ブラームス:ピアノ四重奏曲第2番
ピアノ:イエルク・デムス
弦楽:バリリ四重奏団員
発売:1971年
LP:キングレコード(Westminster) MZ5087
ブラームスは1859年に、生まれ故郷であるハンブルクに居を構え、それまでの演奏活動を一区切りさせ、作曲に専念することになる。ここでの生活はかなり快適であったようであり、「ヘンデルの主題による変奏曲」、ピアノ四重奏曲第1番ト短調、ピアノ四重奏曲第2番イ長調、ピアノ五重奏曲、弦楽五重奏曲、女声合唱曲など、室内楽を中心に名曲を生むことになる。ブラームスは、生涯に第1番ト短調、第2番イ長調、第3番ハ短調の3曲のピアノ四重奏曲を作曲した。今回のLPレコードは、第1番のほぼ1年後の1862年に完成した第2番である。第1番が暗い情熱のような重い曲であるのに対し、第2番は明るく牧歌的で、抒情味のある曲に仕上がっている。差し詰め交響曲でいうと第1番と第2番の違いといったところか。ブラームスが生前の時は、第2番の方が人気があったようであるが、現在は、第1番の方が演奏される機会が多い。この原因として考えられるのは、第2番の演奏時間は50分ほどかかるので、忙しい生活を強いられている現代人にとっては、時間の点から第2番はどうも気軽に聴ける曲ではないことが影響しているかもしれない。今回第2番を聴いてみたが、どことなく弦楽六重奏曲第1番に似たところもある、内容の充実した曲だと見直した。ある意味では、ブラームス通にとっては必聴の曲と言えるのかもしれない。このLPレコードで、ピアノを演奏しているのは、オーストリア出身のイエルク・デムス(1928年―2019年)である。デムスは、ザルツブルク音楽院で学んだ後、1956年「ブゾーニ国際コンクール」で優勝し、一躍世界的なピアニストになる。かつて日本では、パウル・バドゥラ=スコダとフリードリヒ・グルダとともに“ウィーンの三羽烏”と呼ばれた。弦楽はバリリ四重奏団員たちによる。バリリ四重奏団はもともとウィーン情緒濃い演奏を持ち味としていたので、このLPレコードは、重厚なブラームスの曲を、ウィーン情緒たっぷりな演奏家の録音である。よく、ドイツ人作曲家の作品をフランス人の演奏家が演奏すると名演が生まれることがあるが、このLPレコードも似たようなことが言えそうだ。重厚さのある演奏なのではあるが、どことなくほのぼのとした昔懐かしい味わいがする演奏内容となっている。50分もする長い室内楽にもかかわらず、次から次に感興が湧き上がってくるような演奏内容なので、少しも飽きがこないのだ。イエルク・デムスとバリリ四重奏団員のような名人たちの手によると、このブラームス:ピアノ四重奏曲第2番の真価がよく聴き取れる。(LPC)