかれるものではない。ベイヌムとアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団のコンビによる録音は今、時代とともに忘れ去られようとしていることが、何とも情けなく、悲しいことだ。(LPC)